グロース株(成長株)に何が起きているのか 二極化の背景と今後の行方

いま日本株市場では、高成長のグロース株(成長株)の株価上昇が続く一方、グロースとは名ばかりで株価の冴えない銘柄が散見され、二極化の傾向が顕著になっています。
グロース株を巡る環境に何が起きているのか。その背景にあるものを読み解きつつ、狙いたいグロース株について考えてみたいと思います。
グロース株(成長株)とは
グロース株(成長株)とは、基本的には、業績が好調で売上高や純利益が伸びている企業を指します。新しい技術を持つハイテク企業やITの最先端企業、新しい産業・サービスを手がける企業などが、これに該当します。
グロース株のPER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)は市場平均よりも割高になることが一般的で、株価も多くが上昇傾向にありますが、将来のより一層の成長を見込んで投資するのです。
これと反対に位置するのが、バリュー株(割安株)です。企業の価値や保有資産、業績とのバランスを考慮し、現在の株価が割安な銘柄を指します。
小型より中大型のグロース株が好調
個々の銘柄ごとの違いはありますが、総じて時価総額の大きい中~大型のグロース株が、小型のグロース株と比べて相対的に株価が上昇しています。
具体的な数値で比較するため、東証が設定したTOPIX500グロース指数のリターンを見てみましょう。東証上場銘柄のうち、成長性の高い企業から時価総額や流動性の上位500銘柄を選び出し、その株価動向を示す指数です。
TOPIX(東証株価指数)は日本の株式市場全体の動向を反映する総合指数ですが、よりPBR(株価純資産倍率)が高く、投資家の評価が高い成長が期待される銘柄を集めたのが、このTOPIX500グロース指数です。2023年末から直近までのリターンは12%ほどの値上がりとなっています。

これに対して、小型株のリターンはあまりぱっとしません。上位500銘柄を除いた残りの小型成長株で構成されるTOPIXスモール・グロース指数のリターンは7%程度と見劣りする結果となっています。
さらに、小型の成長株だけで構成される東証グロース市場の主要指数である東証グロース250指数(かつての「東証マザーズ指数」に相当)は3%弱の値下がりで、いちだんと低迷しています。
いま大型成長株が買われる理由
大型成長株の株価が上昇しやすい理由のひとつに、海外投資家の関心があります。海外の投資家の資金は巨額のものが多く、流動性の少ない小型株には投資しにくいのです。また、TOPIXなどのインデックス運用の大きな資金が大型株に向かいやすいことも背景となりました。
また、2024年は東証による企業改革で、資本コストや株価を意識した経営が要請されたことにより、各企業では成長投資や株主還元強化などの取り組みが進みました。
しかしながら、東証スタンダード市場や東証グロース市場の一部の銘柄では、オーナー企業であることなどから、こうした取り組みへの意欲に欠けることがあった点も、株価の行方に差をつける結果となりました。
・フジクラ<5803>
昨年から上昇した中~大型のグロース株の筆頭が、電線株のフジクラ<5803>です。 株価は2023年末から直近までに6倍弱と、まさに急成長を遂げました。

AIによるデータ処理の増加に伴い、世界中でデータセンターの建設が進んでいます。このため光ファイバーケーブルの需要も拡大しており、将来の収益源として期待されています。
古河電気工業<5801>、 住友電気工事<5802>とともに「電線の大手御三家」とされる中で真っ先に業績や株価が伸び始めたのは、フジクラでした。
・三菱重工業<7011>
総合重機械の三菱重工業<7011>も近年に急成長した銘柄です。火力発電所向けのガスタービンや原子力発電システム、防衛やミサイルなどの防衛関連など幅広い事業で成長しています。
2024年はトランプ氏の大統領再選により、追加関税などで地政学的リスクが高まるとの観測や火力・原子力発電への回帰が予想されたこともあり、株価は3倍弱に急伸しました。

川崎重工業<7012>、IHI<7013>の株価も2~3倍強となっており、かつての重厚長大企業の株価が大きく躍進した年でした。
低迷する小型グロース株
元気な大型グロース株に対して、小型グロース株の多くは株価が冴えない状況です。
そんな中、2024年12月にJPX (日本取引所グループ)による「市場区分の見直しに関するフォローアップ」の中で共有された「グロース市場における今後の対応 」と題する資料が、市場関係者の間で話題になりました。
この資料では、グロース市場の銘柄の株価がプライム市場などの銘柄に比べて上昇率で見劣りする点について、いくつかの背景が示されています。
例えば、「IPO(新規株式公開)後の成長が不十分であるケースが多く、グロース(成長)が期待どおりワークしていない」として、どのようなアプローチが必要かといった提言をしています。
現状の課題のひとつには、経営者自身がIPOについて「とりあえずIPOを行うことが目的で、上場後のことは考えていない」「M&Aで売るより高値が付くし、小さく儲けようというマインドとなっている」などの指摘がされています。
また、グロース市場には小規模なシステム会社やコンサル会社が多く、それぞれが営業・管理部門を持っていて「不経済」だとして、とにかく「企業間の統合」が必要であるという指摘も。
そして、将来的にIPO後に果敢に成長に向けたチャレンジを行う企業が集う市場を目指していく必要があるとして、成長が行き詰まった場合の他社との合従連衡やIPO基準の引き上げなどのアプローチが必要だとしています。
逆風でも健闘した小型グロース株は?
こうした逆風の中でも、株価上昇が顕著な小型グロース株もあります。
・AIAIグループ<6557>
2024年に株価が大きく上昇した銘柄のひとつは、首都圏で認可保育園などを運営するAIAIグループ<6557>です。株価は1年で3倍超になりました。

もっとも、2019年のIPO時に2372円まで買われてから2022年には200円台まで下落していたことを考えると、1900円手前まで上がったとはいえ、まだまだ戻り半ばと言えるかもしれません。
既存施設の園児数やグループの施設数はゆるやかながらも着実に増加しており、成長が続いている点が株式市場でも再評価されているのではないでしょうか。
・note<5243>
クリエイターが自由にコンテンツを投稿・販売できるメディアプラットフォームを運営するnote<5243>の株価も2倍超に値上がりしています。今年1月に米グーグルとの資本業務提携(約6%の出資を受ける)を発表して以来、株価は急騰しました。

プラットフォームの「note」についても流通総額(GMV)は着実に右肩上がりで伸びており、そのほかにも法人向けのサービスも有料契約数が堅調に増えています。
・DAIWA CYCLE<5888>
自転車販売店を展開するDAIWA CYCLE<5888>の株価も約2倍弱と伸びを見せました。

直近の既存店売上高は14か月連続で前年同月を上回る伸びが続いています。単価の高い電動アシスト自転車の販売や修理が好調のようです。
バリュー株がグロース株に化ける?
グロース株の二極化とその背景について見てきましたが、東証が取り組んでいるTOPIX改革などにより、こうした状況は変化する可能性もあります。
たとえば、TOPIXへの組み入れ銘柄です。これまでTOPIXへの組み入れは東証プライムに上場している銘柄が大半を占めていましたが、今後はスタンダード市場やグロース市場の銘柄も定期的な入れ替えの対象となる予定で、つまりインデックス運用の投資対象にもなります。
また、2024年に大きく値上がりした銘柄の過去を見てもわかるとおり、かつてバリュー株として放置されていた銘柄が、突然市況や情勢によって成長基調に変わることもあります。
個人投資家としては、こうした潮目の変化に注意しておくことで、新たな投資機会に気づくこともあるかもしれません。