企業の社名変更による株価への影響は? そこには隠されている思惑とは
企業にとって社名変更は一大事。投資家にとっても、それまでの親しんだ名前が変わると、なんとなく違う銘柄になったような印象も受けるものです。そうは言っても、実際に株価に影響するなんてことがあるのでしょうか? また、そもそもなぜ社名変更をするのでしょうか?
上場企業でも700近くが社名変更
会社の看板ともいえる会社名(商号)。いざ変更するとなると、看板も名刺も総交換になりコストがかかりますし、「人々に慣れ親しまれた名前」を捨てるのは企業としてリスクでもあります。
ですが、実は上場企業でも社名を変える企業は多いんです。2005年から2019年4月1日までで、上場企業で社名を変更したケースは、なんと683件にも上ります。その中には、いったんは変更したものの、あとになって元の社名に戻した「元サヤ」なんてケースも。
では、株価には何らかの影響を与えるのでしょうか? 社名変更に伴って株価はどのような値動きをするのか、その関係を調べてみたいと思います。
そもそも社名変更する理由は?
それにしても、企業はなぜ、わざわざ社名を変えるのでしょう? 主な理由は3つ挙げられます。
[パターン1]合併で社名変更
社名変更の背景によく見られるのが企業合併です。コンビニのサークルKサンクスを運営していたユニーグループ・ホールディングスは、2016年9月にファミリーマートと合併したことによってユニー・ファミリーマートホールディングスに社名を変更しました。
- ユニーグループ・ホールディングス → ユニー・ファミリーマートホールディングス<8028>
(Chart by TradingView)
このチャートを見ると、旧ユニーグループの最終売買日である8月末に向けて、出来高の急増を伴って、株価が上がっていることがわかります。
[パターン2]グローバル対応に向けた横文字化
テレビCMで俳優の高橋一生さんが「旭硝子はAGC~♪」と歌っていました。
ユニー・ファミリーマートホールディングスのような、親が誰であるのか一目瞭然な社名と違い、旭硝子がAGCになるような面影を残さない大胆な社名変更の場合は、「社名が変更したことの告知」だけの目的でもCMを打つ必要がある、と判断したのでしょう。
- 旭硝子 → AGC<5201>
同社の社名変更のきっかけはグローバル対応です。もともと同社は「AGC」という製品ブランドの下、グローバル展開を進めており、2018年7月に社名をブランド名に統一したのです。
(Chart by TradingView)
株価への影響は見られませんが、少子高齢化が進む日本では国内の市場縮小は避けられません。社名の国際化は今後も進んでいくかもしれませんね。
[パターン3]後ろに「ホールディングス」がつく
「ホールディングス」とは持株会社のことです。その会社自体は事業を行わず、企業群のトップとして配下の事業会社の株を持つだけの存在のことです。株を持つ(hold)ことから、ホールディングスと呼ばれています。
- 日本テレビ放送網 → 日本テレビホールディングス<9404>
- セイコー → セイコーホールディングス<8050>
- スギ薬局 → スギホールディングス<7649>
持株会社の代表的な存在が、NTTこと日本電信電話<9432>です。その配下に、NTT東日本、西日本、NTTドコモ、NTTコミュニケーションズ、NTTデータなど、多くの事業会社群が存在します。
ホールディングスのメリットとして、配下の事業会社の株式の大部分を持株会社が保有するという方式から、外部による買収が実質的に不可能な点が挙げられます。また、それぞれの事業会社に分割されているため、「いっしょくた」な状態よりも各事業会社の意志決定がスピーディーになるとも言われています。
ただし、純粋に「配下の事業会社の株を持つだけ」という意味の持株会社(純粋持株会社)もあれば、ホールディングスと言いつつもでありながらも、一部事業をしている会社もあり(事業持株会社)、形態はさまざまです。
また、日本電信電話が「日本電信電話ホールディングス」ではないように、持株会社だから社名にホールディングスをつけないといけない、という決まりはありません。それでも、「ホールディングス」をつける社名変更は多くあります。
「ホールディングス」とつくと、「企業集団を束ねている」という形態から大型企業を想像しがちですので、企業としてもそれが狙いなのかもしれません。しかし、中小企業であろうと、上場してなかろうと、持株会社形式による経営は可能です。
[パターン4]一度は変えてみたものの……
社名に「ホールディングス」をつけてみたものの、あとで外すことになる、慌ただしい会社もあります。それが、シチズン時計<7762>とAPAMAN<8889>です。
【事例1】「元サヤ」に収まったシチズン時計
元サヤの背景は、「時計事業を中核とした成長と本社機能の強化」を目的として、直接、時計事業を運営する事業持株会社体制に移行することが最適と結論した、とのこと。それに伴って旧社名へと戻しました。
- 2007年4月: シチズン時計 → シチズンホールディングス
- 2016年10月: シチズンホールディングス → シチズン時計
(Chart by TradingView)
やや沈んでいた株価が、旧社名の復帰以降に少し戻しています。これが社名変更の影響なのかどうか……は定かではありませんが、「時計」の文字を復活させた心境は、もしかすると原点回帰だったのでしょうか。
【事例2】アパマンは名前を変えるのが好き?
同社のリリースによると「事業のグローバル化を目指す」ことを社名変更の理由に挙げていますが、具体的なエリアなどの記載がなく、どうも〝ふわっ〟としているような……。完全に憶測ですが、トップが社名を変えるのが好きなのかもしれませんね。
- 2006年7月: アパマンショップネットワーク → アパマンショップホールディングス
- 2018年1月: アパマンショップホールディングス → APAMAN
(Chart by TradingView)
このチャートを見る限りでは、社名変更による株価への影響はなかったようです。
社名変更から見えてくる思惑
さまざまな企業の社名変更を見てきましたが、これだけで株価に何らかの影響あるということはなさそうですね。
しかし、社名を変更する裏には、将来を見据えた戦略や経営陣の思惑、(合併などやむを得ない場合を除いて)コスト要因である社名変更をあえてしてしまう気質など、企業としてのさまざまな思惑が透けて見えてきます。
そして、その思惑への期待や失望から、結果的に値動きが起こることはあり得ます。社名変更のニュースが出たら、その背景を探ってみるのも面白いかもしれません。