チャイナショックの再来はあるか? 中国リスクへの懸念が日本株に与える影響とは
中国リスクへの懸念が高まる
中国の金融市場は、混迷の時期を迎えています。中国リスクへの懸念が再燃し、世界中の投資家たちはその先行きに不安を抱いているからです。8月後半以降、中国株は年初の水準にまで下落しています。
その背景には、発表された景気対策が金融市場の期待ほど刺激的ではないこと、主要経済指標が市場予想より下振れしたこと、米中摩擦が激化していること、不動産大手の経営危機が報じられていること、中融国際信託の支払い遅延が報じられシャドーバンキング問題への懸念が再認識されたこと……などが挙げられます。
特に不動産市況の悪化は深刻で、碧桂園控股(カントリー・ガーデン・ホールディングス)の経営不安は恒大集団以上の悪影響があると報じられています。住宅価格の下落が続き、住宅竣工、販売、不動産開発投資は前年比2桁を超えるほど落ち込んでいるのです。
これは、住宅価格に上向く気配がないためです。中国人民銀行の調査によると、中国家計は2023年初に住宅価格上昇への期待をわずかに高めたものの、足元では再び悲観的になっています。
投資家たちは、このような情勢に不安を抱きつつも、今後の展開を注視しています。今後、いかに中国政府がリスクを回避するための手段を講じ、経済の再興を図るかが焦点となります。
中国も「日本化」が進む?
景気悪化に直面する中国経済は、バブル崩壊後の日本のように「日本化」が進んでいると指摘されています。
経済の先行きに悲観ムードが広がっており、需要不足からデフレ懸念が高まっているとの見方があるからです。また、少子高齢化という構造問題を抱えており、長期的な停滞が続く可能性があるという認識が広がっています。
習近平政権は、今年1月にゼロコロナ政策を正式に終え、経済回復を急いでいますが、消費はさえない状況が続いています。7月の小売売上高は前年同月比2.5%増でしあが、上昇率は3か月連続で縮小しており、コロナ禍からの経済回復の遅れが明確になっています。
指導部は、国内需要を押し上げる政策を推進する方針を打ち出していますが、財政支出の拡大が不十分だとの指摘も出ています。
さらに、7月の消費者物価指数(CPI)は前年比0.3%下落し、2年5か月ぶりにマイナスになりました。長引く不動産不況や輸出入の減少で中国経済が減速する中、CPI統計はデフレ圧力が強まっているという懸念を助長しています。
政府は今年のCPI上昇率の目標を約3%と設定しており、2022年の2%を上回っていますが、国内の消費者と製造業者は慎重姿勢を崩していません。この下落は、物価が継続的に下落し続けるデフレ懸念を強めています。これにより、「中国にも日本化の兆しが表れている」との見方も出ています。
高まる若年層の失業率
さらに、中国の若年層の失業率が最高水準を記録していることが明らかになっています。新卒を多く受け入れてきたセクターの影響を受け、厳しい就職活動シーズンを迎えている若者たち。ゼロコロナ政策の後遺症もあり、16~24歳の都市部の失業率は4〜6月では20%超の過去最高水準が続いています。
しかしながら、国家統計局は7月にこの統計の公表を停止しており、中国経済の悪化を示す数字に敏感になっていると考えられます。
そして、日本の少子高齢化が進展していると同時に、中国も同様の状況に直面しています。2022年末に61年ぶりの人口減少を記録し、消費市場の縮小が見込まれています。かつて2桁台も記録した中国の経済成長率について、アジア開発銀行は2024年には4.5%にまで落ち込むと予想しています。
経済成長は共産党政権の存在意義を支えるものですが、その一方で、中国政府にとって大きな課題です。そこでさまざまな政策を実施し、経済成長を促進させることを目指していますが、このような「日本化」が進んで経済成長がさらに減速すれば、政権の威信にも響きかねないかもしれません。
チャイナショックの再来はあるか?
外国為替市場では、経済悪化による中国人民元の下落が懸念されています。
中国当局は、中国本土外(オフショア)市場の監視を強化し、人民元の安値下落を抑制しようとしています。しかし、中国国内のファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)が改善されない限り、規制や監視は「空砲」に終わる可能性があります。
思い起こされるのは、2015年のチャイナショックです。8月11日、中国人民銀行は人民元相場の20年ぶりの実質的な大幅切り下げに踏み切りました。この切り下げは、輸出部門の改善と価格設定における市場の役割拡大に向けた取り組みを強化するためのものでした。
その後、8月13日まで3日連続で対ドルの為替レート基準値を引き下げたことで、世界のマーケットは大混乱し、為替相場だけでなく、株式相場も急落したのです。
この混乱は、夏季休暇明けの時期に起こったため、市場が不安定になったということもあります。しかし、人民元の切り下げが一時的に収まり、マーケットに安堵感が漂ったのも束の間でした。8月18日には上海株が急落し、それをきっかけに8月26日まで世界の株式市場に株安が連鎖しました。
株安が世界的な出来事となった背景には、中国経済の減速や原油価格の下落、そして世界各国の景気後退などがあります。しかし、このような出来事は、経済の変動がある限り、常に起こり得るものであり、市場参加者はその変動に対応するために常に注意を払う必要があります。
米中のデカップリングが日本に及ぼす影響
2018年から米中の経済対立が激化し、両国の経済や市場が相互依存から脱却しつつある「デカップリング」現象が発生しています。アメリカ政府が中国に制裁を課すようになったことで日本もアメリカに同調し、経済安全保障を強化し、中国を牽制するようになっています。
しかし、その結果、日本は2大国家の間で板挟みになるという難しい立場に置かれることになりました。
このような状況下で、日本企業は米中両国の複雑で変化しやすい規制や政策に対応しなければなりません。例えば、アメリカ政府が中国に対する制裁を課す場合、日本政府も追随せざるを得なくなる可能性がありますが、そのような制裁に協力する日本企業は中国の報復の標的になる可能性があります。
このため一部の日本企業は、アメリカと中国の間で「どちらにつくか」という難しい選択を迫られている状況にあるのです。
また、米中のデカップリング現象は、日本を含む世界経済にも大きな影響を与えています。
日本はアメリカや中国と深い経済的つながりを持っているため、サプライチェーンの混乱や国際貿易・投資の減少など、デカップリングによる影響を強く受けます。アメリカや日本が中国に対してより攻勢的な姿勢を取る一方で、日本もデカップリングの波に巻き込まれていく兆候が出ています。
今後も日本と中国のデカップリングは進行すると予想されており、両国の経済的な疎外はますます深まっていくことになります。そうなると、日本の経済には輸出市場の縮小や輸入価格の上昇など、深刻な長期的な影響が出てくる可能性が高まります。
日本企業がこの複雑で急速に変化する状況に対処するできるか、投資家の立場からも注意の目を向け続ける必要があるでしょう。