成功を羨むか、挫折に学ぶか。連休に観たい、株式投資がもっと面白くなる映画5本
《3年ぶりに制限のないゴールデンウィーク。と言っても、やっぱり家でのんびり過ごしたいという方もいらっしゃるでしょう。この機会に、話題の映画で株式投資を深掘りしてみるのはいかがでしょうか》
「マネー・ショート 華麗なる大逆転」
2008年に起きたリーマンショック以降、金融危機を題材にした映画が多く作られました。その中でも本作は、投資家として観てもずば抜けて楽しめる映画ではないでしょうか。コメディ映画で知られるアダム・マッケイ監督の手により、実話でありながら、ポップでユーモラスな仕上がりになっています。
「ウォール街は業界用語で人を煙に巻く」——このセリフどおり、本作は難しい経済用語が飛び交うため、「いまひとつ意味がわからなかった」という声もよく訊きます。
そこで、主軸のストーリーである「元医師でヘッジファンドのトレーダーであるマイケルは、何に気づき、どのようにしてウォール街に大勝負を挑んだのか?」に焦点を絞り、同時に、キーとなる経済用語を解説しましょう。
【解説1】
2004年頃、アメリカは住宅による好景気に沸いていた。住宅価格は上昇し続け、住宅ローンを基にした金融商品は、株や貯金に変わる安全確実な投資商品として人気があった。
しかし、元医師でヘッジファンドのトレーダーであるマイケルは、膨大な量の住宅ローンを組み合わせた金融商品である「MBS」や「CDO」の実態を調べるうちに、それらは返済不能に陥る可能性の高い「サブプライムローン」を多く含んだデタラメな商品だと気がつく。
サブプライムローン……返済能力の低い、低所得者向けの住宅ローン。そのほとんどが2年の固定の釣り金利付きで、2年後には金利が跳ね上がり、債務不履行に陥る可能性の高いハイリスクなローンだった。
MBS(モーゲージ債)……住宅ローンを複数束ねて証券化した金融商品で、投資家は、住宅ローンの借り手が銀行に返済した元金と利子を受け取ることができる。束ねられた住宅ローンの中には、債務不履行に陥る可能性の高いハイリスクなサブプライムローンが多く含まれていたが、投資銀行や格付け会社はトリプルAの高格付けで投資家に販売した。
CDO(債務担保証券)……本来は、債券や住宅ローンなど、様々な種類の金銭債権を束ねた商品。本映画では、投資銀行はMBSを分解し、Bランクの売れ残り分をパッケージし直し、格付け会社にトリプルAに格付けさせて販売していた。
【解説2】
マイケルはサブプラムローンがいずれ住宅市場を崩壊させる時限爆弾だと気づき、「MBSを空売りしよう。それも、いましかない」と思いつく。
ただ、アイデアはあっても、MBSやCDOは価格が下落するほうに賭ける(空売りする)ことができない。そこでマイケルは「CDS」を自ら作り、大手投資銀行相手に提案。大量にCDSを買い、住宅市場の破綻に賭ける。
CDS(クレジット・デフォルト・スワップ取引)……MBSやCDOの「保険」とも言える商品。月々「保険料」を支払う代わりに、サブプライムローンが組み込まれたMBSやCDOに損失が出た際に、損失に見合う金額を受け取る権利を持つ(買う)という取引。この取引では、損失は保険料に限定され、収益の上限は何倍にも膨らむ。いわば、「他人の家の火災保険をかけて、家が燃えるのを願うような保険」(原作より)ということ。
【解説3】
マイケルの予想どおり、サブプライムローンは焦げ付きだすが、MBSやCDOの債券自体の価格が下がらない。格付け会社も格付けを下げない。それどころか、債券の価格は上昇し、追加の保証料を求められる。
一方で、マイケルの作ったCDS市場は瞬く間に巨大化し、CDSを使った「合成CDO」なる商品も登場、市場規模は膨れ上がっていく。
マイケルの行なった賭け(取引)は、次のようなもの。
- 住宅市場の好景気が続いた場合……マイケルは、月々莫大なCDSの保険料を投資銀行に払い続け、MBSやCDOの債券価格が上昇(CDS価格は下落)すれば追加の保険料を請求される。
- 住宅市場がサブプライムローンの債務不履行によりバブル崩壊した場合……債券はデフォルトし(CDS価格は上昇)、マイケルに巨額の利益が入る
【解説4】
ついにサブプライムショックは起こり、住宅市場は破綻する。マイケルはCDSを売却して、巨額の利益を手にする。
マイケルは顧客の金を凍結してまで、この大勝負に賭けます。顧客との軋轢も生まれ、その苦悩は計り知れないものだったはずです。
しかし、「最終的には論理が市場を律する」(原作より)と信じていたマイケルは、じっと耐えて時を待ちます。この「信じて待つ」という意思の強さこそ、マイケルが賭けに勝った最大の要因だったのではないでしょうか。
同じリーマンショックを扱った次の2本も同時に観ると、投資の知識だけでなく経験値もさらにアップするかもしれません。
「マージン・コール」
こちらは投資銀行サイドからリーマンショックを描いた作品。実際に破綻した米投資銀行リーマン・ブラザーズがモデルです。映画では、銀行が生き延びるためにある「投資判断」を行い、現実とは違う展開となっています。
「インサイド・ジョブ 世界不況の知られざる真実」
経済ドキュメンタリー映画。投資銀行や格付け会社、政権、学界などの、リーマンショック当時の当事者たちに監督自らインタビューを行い、「金融危機の引き金となった証券化商品を、破綻のリスクがあると知りつつ開発し販売していたのではないか?」を追及し、真相を暴いていきます。
「ウルフ・オブ・ウォールストリート」
「ストラトン証券詐欺」として有名な投資詐欺事件を起こした、ジョーダン・ベルフォード率いる証券会社のストラトン・オークモント社がモデルの映画。同社は約2億ドル以上の損害を投資家にもたらして、1997年に破綻しました。
この映画のポイントとなるのは、同社が行なった「pump-and-dump(偽情報)」という証券詐欺スキームです。
- pump-and-dump(偽情報)……ストラトン社が大量に保有しているA株を、同社の顧客に、偽情報を煽るなどして多額の資金で投資させ、株価を吊り上げる。その後、A株が急騰したところで手持ち分を売り抜け、同社だけが不当に多額の利益を手にする。
裏付けのない情報で急騰した銘柄は急落するのが世の常で、高値掴みをさせられた投資家は多額の損害を被ります。映画では、靴ブランドのスティーブン・マデン<SHOO>のIPO上場で、このスキームを見ることができます。
悪質な詐欺行為で投資家に損害を与えたベルフォードですが、3年間の服役後は、映画の成功もあり、講演などで大活躍しています。投資家からすれば実に理不尽な話で、おいしい投資話に安易に乗るとカモにされるだけ、と肝に銘じる必要があります。
ちなみに、映画に出てきたスティーブン・マデン株はNY発の靴ブランドとして現在も高い人気を誇り、ナスダックに上場しています。
「セッション」
偉大なドラマーになることに憧れる青年ニーマンが、鬼教師フレッチャーと出会うことで音楽家として成長していく物語。「株の話なんて出てこない」と思うかもしれませんが、音楽に対するニーマンの姿勢は、株式投資に通じるものがあります。
ニーマンはフレッチャーに狂気ともいえるしごきを受けながらも決して道を諦めず、自分にしかできないやり方で自分の音楽を見つけます。
株式投資も、暴落が起こったり、悪質な投資話を持ちかけられたりと、様々な困難が常につきまといます。しかし、その都度冷静に判断し、人マネではなく自分のやり方を見つけ、淡々と続けていくことこそが成功への道なのではないでしょうか。
ご紹介した5本は、エンターテインメントとしても見応えのある映画ばかりです。また、「マネー・ショート」や「ウルフ・オブ・ウォールストリート」は、原作も大変興味深い内容ですので、ぜひ参考にして、あなたの今後の投資活動の糧にしてください。