コロナで「おはぎゃー」続出 知っておきたいアメリカ市場の基礎知識
コロナショックで「おはぎゃー」な日々
「おはぎゃー」という言葉を知っていますか? もとはFXトレーダーたちの間で生まれた言葉です。夜に寝ているうちに為替相場が大きく動いてしまい、朝起きて口座を見たら強制決済されて損をしていた……という出来事を指します。
要するに、「おはよう」と同時に「ぎゃーっ!」となる、ということで「おはぎゃー」です。
FXにかぎらず、アメリカ株投資が個人投資家の間でも一般的になり、朝起きて株価をチェックしたら暴落していてびっくり!という「おはぎゃー」は珍しいものではなくなりました。
2020年3月にはコロナショックでアメリカ市場でも大混乱が起き、ダウ平均株価が史上最大の下げ幅を記録したかと思えば最大の上昇を見せたり、導入後初のサーキットブレーカーが発動されたり、アメリカ株をやっていない人でもアメリカ市場が気になったのではないでしょうか。
アメリカ市場3つの特徴
世界市場に影響する2つの市場
アメリカの主な株式市場は2つ。グローバルな一流企業が集まる世界最大の市場 「ニューヨーク証券取引所(NYSE)」と、ハイテク企業を中心とする「ナスダック(NASDAQ)」です。
2020年4月時点のニューヨーク証券取引所の上場企業数は2,800社、ナスダック市場は3,300社です。 この2つの市場は世界への影響力が大きく、世界の総時価総額の40%程度を占めていると言われます。
日本企業の中にも、これらの市場に上場している企業があります。たとえばトヨタ自動車や任天堂、LINEといった大企業です。これらの企業は、ADR(American Depositary Receipt=米国預託証券)を利用してアメリカ市場に上場しています。
ADRは、アメリカ以外の国で設立された企業が発行した株式を裏づけとして、アメリカで発行される有価証券で、厳密には株式ではありませんが、投資家が購入すれば株式を保有しているのとほぼ同じ効果を得ることができます。
世界を動かす3つの株価指数
ニュースでもよく耳にする「ダウ」という言葉。これはアメリカの株価指数のひとつである「ダウ平均株価」のことで、世界で最も有名な株価指数でもあります。
ダウ・ジョーンズ社が選定したアメリカを代表する30銘柄で構成されており、正式には「ダウ工業株30種平均」。「NYダウ」とも言われ、ボーイングやゴールドマン・サックス、コカ・コーラやマクドナルド、アップルやマイクロソフトといった世界的グローバル企業の株価動向を表します。
これに対して「S&P500」は、流動性がある大型株から選定された500銘柄で構成され、アメリカ市場全体の動きを表します。構成銘柄数に差があるものの、日本市場における日経平均株価がダウ平均株価、TOPIXがS&P500に相当すると考えられます。
さらに、ナスダック市場に上場している全銘柄を対象とした「ナスダック総合指数」も、ハイテク関連やネット関連の動向を知るための重要な指標とされます。
夏と夏以外、2つの取引時間
日本市場の取引時間(立会時間)は9時〜15時(11時30分〜12時30分は昼休み)ですが、アメリカ市場は9時30分〜16時。昼休みはありません。
アメリカ株で「おはぎゃー」が起こるのは、時差の関係で、アメリカ市場の取引時間が日本の深夜に当たるからです。ニューヨーク(アメリカ東部標準時)と日本の時差は13時間。ほぼ昼夜逆転で生きていると言っていいでしょう。
ここで注意しなければいけないのが、季節によって時差が変わることです。
特にアメリカ北部では夏と冬の日照時間の差が激しく、ニューヨークの場合、夏には5時半ごろから空が明るくなる一方、夕方が長く20時でもまだ明るいのです。この長い日照時間を活かすために、夏の間は時計の針を1時間進める夏時間(サマータイム)が設けられています(ヨーロッパでも同様)。
具体的には、3月の第2日曜日から11月の第1日曜日までは夏時間が適用され、それ以外は標準時間(冬時間)。夏時間の間は、ニューヨークと日本の時差は1時間小さくなり、12時間になるのです。それぞれの取引時間を日本時間にすると以下のようになります。
[アメリカ市場の取引時間:9時30分〜16時]
- 夏時間:日本時間22時30分〜翌朝5時
- 冬時間:日本時間23時30分〜翌朝6時
夏時間になると「おはぎゃー」も1時間早くなりますので、注意したいところです。
日本株とアメリカ株、4つの違い
コロナショックのおかげで否応なしにアメリカ市場に注目し、この機にアメリカ株に興味をもった人もいるかもしれません。始める前にまず知っておきたいのが、日本株との違いです。
銘柄コードはアルファベット
日本株の銘柄コードは4桁の数字ですが、アメリカ株ではアルファベットの「ティッカーシンボル」が用いられます。アップルは「AAPL」、アマゾン・ドット・コムは「AMZN」といった具合に、企業名の頭文字をとって付けているケースが多いため、慣れてしまえば数字よりも簡単に覚えることができます。
1株単位で買える
日本株は基本的に100株単位でないと売買できませんが、アメリカ株は1株から購入可能です。株価が100ドル程度の銘柄も多く、1万円くらいから購入できてしまいます。
前述したADRでアメリカ市場に上場している日本企業の場合、日本市場で購入すると高額になってしまうのに対し、アメリカ市場であれば手頃な値段で買えることもあります。
配当頻度が多く利回りも高い
日本株の配当は年1~2回が一般的なのに対して、アメリカでは年4回の配当を出す企業が大半を占めます。3カ月に一度のペースですね。配当利回りも日本株よりも高めなので、配当を目当てにアメリカ株投資をする個人投資家も多くいます。
「ストップ高」「ストップ安」がない
日本市場には、株価の過度な動きを抑制する「ストップ高」「ストップ安」という制度があります。一方のアメリカ市場には、これらがありません。その代わりにあるのが「サーキット・ブレーカー制度」です。
サーキット・ブレーカーは、市場が過度な値動きをした際に、取引を一時中断することで過熱を鎮めて冷静な取引に戻そうとする措置です。 現在は、以下のような3つのレベルが設けられています。
- 9時30分から15時25分の間に、S&P500が前日終値より7%下落したら15分間取引を停止
- 9時30分から15時25分の間に、S&P500が前日終値より13%下落したら15分間取引を停止
- S&P500が前日終値より20%下落したら、その日は取引を停止
コロナショックに見舞われた2020年3月9日、導入以来初めて発動しました。
アメリカ市場の影響力
アメリカ市場は世界の金融市場の中心であり、世界中の投資家がその動向をチェックしています。それゆえ、アメリカ特有の事情で株価が大きく動いた場合であっても、その余波が日本市場にまでやって来ることもあります。
アメリカ市場も日本と同じく月曜日から金曜日の平日に取引が行われますが、時差の関係で、日本の金曜日にすべての取引が終わった後の深夜、アメリカで金曜日の取引が始まります。ここで大きな動きがあった場合には、土日を挟んで、翌週月曜日の日本市場に影響を与える可能性があります。
しかし、衝撃は土日のうちに緩和され、月曜日の日本市場では目立った動きにならないこともあり得ます。また、土日に世界的な出来事が起こった場合には、アメリカ市場の動向を先に確認することはできず、真っ先に取引が始まる日本市場に世界の注目が集まることだってあります。
アメリカ市場の動向は重要な指標のひとつではありますが、それが自分の売買にどんな影響を与えるのか、保有銘柄の株価にどう関係するのかは、また別の話。参考データとして注視しつつも、それに振り回されて毎朝「おはぎゃー」連発……とならないようにしたいですね。