相場師は「我思う」 世を映し出す相場にどう向き合うべきか
《東京証券取引所が立つ日本橋・兜町。かつての活気は、もうない。だがそこは紛れもなく、日本の株式取引の中心地だった。兜町を見つめ続けた記者が綴る【兜町今昔ものがたり】》
株価は世の森羅万象を映し出す
9月初め、「殺傷武器の輸出 密室で方針転換を急ぐな」と題する新聞社説を読んだ。今年に入ってからいわゆる「防衛装備品移転三原則」の「拡大解釈」が議論されている。
政府は、国際共同開発した防衛装備品の第三国への輸出解禁を視野に入れている。念頭には、日・英・伊の3国で共同開発する次世代戦闘機があるとされる。現行の「防衛装備品移転三原則」では、輸出は「救難」「輸送」「警戒」「監視」「掃海」の非戦闘分野に認められている。戦闘機はその範疇外。「それでは日・英・伊が共同開発する次世代戦闘機の足を日本が引っ張ることになる。国際関係の在り様に不信を生み出しかねない」というわけだ。
青臭いかもしれないが、これは武器輸出を自制してきた平和国家・日本の理念に反する。
株価は、世の中の森羅万象を映し出す。今回のことも、見事にその実態を反映している。代表的な防衛関連銘柄の株価動向を見てみれば、いずれも強張った値動きを示している。
フッと、「最後の相場師」と称された故・是川銀蔵(これかわ・ぎんぞう。1897〜1992年)氏を思い出した。氏は、バブル相場の動向をこう語っていた。
「鉄鋼株は、例えば新日鉄(当時)や川鉄(同)は中長期的に十二分に狙える。6000円台の電力株も同様だ。が、造船株は売りだ。証券会社はいま、造船株を防衛関連で営業しようとしている。しかし世界中がデタント(緊張緩和⇔米ソの核軍縮、冷戦緩和)の方向に向かっているとき、そうした流れに水をさすような防衛関連を買うとは何事か。時代の流れに逆らうものの末路は見えている。売りだ」
ロシア・ウクライナ問題や北朝鮮の威嚇行為が続く中では、是川氏も「防衛関連株を買い」としただろうか。
《参考記事》「買い出動は迅速に」 漁師の息子が株式投資で財を築き、伝説の相場師と呼ばれるまで
当たり屋につけ、曲がり屋に向かえ
「我思う、ゆえに我あり」──かつての兜町にはあったが、いまは感じられないものの一つと捉えている。株式市場(投資家)に向かって持論を公に吐く是川氏流の相場師は、もういない。どころか、「相場師」と称される存在自体を、いまは知らないのだろう。
株式市場や為替市場の動向については、証券会社あるいは系列調査機関のアナリストたちが、問われれば答えている。だがそこには「れば・たら」が付き物で、必ず“逃げ”が打たれている。「私はそう考える」と断定的に語るケースは、ほぼ皆無(良し悪しは別にして……)。
兜町には昔から、「当たり屋につけ、曲がり屋に向かえ」という諺が語り継がれていた。相場(銘柄)をいままさにドンピシャリと当てている筋=当たり屋が次の相場をどう読み、どんな銘柄にどんな投資を行っていくか、これを見定めることが相場で勝つ鉄則。逆に、失敗を繰り返している曲がり屋が買いに向かえば売れ、売りに向かえば買い。逆こそ真、という経験則だ。
一理ある。そこで、立場は十分に承知の上で、日本生命の株式運用担当取締役に、これについて問うたことがある。以下の回答を得た。「生命保険の長期運用という立場上からではなく、株式投資は中長期対応が定石。具体的には、東京証券取引所の業種別時価総額のシェアに応じ、業種別ポートフォリオを組む。そのうえで業種の中でより収益の成長性、過去に遡っての株価の成長性の高いものを選び出す。個人投資家でも十分に踏める段取りだ」
日々の売り買いがあって初めて株式市場は成り立つ。そのことは百も承知で、中長期の成長株投資こそ「株式投資で資産をつくる法」ということだろう。
兜町の面々は「我思う」
かつての兜町の面々には「我思う、ゆえに我あり」族が多かった。
バブル期の真っただ中で、こんな軽妙洒脱な言い回しで「ハイテク株物色到来」を説いた御仁もいた。「1985〜86年、ハイテク株は急激な円高という大事故に巻き込まれ、病院に担ぎ込まれた。87年には懸命な治療・リハビリが進められた。今年(88年)あたりから、社会復帰が可能になった。そろそろ出番だ」
そう言って、相場の主役として日本電気・日立・ソニー・キヤノンを指折り数えた。「書いていいですね?」という記者の問いかけには、「勿論。確信していますから」と言い切った。
日経平均株価が史上最高値に向かう大詰めで、件の優良株が相場を牽引した痕跡はない。だが、かつての兜町には、こうした「我思う、ゆえに我あり」という面々も少なくなかった。