「コロナ禍でアメリカ市場が弱気相場入り」が意味するもの

佐々木達也 2020/03/30

コロナショックで弱気相場入り?

新型コロナウィルスの感染拡大による景気悪化懸念、原油相場の急落による産油国の財政悪化などを背景に、世界的に株式相場の急落が続いています。アメリカ株や日本株の大幅な下落を受けて、「弱気相場に転じた」と各メディアで報じられました。

リーマンショックや今回の新型コロナウイルスの影響による下落相場のように、市場全体が先行きの不安感に襲われている地合いにおいては、優良大型株も新興小型株も関係なく、売りが売りを呼ぶ展開になります。これが「弱気相場」と言われる状態です。

反対に、いわゆるバブルのような「強気相場」になると、ほとんどの市場参加者が先行き値上がりへの期待感から、とにかく値上がりする前に少しでも早く買い注文を入れようという状況になります。

市場参加者の心理が株価を作る

株の世界では「市場心理」という単語がよく使われますが、市場は人間同士が作っている以上、市場参加者の心理が強気なのか弱気なのか、という雰囲気は株価に大きな影響を与えます。例えば弱気相場では、企業業績や配当利回り、PER・PBRなどによる理論価格を大きく超えて下落することも多々あります。

株式市場はしばしば生き物に喩えられますが、まさに生き物が暴れているかのように、現在の相場は乱高下を繰り返しています。

そもそも弱気相場とは

弱気相場入りの定義はまちまちですが、一般的には、大型株の指数が直近1年の高値から10%以上下落すると「調整局面入り」したとみなし、20%以上の下落となると「弱気相場に入った」とみなされます。

3月12日のダウ工業株30種平均は1,464ドル下落の23,553ドルで取引を終えました。2月12日に付けた史上最高値である29,551ドルから20%超の下落となったため、これをもって「弱気相場入り」となったのです。リーマンショックのあった2008年〜2009年以降では、実に11年ぶりのことです。

弱気相場からの景気後退は8割

過去の経験則によると、弱気相場入りした後は実体経済が景気後退入りする確率が高くなります。米ブルームバーグによると、過去93年間でアメリカ株相場が弱気相場入りしたのは13回で、その後1年以内に景気後退しなかったのは2回だけ、8割のケースでは景気後退している、とのことです。

アメリカ経済は、近年では米中貿易摩擦などにより製造業などの景況感が悪化していました。一方で、サービス業や小売などの非製造業は堅調で、株高による資産効果や減税などの効果もあり、小売売上高や住宅投資などの経済指標も緩やかな伸びを見せていました。

しかし、新型コロナウィルスの感染拡大により人や物の移動が著しく制限され、これまで堅調だった小売・旅行・ホテルなどのサービス業などで急速に景気悪化が広がっており、少なくとも短期的な景気後退は避けられない模様です。

それでは強気相場とは

一方で強気相場とは、こちらも明確な定義はありませんが、概ね弱気相場入りすることなく長期の上昇相場が続くことを指しています。

ダウ平均株価やS&P500などのアメリカの主要株価指数は、リーマンショック後の2009年3月から2020年2月まで、約11年間、弱気相場入りすることなく右肩上がりの強気相場を続けていました。この間にダウ平均株価は、6,547ドルから29,551ドルへと約4.5倍になっています。

史上最長の強気相場が続いた理由は解釈が分かれますが、リーマンショック後に米FRBや欧州ECB、日銀など先進国の中央銀行が景気対策のために行ってきた量的緩和政策により供給されたマネーが、景気や金融市場の下支えを続けてきたことが大きいだろうと筆者は考えています。

また、過去の景気回復局面に比べてインフレ上昇率が低かったことも、強気相場が継続した理由のひとつとして挙げられるでしょう。

史上最長の強気相場の背景にあるもの

経済のセオリーのひとつとして、景気の落ち込みを支えるための金融政策によって景気が回復すると、需要が増加して物価が上がるため、インフレ率が上昇します。インフレ率が過度に上昇すると、賃金が同じ場合は消費者の購買力が実質的に低下します。また、コスト増加により企業の利益を圧迫します。

このようなインフレによる悪循環を回避するために、中央銀行は景気の過熱を抑えるべく金利を引き上げたり、量的緩和を停止して市中のマネーを回収するなど、インフレを抑えるように金融政策を変更します。過去においては、こうした金融引き締めによって過熱していた景気にブレーキを適度にかけていたのです。

しかし、リーマンショック以降の11年にわたるアメリカの長期の景気回復局面では、金融緩和や利下げの効果により雇用が回復し、賃金もゆるやかに上昇しました。その結果、消費や住宅投資も堅調に推移しましたが、過去に見られたような景気回復に伴うインフレ率の急上昇も起こらなかったため、経済の温度が適温に保たれた、と考えられています。

この、いわゆる「適温相場」の継続によってアメリカ株は、ヨーロッパ債務危機や中国の景気のスローダウン、米中貿易摩擦などの外部環境の悪化による調整が途中あったものの、長期的な強気相場が続いていました。

弱気相場で投資家は

アメリカが強気相場を続けていた期間の日経平均株価を見てみると、2009年3月の安値7,054円から2020年1月の高値24,083円までは約3.4倍になっています。この間に、バブル後の戻り高値24,270円(2018年10月)をつけていますが、史上最高値の38,915円(1989年12月29日)にはほど遠い水準です。

アメリカ株と違い日本株は、この11年間に何度か、指数が直近1年高値から20%以上下落する「弱気相場入り」をしています。

では、弱気相場に入ったとき、個人投資家はどうすればいいのでしょうか。この期間は株を買ってはいけないのか。強気相場のサインが出るまで待つべきなのか。それに関しては、次のような有名な相場格言があります。

強気相場は、悲観の中に生まれ、懐疑の中に育ち、楽観の中で成熟し、幸福感の中で消えていく

アメリカの著名な投資家、ジョン・テンプルトンの言葉です。弱気相場が本格化し、市場全体が悲観に傾いているときこそ、次の強気相場の起点となることを示唆しています。

リーマンショックを振り返ってみると、2008年9月15日に投資銀行リーマン・ブラザーズが経営破綻しました。その後、信用不安は世界に波及し、アメリカの自動車業界ビッグ3のうち、クライスラーが翌2009年4月に、GMが2009年6月に破産法適用を申請するなど、製造業にも大きな影を落としました。

しかし前述のように、ダウ平均が安値7,054ドルをつけたのは2009年3月。その後クライスラーやGMが破綻しても、これを下回るほど下落することはなかったということです。

雰囲気に流されすぎない

株価が急落する場面では、投資家心理として「とても怖くて買えない」といった雰囲気にもなるでしょうが、まさに「強気相場は悲観の中に生まれていた」ことがここからわかります。

弱気相場も強気相場も、株価を決める重要なファクターである「市場心理」の傾きを表す用語です。弱気相場の中においては過度にリスクを取りすぎないことも重要ですが、上がり続ける相場がないのと同じように、下がり続ける相場もありません。

そのことを念頭に置いて、過度に雰囲気に流されすぎず、市場心理が弱気/強気のどちらかに傾きすぎていないかどうかを常に意識しておきたいものです。

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[執筆者]佐々木達也
佐々木達也
[ささき・たつや]金融機関で債券畑を経験後、証券アナリストとして株式の調査に携わる。市場動向や株式を中心としたリサーチやレポート執筆などを業務としている。ファイナンシャルプランナー資格も取得し、現在はライターとしても活動中。株式個別銘柄、市況など個人向けのテーマを中心にわかりやすさを心がけた記事を執筆。
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