ケンカを売るのも仕事のうち? ベテラン株式記者の企業取材裏話

千葉 明
2025年2月10日 16時00分

《東京証券取引所が立つ日本橋・兜町。かつての活気はなくとも、そこは紛れもなく日本の株式取引の中心地だった。兜町を見つめ続けたベテラン記者が綴る【兜町今昔ものがたり】》

IR時代の企業取材

 IRの時代、ということか。

 かつて企業記事を書く際には「取材申し込み」と並行して、東京・茅場町(兜町)にある「証券図書館」に走った。パソコンで企業のホームページをチェックしたり、決算状況などを確認できる時代ではなかった。証券図書館には上場企業全ての新聞記事がスクラップされており、それが、企業取材のネタを仕入れる常道だった。

 それがいまは、企業側からご丁寧に、Zoomなどで上層部がパソコン上に顔を晒し、懇切丁寧に説明してくれる。質問もOK。1月から2月にかけ、6社のZoom取材が入っている。

 私自身、企業取材の仕事も長くなった。初めての会社でも、ホームページ「お問い合わせ」からテーマを記し、「責任ある方のお答えをいただける方のお話をうかがいたい」と申込をする。メールで返信があれば略歴書を添え、改めてウェブ取材を申し込む。また、長い付き合いの月刊投資雑誌「株主手帳」がお膳立てするオンライン企業説明会にも積極的に参加する。

起業家スピリットに惹かれて

 過日も、ポールトゥウィンホールディングス(東証プライム・3567)のCFO、山内誠治氏との取材の機会を得た。ゲームなどのデバッグ(不具合検出・調整)・検証・ネット監視が主たる業務。1994年に日本初のゲーム機器デバッグ専門業者として設立、2000年にネット監視業務に進出した。

 初めて取材する企業である。ホームページの「沿革」を見て、ゲーム機器の黎明期にいち早く同社を起ち上げた松本公三氏と、今日の会社を牽引してきた橘鉄平氏(現社長)の慧眼に起業家スピリットを覚えたのが、今回の取材の入り口だった。

 そして、今回の取材では次のような事情をCFOという立場の御仁に質問したかった。「何故ゲームの開発者自身は、デバッグを余人に委ねるのか?」。山内氏の控え目ながら言葉の端々から「開発者は不眠不休状態でコンテンツ作りに取り組む」「不具合等による失敗は許されない」「客観的な検証が不可欠」「そこにビジネスチャンスがある」という認識を得た。

 また、今後は海外展開に一層注力するという説明があった。現在14カ国に21拠点を設けているが、山内氏は「当社では2029年1月に向けた長期ビジョンを設定している。目標は売上高1000億円。実現には海外比率の相応の上昇が不可欠。また結果として、かつては13%水準にあった売上高営業利益率を10%水準に再生することが出来る」とした。

 ちなみに今2025年1月期計画は「売上高372億5900万円、営業利益率1.7%」。かなりの強気なビジョンと言わざるをえない。どんな策を講じて、海外部門拡充に伴う長期ビジョンを実現していくというのか。山内氏は自身に対し言い聞かせるように頷きながら、こう語った。

「国内のゲーム機メーカーの動向は読み取りやすい。ヒットシリーズの続編を見通す中で、利益率の高いヒットコンテンツに着目をしていく。だが、海外では現時点では隔靴搔痒が否定できない。目をさらにしてヒットコンテンツを読んでいかなくてはならない。新たなエリアでヒットコンテンツが生まれてくる可能性にも備えなくてはならない」。投資が必要だ、とした。

 ポールトゥウィンのこれまでを振り返ると、M&Aの歴史という面が色濃い。例えば昨年12月には、ダブルジャンプ・トウキョウと資本業務提携した。同社が開発・運営する、今後の期待度が高いとされる「Web3ゲームサービス」に対し、デバッグに加え、カスターサポートや海外展開のためのローカライズを提供することが、その狙いだ。

 ポールトゥウィンは2011年の上場後、一度も減配していない。長期ビジョンに向けた着実な進捗を確認したいと痛感した。

ケンカを売るのも取材のうち?

 インソース(東証プライム市場・6200)は4年近く前に一度、「お問い合わせ」経由で取材している。「お宅はなんとも便利な会社ですね」と、少しばかり嫌味っぽい文言でのアプローチが入り口だった。「ケンカを売るのも一法」とかつて恩師から学んだ。「便利と言われるのはどういうことでしょう」と、メールが返ってきた。自分の土俵に相手を引き上げれば、取材の大方は成功したようなもの。

 インソースは企業などの人事部門向けに、多面的な講師派遣や公開講座を展開している。「(人事部門にとっては)便利な会社ですね」という趣旨で切り出した誘いだったが、これが成功した。「これでもか」というぐらいに公開講座等の実績を詳細に語り、「人的資本経営を通じた企業価値の向上には底堅いニーズがある」とした。

 材料として、「ハラスメント講座」にも注力しているという情報を仕込んでおいた。「ハラスメント講座にも注力を……」と言い終わる前に、「セクハラ」「パワハラ」をはじめ「モラハラ」「アルハラ」「マタハラ」「エイハラ」「ロジハラ」等々が、立て板に水の如く返ってきた。どんな講座かまでは聞かなかったが、「なんとも便利な会社」は「なんとも有益な会社」に訂正しておこう。

 私は投資顧問の資格を有していないため、企業取材をして内情や収益動向などを記しても、最終的な「売りか買いか」の断定は絶対にしない。そんな観点からして昨今、格好のツールが登場している。日経電子版が配信している「過去10年間の株価パフォーマンス」だ。

 インソースでいうと、仮に2016年7月21日の初値で買い、そのまま保持していると、株式分割などを考慮した修正済み株価パフォーマンスは13倍近い。記事の結びは「日経のデータに当てはめると、長期投資向きとも読めるが……」となるか。

 株式投資に関連する便利な「窓」も増えた。

[執筆者]千葉 明
千葉 明
[ちば・あきら]東京証券取引所の記者クラブ(通称・兜倶楽部)の詰め記者を振り出しに、40年以上にわたり、経済・金融・ビジネスの現場を取材。現在は執筆活動のほか、講演活動も精力的に行う。『野村證券・企業部』『ザ・ノンバンク』『円闘』など著書多数。
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