決算発表に遅刻した企業の「言い訳」から、その内情を読み解いてみる
企業の決算発表には、決算日から45日以内に発表せよ、という「45日ルール」があります。3月末日決算であれば、5月15日がその締切日です。
ただし、実質的には「50日まではセーフ」とされている現状もあります。それなのに、その50日にすら遅れてしまう企業があるのです。一体、そこにはどんな理由があるのでしょうか? また、それら遅刻企業の株価や業績はどうなっているのでしょうか?
2018年3月期の決算発表が遅れてしまった各社の言い訳と、その内情を調べてみました。
決算発表の遅刻ルール
決算発表が45日以内に行われず、さらに50日にも間に合わなかった場合について、東京証券取引所の「決算短信・四半期決算短信 作成要領等」は以下のように指示しています(*本記事での「決算発表」とは、決算短信の開示です)。
事業年度又は連結会計年度に係る決算の内容の開示時期が、決算期末後50日(50日目が休日である場合は、その翌営業日)を超えることとなった場合には、決算の内容の開示後遅滞なく、その理由(開示時期が決算期末後50日を超えることとなった事情)及び翌事業年度又は翌連結会計年度以降における決算の内容の開示時期に係る見込み又は計画について開示してください。
つまり、「遅刻の理由を述べよ」ということです。50日という〝執行猶予〟すら守れなかったわけですから、当然と言えば当然です。
2018年3月期の遅刻社たち
2018年3月期で言えば、50日後にあたる5月20日が日曜日だったため、翌営業日の5月21日までが「セーフ」でした。そして、5月22日以降に決算短信を公表した「アウト」な企業は以下のとおり。
- 5月25日(4日遅れ):オンキヨー<6628>
- 5月30日(9日遅れ):シャクリー・グローバル・グループ<8205>、ブロードメディア<4347>
- 5月31日(10日遅れ):田淵電機<6624>
- 6月2日(12日遅れ):石原産業<4028>
- 6月4日(14日遅れ):五洋インテックス<7519>、GMB<7214>
- 6月8日(18日遅れ):光村印刷<7916>
- 6月20日(30日遅れ)予定:クレアホールディングス<1757>
なんと、決算期日から80日を経てようやく発表する企業もあるようですね。
2018年3月期・遅刻企業の言い訳
それにしても、なぜ決算発表が遅れてしまったのでしょうか? 各社の「遅刻の言い訳」に耳を傾けつつ、決算状況と過去1年の株価チャートもあわせて見ていきましょう。
【4日遅れ】オンキヨー<6628>の場合
遅延の理由
- 期中に構造改革を実施。決算数値の精査・確定に想定以上の時間がかかったため。
- 資本提携していたアメリカの老舗ギターメーカー「ギブソン」が2018年5月1日に連邦破産法第11章(日本の民事再生法)の申請を発表し、実質上の経営破綻状態に。それを受けて、取引先についても精査を行ったため。
決算状況
- 売上高: 51,533百万円(−7.8%)
- 営業利益: −1,023百万円(─)
- 経常利益: −1,947百万円(─)
- 当期純利益:−3,426百万円(─)
音響機器の老舗メーカー。前期は黒字だった営業利益も赤字になり、減収減益。決算発表の遅延理由にある「構造改革」とは、要するにリストラです。本業が振るわないためコストカットで対処するという苦しい状況の中、株価は期初に上がってからは、ほぼ右肩下がりで推移しています。
【9日遅れ】シャクリー・グローバル・グループ<8205>の場合
遅延の理由
- 2017年12月にアメリカで施行された税制改正の影響で決算作業に時間を要したため。
決算状況
- 売上高: 28,725百万円(−6.4%)
- 営業利益: 826百万円(−12.3%)
- 経常利益: 357百万円(94.8%)
- 当期純利益:−871百万円(─)
遅刻の理由に挙げているアメリカの税制改正は、実に30年ぶりの大規模改正でした。ネットワークマーケティングを手がける同社は、もともと発祥がアメリカで、現在でも最も売上高が高いのは北米。その規模は日本の2倍以上です。そのため、アメリカの法改正が大きく影響したようです。
【9日遅れ】ブロードメディア<4347>の場合
遅延の理由
- 連結子会社である株式会社釣りビジョンにおいて、委託先による過去10年にわたる架空取引が2018年1月末に発覚。その調査に時間を要したため。
決算状況
- 売上高: 10,880百万円(3.7%)
- 営業利益: 86百万円(121.6%)
- 経常利益: 79百万円(─)
- 当期純利益:−232百万円(─)
決算内容としては前期から増収増益(この数値は架空取引の全取引を取り消す工程を行った後のもの)でしたが、架空取引を発表した2018年1月末に、チャートに〝窓〟を開けるほど株価を下げていることがわかります。
【10日遅れ】田淵電機<6624>の場合
遅延の理由
- 海外拠点の減価償却資産の減損処理等に関して監査法人と見解の相違が生じ、確定に時間を要したため。
決算状況
- 売上高: 26,417百万円(1.0%)
- 営業利益: −4,361百万円(─)
- 経常利益: −4,432百万円(─)
- 当期純利益:−8,830百万円(─)
前期から増収減益。営業益以下は2年連続の赤字です。株価のほうは、1年を通じて見ると横ばいながらも、やや右肩下がりです。
【12日遅れ】石原産業<4028>の場合
遅延の理由
- 2018年4月に持分法適用関連会社である「BELCHIM CROP PROTECTION N.V.」において不適切な会計処理が行われ、その精査に時間を要したため。なお、今回の決算発表と同時に、過去5年の決算短信の修正も行われた。
決算状況
- 売上高: 108,001百万円(6.3%)
- 営業利益: 10,022百万円(19.1%)
- 経常利益: 8,414百万円(41.5%)
- 当期純利益:3,442百万円(-9.5%)
決算は増収増益。株価は、不適切な会計操作が報告された4月ではなく、2月の頭と翌週に大きく下げています。アメリカ市場の大幅な株安が東京市場にも影響を及ぼしたことに加えて、2月9日は同社の第3四半期決算が出されたタイミングでもありました。
ただし、その第3四半期決算も、前年比で見れば増収増益と好調でした。しかしながら、直近の経常利益が前年同期比マイナス59.4%であったことなどを受けて、株価は下落。決算のどこが注目されて、株価にどう反映されるかは読みづらい……ということがわかる例と言えます。
【14日遅れ】五洋インテックス<7519>の場合
遅延の理由
- 2018年3月25日にタブレット端末販売事業における債権の未回収が生じ、詐欺による刑事告訴を行うことを発表。その後、新規事業の売上計上における妥当性について外部から懸念を指摘され、社外の専門家による第三者委員会を設置。それらの調査による作業量の増加のため。
決算状況
- 売上高: 1,748百万円(−19.2%)
- 営業利益: −180百万円(─)
- 経常利益: −213百万円(─)
- 当期純利益:−169百万円(─)
室内装飾品の専門商社。決算は減収減益。株価のほうも、刑事告訴の発表(3月25日)から売上計上の外部指摘(同27日)によって、およそ半分になる大幅ダウンとなりました。
【14日遅れ】GMB<7214>の場合
遅延の理由
- 国内工場で製造している一部の製品について、自社で製造した部品を組み付けるべきところを、販売先の承認を得ることなく中国メーカーから購入した部品を組み付け、販売・出荷していたことが内部調査で判明。この行為に伴う費用の発生について調査を行ったため。
決算状況
- 売上高: 65,957百万円(0.9%)
- 営業利益: 2,783百万円(1.6%)
- 経常利益: 2,853百万円(12.0%)
- 当期純利益:1,742百万円(20.6%)
独立系の自動車部品メーカー。決算は増収増益でしたが、問題を発表した5月7日は株価も大きく落としています。ちなみにチャートでは、2017年11月の手前で著しく伸びていますが、これは10月25日に上方修正を出したためです。
【18日遅れ】光村印刷<7916>の場合
遅延の理由
- 2014年3月期の退職金制度改定に伴い、以降の退職給付費用等の会計上の見積もりが過少となっている可能性が判明。それによって決算確定作業に時間を要したため。
決算状況
- 売上高: 16,473百万円(−5.2%)
- 営業利益: 264百万円(−54.3%)
- 経常利益: 280百万円(−55.3%)
- 当期純利益:218百万円(−30.3%)
印刷会社の中堅です。営業利益、経常利益ともに前期の半分以下と大幅に下げてしまいました。決算発表が遅延すると宣言があった5月8日は、株価は「少し下がった」程度でしたが、6月に入って明らかに下げているのは、ようやく発表された決算内容が減収減益だったからでしょう。
【30日遅れ】クレアホールディングス<1757>の場合
遅延の理由
- 第4四半期に新しく連結子会社になったアルトルイズム社の会計基準の統一と、その精査に想定以上の時間を要したことに加えて、会計監査人との間で、のれん評価に対する見解の相違があり、それに関する協議に時間を要したため。
*決算は未発表(20日発表予定)
遅刻の背景には「非常事態」あり
各社の「遅刻」の要因を見ると、何らかのイレギュラーな事態が起き、その対応に追われていたケースが多いことがわかります。「リストラ」「関連会社の破産」「関連会社の不祥事」「自社の現在・過去の会計に関する不備」「国家の税制改革」……など、その事情は様々です。
なかでも、自社もしくは関連会社のトラブルなど暗い要因がもとで遅刻した企業が多いわけですが、ようやく出された決算によって「問題が解消された」と投資家たちが今後判断していくのかどうかも気になるところです。
超特急で決算発表する企業から、様々な理由で遅刻する企業まで、「決算の提出時期」に着目してみると、新しい発見があるかもしれません。