「ユニクロ指数」は過去の話。2つのルール変更で日経平均株価が変わる! 株価への影響は?
《一部の値がさ株による影響が大きいあまり「ユニクロ指数」などとも呼ばれていた日経平均株価ですが、算出方法や比率の見直しによって、こうした状況が変わりつつあることをご存じでしょうか?》
日経平均株価の2つのルール変更
日経平均株価は、日本経済新聞社が日本を代表する225社を選び、これらの企業の株価を平均して調整して算出されています。
このような単純平均による算出方法では、ファーストリテイリング<9983>やソフトバンクグループ<9984>、東京エレクトロン<8035>といった株価の額面が大きい銘柄(=値がさ株)の株価変動に影響されやすいという特徴があります。
一時期は、ファーストリテイリングの影響があまりにも大きいことをもじって「ユニクロ指数」と呼ばれることもあります。
こうした状況を是正するため、最近2つのルール変更が行われました。
変更点その1:株価換算係数の導入
ひとつめは、2021年10月から導入された株価換算係数です。
株価換算係数とは、指数の算出に用いる銘柄の水準を調整する係数のことをいいます。従来は「みなし額面方式」として、かつて商法にあった株式の額面の大きさの違いに準じて水準を調整していましたが、それが2021年10月から株価換算係数による調整に変更されました。
これにより、通常、日経平均株価に新規に採用される銘柄の係数は1(調整なし)ですが、値がさ株など指数に与えるインパクトが大きいと見られる銘柄については0.1~0.9の乗数を設定することで、インパクトを軽減することが可能になります。
つまり、これまでインパクトが大きいため新規採用しにくかった値がさ株を日経平均株価に採用しやすくなったのです。
実際に2021年10月の定期入れ買えでは、キーエンス<6861>、村田製作所<6981>、任天堂<7974>の3銘柄が新規に採用されました。いずれも日本を代表する大企業ではあるものの、値がさ株であることから採用が見送られてきたのですが、この株価換算係数の導入によって即時採用となりました。
なお、このときの入れ替えで除外されたのは、日清紡ホールディングス<3105>、東洋製罐グループホールディングス<5901>、スカパーJSATホールディングス<9412>の3銘柄です。
変更点その2:ウエート上限キャップの導入
もうひとつのルール変更は、構成銘柄のウエート(寄与度)上限キャップの導入です。
ウエート(寄与度)とは、日経平均株価に対する各構成銘柄の比率のことです。このウエートが基準日時点で12%を超えている場合は、前述の株価換算係数を引き下げてウエートを低下させます。株価換算係数とあわせて、少数の銘柄によって指数の変動が左右されにくくするための追加措置といえます。
ウエート上限キャップの導入は今年10月の定期入れ替えから適用され、基準となる水準(12%)は段階的に10%に引き下げられる予定です。
ちなみに、9月末時点のウエート上位銘柄は、1位がファーストリテイリングで10.3%、2位が東京エレクトロンで4.8%、3位がソフトバンクグループで4.0%となっています。
ファーストリテイリングのウエートは、2021年には一時13%程度ともっと高かったときもありました。しかし、グロース株への売りや日銀のETF買い入れ方式の変更、そして日経平均株価のルール変更などがあり、現在のウエートは10%程度まで低下しています。
かつて「ユニクロ指数」とも揶揄された日経平均株価ですが、こうした偏りを是正するための取り組みなどが機能した結果といえるでしょう。
ルール変更が与える影響は?
今回のルール変更は、日経平均株価そのものや個別銘柄の値動きにどのような影響を与えるでしょうか?
まず単純に、いくつかの値がさ株による日経平均株価の極端な上昇が押さえられる、という側面が考えられます。値がさ株に関連した指標では「NT倍率」の上昇にもブレーキがかかりそうです。
NT倍率とは、日経平均株価とTOPIX(東証株価指数)との関係性を示す指標です。日経平均株価(N)をTOPIX(T)で割って算出した数値によって、現在の相場において日経平均株価とTOPIXのどちらがより多く買われているかを知ることができます。
また、値がさ株にとっては、指数の先高観による上昇圧力が弱まることも考えられます。日経平均株価の先高観がある局面では、そのような思惑的な値がさ株買いによる株価上昇もありましたが、このような動きには歯止めがかかりそうです。
もっとも、これらの銘柄の上昇要因は指数に絡む売買だけではない点には留意すべきでしょう。日銀のETF買い入れ方式の変更以前にも見られたような「値がさ株だけが(市場全体に比べて)買われている」といったいびつな状況が起きづらくなる、といったほうが正しいかもしれません。
日経平均株価の定期入れ替えも変更
日経平均株価は、売買代金や流動性などから見た取引のしやすさ、業種・セクターごとのバランスを考慮して、毎年10月の第1営業日に3銘柄の定期入れ替えが行われています。この定期入れ替えが、2023年からは4月・10月の年2回となり、それぞれ3銘柄(計6銘柄)が入れ替えられることになります。
また、セクターごとのバランスについては、産業構造の変化を反映するためにセクターを「技術」「金融」「消費」「素材」「資本財・その他」「運輸・公共」の6つに集約して、それぞれの構成銘柄数のバランスがとれるように銘柄を採用します。
合併や株式交換などの企業再編に伴う上場廃止、スタンダードなど他市場への異動など突発的な事象が発生した場合はその都度、臨時の入れ替えが行われます。
定期入れ替えをめぐる値動きに要注意
日経平均株価に限らず、指数への組み入れ(採用)や除外は個別銘柄の値動きにインパクトを与えます。指数に組み入れられると、その指数に沿った値動きとなるように設計されたインデックスファンドが機械的に買いを入れるため、株価上昇の要因となるのです。
この10月の定期入れ替えでは、日本電産<6594>、SMC<6273>、HOYA<7741>が採用され、ユニチカ<3103>、OKI<6703>、マルハニチロ<1333>が除外されました。また、静岡銀行<8355>は持ち株会社化に伴って除外され、しずおかフィナンシャルグループ<5831>が新たに採用されました。
入れ替えにあたっては、事前に日経新聞社から入れ替え銘柄の発表があります。それに向けた動きとして、入れ替え候補となる銘柄について各証券会社が予想レポートを発行し、それを参考にしたトレードも行われます。
今回、一部の証券会社から「採用候補」と目されていたオリエンタルランド<4661>は、採用銘柄が発表された(=採用されないことが明らかになった)翌日の取引で「失望売り」に押され、終値は6%安と大幅に売られました。
ただ、その後は買い戻され、急落前の水準まで戻る場面もありましたので、日経平均株価への採用を見込んで短期で買いを入れていた投資家が投げ売った分に対して、長期の投資家が安値で買いを入れた可能性もありそうです。
一方で、除外となったユニチカ<3103>は5月以降業績の悪化などもあり、「除外候補」との思惑が足かせとなって株価は重たい展開でしたが、除外の発表以降はむしろ「悪材料出尽くし」として株価は発表前よりも高い水準で推移しています。
改革の波はTOPIXにも?
日本経済新聞社では、市場参加者からルール改定案への意見を幅広く募る「コンサルテーション」を行い、より現場の意見を反映した上で、今回の日経平均株価のルール変更を実施しています。
東証が進めている市場改革もあり、今後、TOPIXも含めたルールの見直しが行われる可能性もあります。
上で紹介したように、銘柄入れ替えに絡む思惑的な売買などは個別銘柄の材料となることもありますので、指数のルールや入れ替えの仕組み・流れなどについては、大枠だけでも把握しておくようにしましょう。