株式分割は本当にプラス効果? あの“高嶺の花”にも手が届くけれど

岡田禎子
2017年1月16日 9時00分

あの高嶺の花に何があった?

株式投資をしていると、成長性が高く人気のある銘柄は、株価がどんどん上昇してしまい、「高嶺(高値)の花」とあきらめるしかないケースがよくあります。

ところがある日、そんな高嶺の花だった銘柄の株価が、自分の手に届く範囲にまで下がっていました。特に悪いニュースが出たわけでもないのに、なぜでしょうか? それは、「株式分割」が行われたからかもしれません。

株式分割とは?

株式分割とは、企業が1株をいくつかに分割して、発行済み株式総数を増やすことです。たとえば「1:2」の株式分割ならば、1株を2株に分割します。「1:100」の株式分割なら、1株が100株になるということです。

このように、株式分割は1株を割合に応じて細かく分割することですが、一方で、その分割割合に応じて、理論上の株価は下落します。1株10,000円の銘柄が「1:2」の割合で株式分割されれば、株価は10,000円÷2=5,000円に下落します。「1:100」の株式分割なら、10,000円÷100=100円に下がります。

分割しても価値は変わらない

株価は下がりますが、その企業の株を保有している投資家の保有資産の価値は変わりません。分割によって、投資家が保有している株式数も増えるからです。

  • 分割前の保有資産(1株保有):10,000円×1株=10,000円
  • 分割後の保有資産(1株→2株):5,000円×2株=10,000円

ではこれを、企業価値の視点で考えてみます。企業価値を表す「時価総額」は「株価×発行済株式数」で算出されます。したがって企業価値を上げるには、株価を上げるか、株数を増やすか、そのどちらかが必要になります。株式分割によって株数は増えます。

しかし、その分1株あたりの株価は下がります。つまり、企業価値も変わらないのです。企業価値が変わらないのに、なぜ企業は株式分割を行うのでしょうか?

流動性の向上が最大のメリット

企業が株式分割を行う最大のメリットは、「流動性の向上」です。1単位あたりの必要投資額が小さくなれば、投資資金が少ない投資家でも手を出しやすくなります。企業にとっても、多くの投資家に投資をしてもらうには、その必要最低投資金額を下げるしかありません。

1株10,000円、売買単位が100株の銘柄なら、必要最低投資金額は10,000円×100株=100万円です。この銘柄が「1:5」の株式分割を行うと、1株は5株に増え、株価は10,000円÷5=2,000円に下がります。必要最低投資金額も、2,000円×100株=20万円で済むことになります。

100万円は無理だけど20万円ならば……と、これまで指をくわえて見ているだけだった層が新たに買いに入ります。その結果として取引量や出来高が増えれば、短期で売買するトレーダーや機関投資家も参入し、より活発な売買が行われるようになります。これが、企業にとってプラス効果です。

ここからは、実際の例でくわしくご説明しましょう。

・実例1:日本M&Aセンター

日本M&Aセンター<2127>は、会計士と税理士の共同出資で設立されたM&A(企業の合併・買収)の仲介会社です。2006年に東証マザーズに上場、翌年には東証1部銘柄に昇格しました。同社は、2006年から繰り返し株式分割を行い、それに伴って時価総額も増大、現在は約2,600億円にまで成長しています。

2014年3月には、NISA対応とより多くの株主獲得をめざして、「1:3」の株式分割が行われました。それまで同社の株を購入するには80万円以上が必要でしたが、それが20万円台になり、多くの個人投資家が買いやすくなりました。

その後も同社は順調に業績を伸ばし、株価は成長を続け、2016年9月の株式分割(1:2)直前は6,000円台へと、およそ2年半で約3倍になりました。高業績・高成長→株式分割による流動性の向上→さらに株価上昇、という好循環が見てとれます。

・実例2:オリエンタルランド

株式分割といえば、オリエンタルランド<4661>が思い浮かぶ投資家も多いのではないでしょうか。

東京ディズニーランドなどを手がける同社は、2011年の震災直後に6,000円の安値をつけてからは、最高益決算を3年連続で出し、株価は上昇基調となりました。2014年3月には36,000円を超え、3年で5倍以上の上昇となりました。360万円以上の資金が必要な、超・高嶺の花となったのです。

そうして迎えた2014年3月、同社は1:4の株式分割を行います。これによって最低投資金額は90万円台に下がり、個人投資家が新規で買いやすくなったとメディアにも多く取り上げられました。

しかしながら、分割直前の株価の急上昇にはそもそも株式分割への思惑が加わっており、これによって株価は天井をつけていました。そのため、その後は材料出尽くし感があり、さらに業績鈍化の懸念も出て、株価は軟調となり、現在も低迷が続いています。

投資家にとってのメリットは?

一般的に株式分割は、株価にはプラス効果があるといわれています。

2006年以前は、株式分割の権利付き最終日と効力発生日に約50日のタイムラグがあったため、品薄状態となり(新株の売買ができないため)、それを狙った投機的売買が行われることがありました。

しかし制度の改正によって、現在では新株は翌日に発行されるようになり、株式分割のタイムラグを狙った売買は意味がなくなりました。

株式分割だけで好材料とは言えない

もちろん、現在でも株式分割を材料に物色されることはあります。しかしながら、株式分割がプラスに働くかマイナスに作用するかは、銘柄次第といえます。

日本M&Aセンター<2127>のように高業績・高成長の勢いのある銘柄は、分割によって株価の上昇が期待できます。株式分割を行うということは、企業の経営側も成長性に自信を持っていることの現れであり、一種の「アナウンスメント効果」も期待できるでしょう。

一方で、分割の期待感だけで上昇した銘柄や、分割前にピークをつけた銘柄は、分割後に株価が大きく下がる可能性もあります。

「売りやすくなる」という側面も

また、株式分割が行われると、既存の株主は保有株を手放しやすくなる、ということも言えます。

たとえば、1株しか持っていなければ売るのを躊躇してしまうところを、それが5株に増えれば、一部を売却しようと考える投資家も出てくるからです。当然、新規の買いよりも既存株主の売り需要のほうが強くなれば、株価は下落します。

株価は、最終的には需要と供給のバランスで決まります。分割されるからという理由だけで判断せず、業績や成長性、直近の株価の動向などをしっかりと見極めることが肝心です。

チャートを見る際の注意点

ところで、株式分割が行われると当然、株価は大きく下がります。「1:2」の分割なら、株価は(理論上)50%値下がりすることを意味します。したがって株価チャートは、窓を開けて大暴落したような形になります。

それと同時に、株式数は2倍になるため、売買が成立した数を表す「出来高」は大幅に増えることになります。

下は、日本M&Aセンター<2127>の2016年9〜10月の日足チャートです。9月28日に「1:2」の株式分割を行ったため、文字どおり、大きく窓を開けて株価が下落している様子がわかります。分割後には、出来高も大きく増えています。

修正後か、それとも無修正か

株価チャートは、トレンドの方向性を判断するための重要なツールです。株式分割などの要因によって日々の連続性が途絶えると、きちんとした判断ができません。

そこで、ヤフーファイナンスなどでは、分割比率をもとに調整した「修正株価」が使用されています。現在の数値にあわせて過去のデータを修正し、連続性のあるチャートになるように調整されているのです。

ヤフーファイナンスのチャートでは、分割があった日に「▼(Splits=分割)」が表示されています。

一般的なチャートは修正後のデータで作られていますが、もしチャート上に大暴落や出来高急増を見かけた際には、それが修正後なのか、それとも修正なしのデータなのかを確認しましょう。

また、たとえばオリエンタルランドがかつて36,000円をつけたことなど、分割以前の株価は現在のチャートを見ただけではわかりません。そうした過去の株価は、ヤフーファイナンスなどの「時系列」のデータを見ることで調べられます。

なお当サイトでも、特に明記しないかぎり、修正株価をもとにしたチャートを掲載しています。

突然の“暴落”に慌てないために

株式分割は、最低投資金額が下がることから、個人投資家にとっては「高嶺の花」だった銘柄が買いやすくなるというメリットはあります。しかし、「株式分割=プラス効果で株価上昇」ということには必ずしもつながりません。

2018年10月には、株の売買単位が100株に統一されます。これに合わせて、最低投資金額を下げるために株主分割する企業が増えています。

株式分割の情報は、企業のホームページ上のIR情報や、証券会社のホームページで知ることができます。ある日突然、株価が暴落して慌てることのないように、保有銘柄や気になる銘柄はチェックしておきましょう。


それまで手が届かなかった銘柄を買えるようになるため、個人投資家にとってはうれしい「株式分割」。ただし、これが値動きに直結するわけではないので、過大な期待は禁物です。株価とは、たったひとつの要素で決まるものではありません。

[執筆者]岡田禎子
岡田禎子
[おかだ・さちこ]証券会社、資産運用会社を経て、ファイナンシャル・プランナーとして独立。資産運用の観点から「投資は面白い」をモットーに、投資の素晴らしさ、楽しさを一人でも多くの方に伝えていけるよう活動中。個人投資家としては20年以上の経験があり、特に個別株投資については特別な思い入れがある。さまざまなメディアに執筆するほか、セミナー講師も務める。テレビ東京系列ドラマ「インベスターZ」の脚本協力も務める。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、ファイナンシャル・プランナー(CFP)
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