海外投資家の日本株買い 一体どんな銘柄を買っているのか? 海外勢の動きに学ぶ
《東京証券取引所が立つ日本橋・兜町。かつての活気は、もうない。だがそこは紛れもなく、日本の株式取引の中心地だった。兜町を見つめ続けた記者が綴る【兜町今昔ものがたり】》
海外投資家の日本株買い
投資主体別株式売買動向は、東証により前週(月~金)分が翌週木曜日に発表される。伝えられたように、海外投資家は6月第2週(12~16日)までで12週連続の買い越しとなった。この週の買い越し額(東証+名証)は6414億円。対して法人は1491億円の売り越し。個人は5777億円の売り越し。証券会社は262億円の売り越し。結果、海外投資家主導により日経平均株価は33年ぶりのバブル崩壊後高値を更新した。
今回の海外投資家の買い姿勢の高まりは、4月以降に確認できる。世界的な投資家ウォーレン・バフェット氏の「(日本の)商社株買い」宣言が、その号砲になったとされる。今後の動向について云々を論じるつもりは毛頭ない。が、強いて言えば、バフェット氏が「商社株をはじめ割安の日本株は腹いっぱいに食べた」と発するのが、一つの転機になるかどうかだろう。それがいつなのかは、バフェット氏が口を開くのを待つ以外にない。ただしバフェット氏の投資法は「長期構え」であり、「腹いっぱい」発言が出ても、それが即座に「売り転換」を示唆するものではない。
ちなみに「バブル崩壊後云々」で引き合いに出されている「33年前」、つまり1990年の日経平均株価は、大発会の始値が38712円、大納会の終値は23848円。6月は、初値32891円・高値33192円・終値31940円。だがこの年の投資部門別売買動向を見ると、海外投資家は2兆5489億円の売り越し、法人は2015億円の売り越し、個人が4390億円の買い越しで、証券会社は4390億円の売り越しと、海外投資家との因果関係は認められない。
海外勢の動きを投資に活かす
海外投資家の動向を、自身の株式投資の物差しにする手立てはないものだろうか。
「海外投資家の大幅買い越し継続」が言われても、その買い資金が具体的にどこに向かっているかはわからない。当該企業の発行済み株式の5%以上を取得(保有)した投資家は、10日以内に「大量保有報告書」を内閣総理大臣あてに提出しなくてはならない。保有割合が1%増減した場合には「変更報告書」を提出する義務を負う。だが、兜町筋に聞きまわった限りでは、4月以降の相場で「報告書」を出した海外投資家はいない。
興味深い資料に出会った。『会社四季報 2023年3集 夏号』が巻頭特集で「外国人の持株比率増減を全社追跡」と題して、「外国人持ち株比率の3年前比上昇度ランキング」を列挙している。3年前に比べて持ち株比率が増えている、かつ、外国人の持ち株比率が高い企業のランキングである。
ランキングの上位10社について、共通する点は見受けられないかを点検してみた。過去の経験則に倣い、海外投資家(主に年金ファンド)が銘柄選択で重視する「収益動向」「配当動向」「優れた中長期株価パフォーマンス」「割安度」の状況をチェックしてみる。
【保有率上昇1位】フェローテックホールディングス<6890>
- 半導体ウエハ・半導体設備向け部品製造。真空シールの世界シェア約6割
- 海外保有比率:29%(3年前比14ポイント上昇)
- 過去3期の平均営業増益率:83.13%
- 予想配当利回り:2.3%余
- PBR:0.89倍
- 過去10年余の株価パフォーマンス:83%
【保有率上昇2位】芝浦機械<6104>
- 東芝から全株式を取得し、持ち分法適用会社から離脱射出、ダイカストなど成型機で世界的
- 海外保有比率:34.6%(3年前比13ポイント上昇)
- 過去3期の平均営業増益率:122.3%
- 予想配当利回り:2.4%強
- 55.25%
【保有率上昇3位】日清紡ホールディングス<3105>
- 綿紡績の名門ブレーキ摩擦剤はM&A効果で世界トップ
- 海外保有比率:25.4%(3年前比12ポイント上昇)
- 過去3期の平均営業増益率:18.2%
- 予想配当利回り:2.55%余
- PBR:0.64倍
【保有率上昇4位】日本板硝子<5202>
- ガラス専業建築.自動車向け9割英国ビルキントン(ガラスメーカー、自動車のフロントガラス開発で知られる)を買収し、世界展開
- 海外保有比率:25.3%(3年前比11.6ポイント上昇)
- PBR:0.88倍
【保有率上昇5位】フジクラ<5803>
- 電線大手FPC(フレキシブルプリント基板)で世界有数
- 海外保有比率:25.3%(3年前比11.5ポイント上昇)
- 過去3期の平均営業増益率:153.67%
- 予想配当利回り:3.06%余
- PBR:2.4倍余
【保有率上昇6位】FUJI<6134>
- 電子部品向けなど自動装着トップ自動車部品用工作機械も大手格
- 海外保有比率:36.6%(3年前比11.4ポイント上昇)
- 過去3期の平均営業増益率:12.37%
- 予想配当利回り:2.5%余
- PBR:2.9倍強
【保有率上昇7位】LIXIL<5938>
- 住宅設備大手M&Aを駆使し米.独の有力ブランドを傘下に保有
- 海外保有比率:44.5%(3年前比10.8ポイント上昇)
- 過去3期の平均営業増益率:13.87%
- 予想配当利回り:3.87%余
- PBR:0.85倍
【保有率上昇8位】岩谷産業<8088>
- 産業用ガスの専門商社LPガス首位水素事業の柱化に育成中
- 過去3期の平均営業増益率:13.6%
- 予想配当利回り:1.02%
- PBR:2.8倍弱
【保有率上昇9位】CKD<6407>
- 半導体製造装置.FA向け制御装置大手海外市場拡大に注力
- 過去3期の平均営業増益率:65.9%
- 予想配当利回り:2.04%
- PBR:2.05倍余
【保有率上昇10位】そーせいグループ<4565>
- 創薬ベンチャーの老舗。主軸事業は2015年に220億円余りを投じて買収した英へプタレス(独自の技術を持つバイオ企業)の事業展開。細胞膜上で神経伝達物質やホルモン・タンパク質を認識する生体センサーを活かした、標的創薬に強み
- 過去3期の平均営業増益率:146.5%
- 予想配当利回り:無配
- PBR:2.76倍
コロナ禍に象徴されるように、環境状況の変化で企業収益も避けがたい影響に晒されることは不可避。だが確認いただくと明らかなように、登場企業の最大の共通点は「好収益階段を歩んでいる」。「内外で存在感が認識されているモノを有している」「好配当政策」「長期的な株価パフォーマンス」などが共通項といえよう。
大幅買い越しか否かは別にして、海外勢の日本株買いは理に適っていると捉えることができる。また「低PBR」がいま株式市場で材料視されているが、PERが海外生まれの指標であるように、海外投資家はそもそも「割安」を意識して投資に当たる歴史的な習性を持ち合わせている。
なお、海外投資家の絶対保有比率が高い上位10銘柄には以下のような企業が顔を揃えている。
- ミスミグループ本社<9962>:保有率61.5%
- ソニーグループ<6758>:保有率57.4%
- 栗田工業<6370>:保有率51.9%
- マグドナルドホールディングス<2702>:保有率49.1%
- 三井不動産<8801>:保有率48.2%
- シマノ<7309>:保有率47.8%
- 大東建託<1878>:保有率46.9%
- TIS<3626>:保有率46.6%
- ツムラ<4540>:保有率46.6%
- 日立製作所<6501>:保有率46.1%
例えばシマノなら、こうなる。
シマノ<7309>
- 自転車部品や釣り竿が中心の、アウトドアスポーツ関連メーカー
- 過去3期の平均営業増益率:38.3%
- 予想配当利回り:1%強
- 過去10年間の株価パフォーマンス:2.5倍弱
海外投資家の「技」から、改めて株式投資を見直してみてもいいのではないだろうか。