PTSでの信用取引が解禁 メリットは? 株式市場と株価への影響は?

目 次
信用取引解禁で存在感を高めるPTS
国内の株式市場でPTS(私設取引システム)の存在感が高まっています。きっかけは、2019年8月末に解禁になったPTSの信用取引。これまでPTSでは現物株取引しかできませんでしたが、金融庁が信用取引の取り扱いを解禁したことで、利用が広がったのです。
そもそもPTSとは
PTSとは、証券会社が運営する私設取引システムのことで、これを利用すれば、東京証券取引所を通さずに株式を取引することができます。
現在、日本のPTSには、SBIジャパンネクスト証券が運営する「ジャパンネクストPTS」と、チャイエックス・ジャパン運営の「チャイエックスPTS」の2つがあります。
そして、PTSが取引できる証券会社は、現在のところSBI証券・楽天証券・松井証券・マネックス証券・株ドットコム証券の5社です。
(参考記事)夜間でも株取引ができるPTS 上手な活用法と注意すべき落とし穴
PTS信用取引が2019年8月より開始
2019年8月より、ジャパンネクストPTSで信用取引が始まりました。チャイエックスPTSでも、12月からの開始を予定しています。
- ジャパンネクストPTS……2019年8月より信用取引開始
- チャイエックスPTS……2019年12月より信用取引開始(予定)
2019年10月現在、PTS信用取引が利用できるのは、SBI証券のみ。その概要は以下の通りです。
- 取扱銘柄……東京証券取引所で貸借銘柄、制度信用銘柄に指定されている銘柄のうち、SBIジャパンネクト証券が指定する銘柄
- 取引種類……制度信用取引、一般信用取引(返済のみ)
- 取引時間……9:00~11:30、12:30~15:00
- 手数料……PTS信用取引の手数料は、取引所取引より5%安い
ここで注意したいのは取引時間です。通常のPTS取引は、デイタイムセッション(8:20~16:00)とナイトセッション(17:00~23:59)があり、東証が閉まっている夜間でも取引できることがメリットのひとつですが、PTS信用取引は東証の取引時間と同じ。夜間取引で信用取引はできませんので注意しましょう。
なお、SBI証券以外の4社でも、今後、PTS信用取引を開始予定です。
- 楽天証券……2020年1月より開始予定
- 松井証券……検討中
- マネックス証券……2020年4月より開始予定
- カブドットコム証券……2020年1月より開始予定
PTS信用取引解禁が株式市場に与える影響
PTSでの信用取引が解禁されたことで、株式市場にはどんな影響があるのでしょうか。
東証一極集中の流れが変わる
ジャパンネクストPTSにおける信用取引は、2019年8月末からスタートしました。運営するSBIジャパンネクストが発表したデータによれば、8月26~30日の株式売買代金は1日平均944億円。この前週(8月19日~23日)の654億円から1.4倍に膨らみました。
そして、ジャパンネクスト証券の売買シェアは、PTS信用取引解禁前の3%近辺から4.14%に上昇。10月の第1週には5.2%を占めるまでになりました。
これは、長らく続いてきた「東証一極集中」の流れが変わってきたことを示しています。
日本では、これまで株取引の9割が東京証券取引所に集中してきました。その理由のひとつが、PTSでは現物株しか取引できないことでした。というのも、実は、個人投資家の売買の7割は信用取引が占めているのです。したがって、現物株しか取引できないPTSの魅力は薄かったといえます。
しかし、信用取引が解禁されたことで、多くの個人投資家がPTSを利用するようになりました。12月にはチャイエックスPTSでも信用取引が始まり、楽天証券やマネックス証券などもPTS信用取引に対応するようになれば、より取引が活発化しそうです。
このようにしてPTSそのものの存在感が高まれば、東証の寡占状況になっている日本の取引所の競争が活性化すると考えられます。
SORサービスによる流動性拡大
PTSに対応している証券会社では、投資家から取引の注文が入ったとき、東証とPTSの株価を比べて、有利な条件のほうに発注する「SOR(スマート・オーダー・ルーティング)注文」を提供しています。
つまり、このSOR注文を利用すれば、東証だけで取引しているよりも有利な価格で約定できる可能性があるのです。
これまでもSOR注文は現物株で使えましたが、信用取引での利用が広がれば、PTS市場の取引も増えることが予想されます。市場に厚みが出れば、HFT(高頻度取引)の業者や機関投資家もPTS市場を重視し、流動性の拡大にもつながっていくでしょう。
アメリカでは手数料無料化が進む
東証一極集中の日本と違い、アメリカにはPTSを含め10以上の取引所があり、ニューヨーク証券取引所とナスダック市場を合わせても4割程度の売買シェアしかありません。各取引所には、もっとも良い価格を提示する「最良執行義務」があり、価格やサービス内容で競争しています。
また、証券会社でも、取引所での取引を通さず、投資家同士の注文をマッチングさせる「ダークプール」の取引も活発です。そのためアメリカでは、個人投資家を含む全注文のうち約40%は取引所外で行われているといわれています。
こうした取引所や証券会社での株取引の激化により、インタラティブ・ブローカーズやチャールズ・シュワブ証券などでは、アメリカ株の取引手数料を無料にする動きも始まっています。
日本でも、SBI証券のPTS取引手数料は、東証よりも5%安くなっています。PTS市場の取引が増えれば、競争激化によって手数料が引き下げや無料化といった期待もできるでしょう。
ただしアメリカでは、取引所外取引の拡大は価格形成の透明性を歪めている、との指摘もあります。そのため、取引所外取引の中には、取引所が公表する価格と別の値付けを行っているところもあるのです。
株価への影響は?
PTSでの信用取引解禁は、投資家にとって歓迎すべきことといえます。これまでPTSの市場規模は伸び悩んでいましたが、個人投資家の売買の7割を占める信用取引がPTSでできるようになったことで市場が活性化され、東証一極集中からサービス競争の時代へと移り変わっていくかもしれません。
ちなみに、PTS信用取引は、東証が開いている時間しか取引できないため、株価への影響は限定的と考えてよさそうです。しかし、今後PTSへの市場参加者が増えて夜間取引でも信用取引ができるようになれば、翌日の株価への影響力が大きくなることも考えられます。
2020年には楽天証券やマネックス証券などもPTS信用取引を開始する予定です。PTSの売買シェアがどれだけ上がるか注目されます。
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