マザーズ指数の上昇でIPO市場も大にぎわい 特に人気を集めた銘柄の共通点は?【IPO通信簿】
《「確実に儲かる」として個人投資家に人気のIPO株投資。しかし近年、そんな「夢の時代」にも陰りが……。IPOで上がる株と下がる株は何が違うのかをデータから読み解きます》
長く低迷が続いていた東証マザーズ指数が、6月はついに上昇。そして、マザーズ指数の上昇とともに、6月のIPO(新規株式公開)市場も堅調に推移して、IPO銘柄の半数以上が初値騰落率100%超という素晴らしい結果になりました。
ついにマザーズも高値更新
2023年春以降、日経平均株価が堅調な推移を見せる一方で、マザーズ指数は苦戦を余儀なくされていました。しかし6月は、日経平均とともにマザーズ指数も上昇し、年初来高値を更新。2022年1月の急落から安値圏での推移が続いていましたが、ようやくそこから脱する上昇を見せました。
ただし、月足で見ると、6月は上ヒゲのある陽線となっており、売り圧力の強さも否定できません。6月の上昇を契機に、本格的な上昇が続くのかに注目が集まります。
*2022年4月の市場再編により東証マザーズ市場はなくなりましたが、マザーズ指数の算出は継続中のため、データの継続性を考慮して、本シリーズでは引き続きマザーズ指数を参照しています。
2023年6月のIPOランキング
例年ゴールデンウィーク明けのIPO市場は開店休業状態となります。今年も4月26日を最後に、5月のIPOはゼロ。6月に入って市場再開となり、18銘柄がIPOを果たしました。
18銘柄という数は、4月の9銘柄から一気に倍増しています。さらに、これまで最多だった3月の15銘柄も抜いて、ひと月のIPO件数として今年の最多記録を更新しました。
それら18銘柄について、公募価格に対して初値がどれだけ上昇(あるいは下落)したかを表す「初値騰落率」のランキングで見てみましょう(太字はピックアップ解説あり)。
マザーズ指数は堅調ながらも、公募割れが3つ発生しました。一方で、初値騰落率が100%を超えた銘柄が10件あり、6月にIPOした銘柄のうち6割近くで公開価格から2倍以上の初値を付けたことになります。
かつて「IPO株投資なら誰でも儲かる」というイメージがありました。6月のIPO市場はその当時をやや彷彿させる状態だったと言えます。その背景にはマザーズ指数の上昇があり、やはり、IPO市場の動向にはマザーズ指数の影響が強い、ということも再認識できる月となりました。
6月に話題を集めたIPO銘柄
6月のIPO銘柄のなかから、株式市場で話題となった2銘柄について詳しく見ていきましょう。2023年は楽天銀行<5838>など有名銘柄のIPOも相次いでいましたが、6月は一般的に知名度の高い企業のIPOはありませんでした。
今回は、初値騰落率の上位2銘柄を取り上げました。いずれも「DX」がテーマの銘柄です。近年、IPOのテーマとして「AI」が話題を集めていますが、昨今では「DX」も同様に人気テーマとして注目されています。
DX銘柄としてIPO成功も、その後は株価下落
・アイデミー<5577>
6月22日上場/東京グロース市場/公開価格1,050円
→初値5,560円/初値騰落率429.5%
アイデミー<5577>は、DXのデジタル人材育成支援サービスを提供するベンチャー企業。188コースに21万人以上が受講しており、日本最大級のDX研修プラットフォームを有しています。
アイデミーの過去の業績と今期の業績予想は次のようになっています。
- 2020年5月期:売上高3.7億円、経常利益▲2.1億円、当期純利益▲2.1億円
- 2021年5月期:売上高6.0億円、経常利益▲1.7億円、当期純利益▲1.7億円
- 2022年5月期:売上高11億円、経常利益▲0.0億円、当期純利益▲0.0億円
- 2023年5月期(予想):売上高16億円、経常利益2.0億円、当期純利益2.3億円
着実に業績を拡大し、2022年5月期で収支均衡となりました。そして今期(2023年5月期)は売上高15億円を超えて黒字化することが見込まれています。第3四半期時点での経常利益は1.5億円ですので、通期予想の達成確度は高い状態です。
DX関連サービスが活況を呈するなかで大手企業を中心にDX研修が広がっており、DXというキーワードに加えて利益を伴う事業拡大が評価される形となりました。公開価格では41億円だった時価総額も初値では220億円と約5倍になっており、市場から大きく評価されてIPOに成功しました。
サブスクリプション的に顧客の積み上げとともに売上と利益が積み上がるビジネスモデルであり、今後の継続的な成長も期待できそうです。そうした期待を背景にどのような株価推移を見せるかが注目されます。
DX銘柄としてIPO成功、その後も株価上昇中
・ABEJA<5574>
6月13日上場/東京グロース市場/公開価格1,550円
→初値4,980円/初値騰落率221.3%
ABEJA<5574>は、DXプラットフォーム「ABEJA PLATFORM」を活用した顧客のDX化支援事業を手がける企業です。
過去の業績と今期の業績予想は次のとおり。
- 2020年8月期:売上高10億円、経常利益▲8.8億円、当期純利益▲10.3億円
- 2021年8月期:売上高12億円、経常利益▲2.5億円、当期純利益▲3.5億円
- 2022年8月期:売上高19億円、経常利益▲1.8億円、当期純利益▲1.9億円
- 2023年8月期(予想):売上高27億円、経常利益3.6億円、当期純利益3.2億円
2022年8月期まで赤字が継続していましたが、今期(2023年8月期)からは黒字を予定しています。すでに第2四半期時点で黒字化(経常利益3.4億円)しており、通期予想を達成する確度は高いでしょう。
前期時点でのデータですが、継続顧客からの売上率が91.8%あり、サブスクリプション型の収益構造を構築できていると言えます。
時価総額も、公開価格で100億円を超えていましたが(130億円)、初値では418億円と大幅に拡大し、IPOに成功しました。DXがIPOのテーマとして人気化するなかで、手堅い収益構造に加えて黒字転換が評価された形となりました。
アイデミー同様に高い評価を得てのIPO成功でしたが、その後の株価も順調であり、6月の終値は7,610円で初値を約5割も上回っています。
7月は「AI」に注目
6月のIPO市場は「DX」がテーマとなる銘柄が多く、いずれも良好なパフォーマンスを見せて、市場の盛り上がりを後押ししました。
7月は12銘柄のIPOが予定されています。「AI」がテーマとなる銘柄が3つあり、6月における「DX」のように人気化するか、マザーズ指数の推移とともに注目されます。