「逆イールド」でいよいよ景気後退が始まるのか? 過去はどうだったのかを検証

山下耕太郎
2022年3月31日 8時30分

《アメリカ国債の長短金利が逆転する「逆イールド」が再び発生。景気後退の予兆とも言われますが、そもそも逆イールドとは? 気になる株式市場への影響は?

なぜ逆イールドが注目されるのか?

2019年8月14日のアメリカ株式市場で、ダウ工業株30種平均が800ドル下落しました。きっかけは、アメリカの国債市場で長短金利の逆転現象、「逆イールド」が起こったことです。

この逆イールドは「景気後退の予兆」とされ、マーケット関係者は警戒しています。しかし、本当に逆イールドが起こると景気は後退するのでしょうか? また、日本市場にはどのような影響があるのか。逆イールドが与える影響を、過去の例をひきながら考えてみます。

そもそも「逆イールド」とは

逆イールドとは、満期までの期間が長い債券の利回りが、短い債券の利回りよりも低くなることです。アメリカ国債では、長期金利の指標となる10年債国債の利回りと、2年物・3カ月の国債の利回りを比較するのが一般的です。

債券の利回り(金利)と償還期間との相関性を示したグラフを「イールドカーブ」といいます。利回り曲線ともいい、債券投資で重要視される指標の一つです。

通常、イールドカーブは右上がりの曲線(順イールド)になります。期間が長いほど価格変動などのリスクが高くなるので、投資家がリスクに見合った利回りを要求するからです。しかし、長期債の利回りが短期債の利回りを下回る場合があります。これが「逆イールド」です。

逆イールド、つまり長短金利の逆転が生じるのは、現在の景気が良くても将来は低迷する可能性がある、と考える投資家が多いからです。

短期債の利回りは、FRBアメリカ連邦準備制度理事会)が決める政策金利の影響を強く受けますが、長期債の利回りは投資家の将来への見通しによって決まります。将来の見通しに不安を持つ投資家が多くなると長期債に買いが集まり、その結果、長期金利が低下するのです。

逆イールドとアメリカ景気の関係

逆イールドが、株式市場でここまで注目されていることには理由があります。

アメリカでは1988年以降に3度、10年債と2年債の逆イールドが起きているのですが、いずれもその1~2年後に景気後退しているのです。そのため、2019年8月の逆イールドも「景気後退のサインが点灯した」とみなす声が多くありました。

ここでいう景気後退とは、実質国内総生産(GDP)が連続してマイナスになるなど、経済活動が縮小・衰退する状態です。前回のアメリカの景気後退局面は、リーマンショックを含む2007年12月~2009年6月でした。その後は回復し、2019年7月には史上最長となる11年目の景気拡大期に入っていました。

しかし、その1か月後の8月に逆イールドが発生。2018年に新興国を中心に世界経済が減速した中でも「アメリカ1強」の状態が続いていましたが、そのアメリカ経済にも後退の兆しが出始めたことを逆イールドが示唆している……と考えられるのです。

逆イールドが株式市場に与える影響

過去の例を見れば、逆イールドが、景気後退局面の前に高い確率で起こっていることは確かです。しかしながら、逆イールド発生後すぐに株式市場が下落トレンドになっているわけではありません。

・逆イールド発生後のダウ平均の推移

直近3回(※注:2019年8月より前の3回)の逆イールド発生から景気後退入りまでの期間におけるダウ平均の値動きを見てみましょう。実は、逆イールドが発生して景気後退局面に入るまで、いずれもダウは上昇しているのです。

あくまでも過去の例ではありますが、これを見る限りでは、逆イールドが発生したからといって直ちにアメリカ市場が下落相場になると考える理由はなさそうです。

・逆イールド発生後の日経平均株価の推移

同じ期間における日経平均株価の動きも確認しておきましょう。どの期間も、バブル崩壊や金融危機など日本固有の問題があったため、アメリカ株とは対照的な動きになっています。

このことからわかるのは、アメリカ市場の動向が必ずしも直接的に日本市場を動かすわけではない、ということです。今回(※注:2019年8月)の逆イールド発生によってアメリカが景気後退局面に入ったとしても、日本株がどうなるかは別の様々な要因にも影響を受けるはずです。

アルゴリズムが株式市場を揺らす

2019年8月の逆イールド発生時には、アメリカ市場は800ドルの大幅下落となりましたが、この主な要因はアルゴリズム取引だといわれています。アルゴリズム取引とは、コンピューターが株価やニュースなどに応じて自動的に売買注文を繰り返す取引のことです。

逆イールドに対するマーケットの関心が高いため、2年債と10年債の逆イールド発生を売りのトリガーにしていたアルゴリズムが多かったと考えられます。指標発表や売買シグナルに合わせて大きくポジションを傾ける「ディレクショナル(方向)型」と呼ばれるアルゴリズム戦略です。

個人投資家としては、「逆イールドが発生したからといってすぐにアメリカ市場が下落トレンドになるわけではないものの、アルゴリズム取引によって瞬間的に大きく下がることはある」と念頭に置いておく必要があります。また、逆イールドが発生したことで株価の変動率(ボラティリティ)が高まっている点にも警戒が必要でしょう。

しかしながら、瞬間的なニュースや変動に慌てないためには、事象の背景や過去の例を含めた根本的な理解を心がけることが重要です。

※本記事は再掲載です(初出:2019年8月30日)

[執筆者]山下耕太郎
山下耕太郎
[やました・こうたろう]一橋大学経済学部卒業。証券会社でマーケットアナリスト・先物ディーラーを経て、個人投資家に転身。投資歴20年以上。現在は、日経225先物・オプションを中心に、現物株・FX・CFDなど幅広い商品で運用を行う。趣味は、ウィンドサーフィン。ツイッター@yanta2011 先物オプション奮闘日誌
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