年末年始に投資家が考えるべき「たったひとつのこと」
株式市場も休みに入る年末年始は、日々めまぐるしく動き続ける相場から離れられる唯一のタイミング。この貴重な時間、世の投資家・トレーダーがやるべきことと言えば、ただひとつ──1年の取引の振り返りです。そのためには、何はなくとも日々の売買記録をつけておく必要があります。それは、勝ち続ける人が必ずやっている「勝利の方程式」の一要素でもあるのです。
脱「なんとなく投資」のために、しなくてはいけないことのひとつは「記録をつけること」。投資の記録、つけていますか? いつ、何を、いくらで売買し、いくらで決済したか。記録をつけないと自分のクセも、失敗の原因もつかめません。
……と他人事のように書いておきながら、わたし自身も現役の「なんとなく投資家」。こういう記事を書くなら、まずは自ら範を示さねば! というわけで、売買記録をつけてみることにしました。そこからわかったことをレポートします。
なぜ「塩漬け」してしまうのか
わたしの本業はOLで、投資家としては素人ですが、投資歴は、はじめて買った日本国債から数えると15年選手。投資信託や株、外貨(FX)といったリスクのある金融商品の投資歴も10年を超えます(日本国国債も、日本がポシャれば紙切れなので、リスクゼロではありませんが)。
10年選手ということは「一発退場になるような、再起不能の大敗は一度もなかった」のです。訳あって無職だった年は、80円前後になったときに買っておいた米ドルが90~100円まで上がっていたので、それらを売ってしのいだものです。
ここだけ読むと投資センスがあると思われるかもしれませんし、わたし自身も最近までそう思っていました。
ですが、今も含み損を抱えた金融商品をいろいろと保有しており、それらは「なかったこと」として、ひっそりと「塩漬け」にされて、じっとりと放置されているんですね。
「投資は余剰資金で」をモットーにしており、そもそも余剰するほどの資金がないため、尻に火がつくほどの含み損でないのは幸いですが、素人の「なんとなく投資」を続ける限り、このような含み損を抱えた塩漬けは今後も増えていくことでしょう。
こういった塩漬けがたくさんあるために、いざ、「今が買い(売り)だ! 撃てぇええ!!!」みたいな千載一遇の絶好のタイミングで、弾薬庫にもう弾がない……という事態を何度経験したでしょうか。
「負けた記録」をつけるということ
どぎゃんとせんといかん!と、50万人以上の会員数を誇るオンライン株スクール「株の学校ドットコム」の講師である窪田剛さんが書いた書籍『株の学校』(高橋書店刊)を読んでみたところ、「売買記録をつけよう」という項目がありました。
かならず「己を知る」ために売買記録をつけるようにしてください。つけていくと自分のクセややってしまいがちなミス、銘柄や値動きの好き嫌いなどが分かってきます(中略)さらに数字で統計を取るので、あいまいな感覚でない己の弱点があぶりだされます。(138ページより抜粋)
グウの音も出ない正論です。すみません……。とはいえ、わたしだって過去に何回か記録をつけたことはあったのです。しかし、続いたためしがありませんでした。「面倒くさい」というのもありますが、それよりももっと大きかったのは「負けた記録をつけるのが苦行すぎた」からです。
さらに、そもそもわたしは損が一定容量を超えてしまったときに「損切り(ロスカット)」するのではなく、前述の「塩漬けにして記憶から消去する」手法をとっていたために、それらは自分の中で「負け」にカウントされていなかったのです。
これはかなりダメな思考回路です。他人がこんな投資をしていたら、「だからダメなんじゃない?」と説教するレベルです。
速やかに損切りをするのは負けではなく、含み損を抱えた塩漬けを保有して身動きが取れなくなり、本当のチャンスで勝負に出られない今の状態こそが真の負けなのだと悔い改め、きちんと記録をとることにしました。
「どこまで損するか」がわかれば安心
こうして心を入れ替えたわたしは、以下の項目をエクセルで記録することにしました。
- 売買日時
- 売買したもの(銘柄)
- なぜ売買したのか(理由)
- 売買した株数と金額(購入および売却)
- 利益(損失)の金額
- メモ(という名の反省の弁)
そして売買注文のときに、これまでやっていなかった「1000円で買ったこの株が、1200円まで上がったら売って利益を確定させ、逆に900円まで下がったら損切りして損を確定させる」といった決済注文も一緒に出すことにしました。このやり方なら、もう塩漬けは出ません。不退転の決意です。
記録開始から2回の売買が連続して予想とは逆に進み、最初から損切り2連発。こうなると青雲の志は早くもゆらぎ、「もう記録つけたくない。フテ寝したい」というところまでアッサリと追い詰められます。
しかし、それでもめげずに続けていれば、だんだん慣れてきました。何事も面倒くさいのは最初だけ。その山を越えれば、あとは淡々と記録をつけられるようになるものです。
何より「決済注文も同時に出してしまう」をしたことが、継続できたポイントでした。こうすることで、最大でいくら損するかが事前にわかっているため、安心して記録をつけられます(もちろん損をするのは嫌ですが)。
実録・わたしの売買記録
それでは、実際のわたしの記録を一部、ここに晒したいと思います。たったこれだけでも、記録をつけた場合とつけていなかったころとでは、毎回の取引に対する気持ちが大きく変わったように思います。
「記録をつける」「決済注文も出す」の複合技のメリットは「塩漬けがもう増えない」だけではありません。注文時にちゃんと考えるようになったのも進歩でした。
「なぜ売買したのか」の欄に「なんとなくいけると思った」「自分の勘がそうだと言っていた」とは書きにくいものです。そのおかげか、売買の回数自体が減りました。慎重になったという意味で、これはプラスの効果だと思っています。
まだつけ始めたばかりですが、ある程度の記録がたまれば、今自分が試しているいくつかの「なぜ売買したのか(売買の根拠)」の勝率がわかるようになるでしょう。それが、わたしだけの「売買ルール」になっていくのだと思います。
先ほどの書籍でも言われていることですが、明確な「売買ルール」をもち、それにしたがって取引することこそ、安定的に稼げるトレーダーへの近道なのです。その日が来ることを楽しみに、今後も記録を続けていきたいと思っています。
「たまたま」の幸運にしがみつくな
わたしの塩漬けのひとつは、「トランプ当選」直後の乱高下で運よく一瞬跳ね上がり、うまく利益が出た状態でようやく決済することができました(でも、まだ塩漬けはたんまりある)。
しかし、こんな「アメリカ大統領選で不利とされていた候補が勝った」事象など、そう頻繁に起こるものではありませんし、乱高下がまったく逆の動きをしていたかもしれません。「たまたまうまくいったからよかったものの」すぎます。
言うまでもなく、記録をつけていたからといって必ず勝てるわけではありません。ですが、慎重になるだけでも十分お釣りがくるほどメリットのある行動です。わたしのように塩漬けを抱えている人には無条件でお勧めします。
※この記事は再掲載です。
『株の学校』
窪田 剛・著(株の学校ドットコム講師)/柴田博人・監修
*特典映像「動画でわかる株の学校」つき
A5判・ソフトカバー・144ページ・オールカラー
定価:本体1600円+税
刊行:高橋書店