オリンピック延期で株価はどうなる? 気になる今後の注目銘柄とは 

岡田禎子
2020年4月3日 8時00分

五輪延期で株価はどうなる?

オリンピック特需によって企業の利益が潤い、株価も上がる!

という合い言葉とともに、個人投資家にとってビッグチャンスとされていた東京2020オリンピック・パラリンピックですが、新型コロナウイルスの世界的な広がりに歯止めがかからず、その開催を危ぶむ声が日に日に高まり、中止か延期かマーケットも揺れています……と書いていたところに、1年延期のニュースが飛び込んできました。

この決定は、コロナ問題が収束することが前提条件にはなるものの、五輪開催による経済効果が1年後にスライドすることを意味しており、マーケットにはポジティブな材料となり得ます。

実際、3月24日の延期決定を受けて、翌25日の東京市場は百貨店やスポーツ関連などのオリンピック関連銘柄が軒並み大幅高となりました。特に、東京2020の象徴的な銘柄であるアシックス<7936>は、特需復活への期待からストップ高となりました。

新型コロナウイルス問題で経済活動が停滞する中、五輪開催は人々の「心の拠り所」でもあったわけで、中止でなく延期で本当に良かった……という投資家の安堵感の現れだったとも言えます。

抜群の経済効果も1年延長するか

2020年7月24日から計17日にわたって開催される予定だった東京2020オリンピックは、ほぼ1年後の2021年7月23日開催へと延期されることが決定しました。言い換えれば、オリンピック関連銘柄の〝寿命〟が1年延びた、ということにもなります。

五輪開催による経済効果としては、2014年から2020年の7年間で10兆円程度と言われており、本番の2020年度は2兆円程度が期待されていました。これが1年後にスライドされることとなり、さらに延期に伴う追加費用は最大3000億円程度と試算されています(大会組織委員会・IOC)。

このように経済効果はバツグンであり、延期決定となった今、株式市場では再び関連銘柄が脚光を浴びる可能性が出てきました。

実は幅広いオリンピック関連銘柄

五輪関連する銘柄としては、スタジアムや会場の建設を手がける建設関連、道路などインフラ整備、観光・宿泊、警備やテロ対策、テレビ・メディア・広告、アスリートによる広告効果が期待できるスポーツ用品関連といった代表的な企業が、まずは挙げられます。

そのほか、有望選手のスポンサーとなっている企業、オリンピックを契機とした5Gなど次世代インフラ整備関連……など、実に幅広い業種にわたって関連銘柄が考えられます。

これまでに注目された銘柄

前回2016年のリオ五輪の際には、東京五輪を控えていることもあり、特にスポーツ関連銘柄が注目を集めました。

日本代表選手団のオフィシャルスポーツウェアを手がけたアシックス<7936>や、選手のユニホームを手がけるミズノ<8022>、また有名選手が所属しているコナミホールディングス<9766>やルネサンス<2378>といったスポーツクラブ関係も物色されました。

・アシックス<7936>

スポーツメーカーとして世界的にも知名度のあるアシックス<7936>は、東京2020の象徴的な銘柄のひとつです。

2013年に東京五輪の開催が決定した後、株価は大きく上昇し、2015年4月には東京2020組織委員会のゴールドパートナーとして、国内スポーツメーカーで唯一、五輪の呼称・マークが使える独占契約を結び、同年8月には4,000円の最高値をつけます。

しかしその後はアメリカ事業の販売停滞やブラジルレアル下落で苦戦を強いられ、株価も下落基調となります。直近では新型コロナショックと、2019年12月期決算で今期21%減益予想を発表したこともあり、株価は大きく下落しましたが、3月後半には東京2020開催延期決定を受けてストップ高となっています。

これから注目される銘柄

五輪の前工程としてのインフラ投資や準備段階での投資などはすでに終わっており、それに伴って、ピークアウトした大手建設株やスポーツ関連銘柄に変わって、投資家の関心は、開催直前・開催期間中・閉会後の工程に関連する銘柄に移っています。

開催前のこの数年で大きな盛り上がりを見せていたのが、インバウンド関連銘柄です。

政府は2020年までに訪日外国人客数を4000万人にする目標を打ち出しており、「国策に売りなし」の相場格言どおり、五輪開催に伴って増加が予想される外国人観光客へのおもてなし関連銘柄として、旅行、交通、航空、ホテルなど宿泊、観光業、飲食業やそれらの関連銘柄などが注目を集めてきました。

利用者増が見込まれるJR東日本(東日本旅客鉄道<9020>)やJR東海(東海旅客鉄道<9022>)など鉄道各社や、ぴあ<4337>や手間いらず<2477>などの各種予約サイト、来場者が期待できるオリエンタルランド<4661>やサンリオ<8136>のテーマパークなどが、業績への期待から物色されました。

また、セキュリティ関連銘柄として、東京2020大会の警備やテロ対策として、過去最大の体制となる5万人規模の警察官・民間警備員の投入が見込まれており、業績への期待感が高まりから、セコム<9735>や有名選手も所属するALSOK(綜合警備保障<2331>)なども注目されています。

延期で懸念される銘柄は?

しかしながら、開催延期が決定した今、それによる経済損失は2〜3兆円とも言われており、交通関連や娯楽・レジャー・文化関連、宿泊・外食関連など、いわゆるインバウンド効果のある業種は直接的なダメージを受けそうです。

特に宿泊・外食関連は、ただでさえ消費増税や新型コロナウイルスの影響で業績へのマイナスインパクトが大きいところに、五輪開催による大会期間中の売り上げ回復を期待していた分が延期でキャンセルとなるため、より深刻な事態を招く可能性もあります。

単純に「五輪特需は2021年度へスライドする」とはいかない、ということです。これらの銘柄は特に慎重に今後の業績を見守る必要があるでしょう。

期間中の連想買いは短命に注意

オリンピック開催中や閉会後に株価の値上がり期待が持てるのが、日本代表選手の所属する企業やスポンサー企業です。選手たちのメダル獲得で消費者への好印象や知名度が上がり、株価へもプラスの影響を与えることが考えられます。

メダルが期待される競泳の瀬戸大也選手はANAホールディングス<9202>に所属、柔道の大野将平選手は旭化成<3407>、テニスの大阪なおみ選手は日清食品ホールディングス<2897>に所属契約しています。

また、事前に注目されていない種目でも、選手の活躍によっては一気に世間の注目を集める可能性があります。

さらに、ラグビーワールドカップ2019で日本代表チームの桜のジャージが人気となってスポーツウェアのゴールドウイン<8111>が注目されたように、選手の身につけているウェアや道具、選手の好む飲料や食品といったものから様々な「連想買い」を誘うケースもあります。

前回のリオ五輪では、閉会式に安倍首相が人気ゲーム「スーパーマリオブラザーズ」の格好で登場したことで任天堂<7974>の株価が上昇したり、選手村でのコンドーム無料配布からオカモト<5122>が高値更新したり、といった思いもしなかった銘柄が注目される場面もありました。

ただし、これらの銘柄は、瞬間的に株価が上昇しても持続はせずに短命に終わることが多いため、注意が必要です。

ビッグゲームで勝利をつかめ

新型コロナウイルスの猛威が世界を覆う中、世界各国で金融政策や財政政策など大規模な景気対策が打ち出されています。1年後となった五輪開催までにコロナ問題が無事収束すれば、東京2020が「危機に打ち勝った人類の祝祭になる(by IOCバッハ会長)」となる可能性はあります。

五輪後の2025年には大阪万博も控えており、引き続き、インバウンド関連や東京2020がお披露目の場になるであろう5G関連など、中長期の視点で銘柄を選ぶのもいいかもしれません。

オリンピックは世界最大のスポーツの祭典ですが、関連する銘柄の裾野が広く、国策銘柄として乗っかったり、予想外の銘柄が急騰する可能性もあったりで、様々な技と経験で利益を得るチャンスにもなります。投資家にとっても、腕試しのできる一大祭典なのです。

もちろん、感染拡大がどこまで続くのかはいまだ不透明であり、今後の動向を見守る必要はありますが、状況をすばやく認識しつつ、冷静な目で銘柄選びを行い、このビッグゲームに勝利したいものです。

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[執筆者]岡田禎子
岡田禎子
[おかだ・さちこ]証券会社、資産運用会社を経て、ファイナンシャル・プランナーとして独立。資産運用の観点から「投資は面白い」をモットーに、投資の素晴らしさ、楽しさを一人でも多くの方に伝えていけるよう活動中。個人投資家としては20年以上の経験があり、特に個別株投資については特別な思い入れがある。さまざまなメディアに執筆するほか、セミナー講師も務める。テレビ東京系列ドラマ「インベスターZ」の脚本協力も務める。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、ファイナンシャル・プランナー(CFP)
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