史上最高値を牽引した大型株と、トランプ・トレードで買われた銘柄たち【7月の高値更新】
《株価の新高値は、銘柄にとっての「自己ベスト」。それは〝伸びしろ〟の表れと言えるのかもしれません。最近ベストを更新して伸びしろを見せているのは、どんな銘柄か。直近で高値をつけた銘柄から相場の流れを読み解く【高値更新を追え!】》
7月の日経平均株価は3か月ぶりに反落し、前月末に比べて481円、約1.2%の下落となりました。
米トランプ前大統領の大統領選での優位を受けた「トランプ・トレード」により、月前半はアメリカ株が上昇。日経平均株価は11日に史上最高値の42,426円を付けるなど躍進しました。さらにはTOPIX(東証株価指数)も、およそ34年ぶりにバブル期の史上最高値を更新するなど上昇に弾みが付きました。
しかしその後はハイテク株など幅広い銘柄が売られ、調整ムードが台頭し、日経平均株価は一時38,000円を割り込むなど波乱の展開となりました。月末にかけては、4~6月期の日米の企業決算や日銀の金融政策決定会合といったイベントをこなす中で押し目買いも入る、という流れとなりました。
そして8月に入ってからは波乱の展開となっていますが、そうした中で高値を更新しているのは、どのような銘柄か。新高値・新安値をつけた銘柄を取り上げながら、それぞれの共通点に着目し、7月相場で特徴的だった銘柄をひもときます。
・高値更新とは?
相場解説などで頻繁に使われる「高値更新」とは、読んで字のごとく、ある期間内の高値を更新したという意味です。ここに「昨年来」「年初来」「上場来」など期間を表す言葉が添えられて、「年初来高値を更新」などと言われます。また、新たに付いた高値を「新高値」と呼びます。
【株価の高値更新】
- 上場来高値……株式市場に上場して以来の高値。買い方の強い物色が株価に現れているといえる
- 昨年来高値……1〜3月に使われ、前年の1月1日から直近までの期間が対象
- 年初来高値……4月以降に使われ、その年の1月1日から直近までの期間が対象
大型の国際優良株が軒並み新値
7月前半は大型株が堅調に推移。4日にはTOPIXがバブル期の1989年末に付けた史上最高値を更新しました。その後も上値追いが続き、11日には、TOPIXの影響を受けやすい大型の国際優良株が軒並み新高値となっています。
日立製作所<6501>は、7月11日に分割考慮後の上場来高値3,892円を付けました。DXや再生エネルギー、AI(人工知能)の「ルマーダ」事業の拡大などで収益力の強化が顕著になっています。足元では株主還元の強化を評価する声もあり、中長期的での株価上昇トレンドが続いています。
ソニーグループ<6758>も、11日に年初来高値15,485円を付けました。5月に実施された経営方針説明会では、映画・アニメ・音楽などで保有するコンテンツのIP(知的財産)の価値最大化の方針などが再度強調されました。
また、自社株買いや株式分割と合わせての実質増配計画など株主還元の強化なども発表しています。株価は出遅れ気味だったこともあり、他の大型株に比べても底堅い推移となっています。
そのほか、キーエンス<6861>、任天堂<7974>や金融株、商社株などの時価総額上位の大型株が軒並み新高値を付けました。
トランプ・トレードで買われた株
今年11月のアメリカ大統領選挙の情勢を巡り、株式市場でも資金が動いています。
6月27日に開催されたテレビ討論会でバイデン大統領が精彩を欠いたことで、トランプ氏有利の見方が大勢を占めました。7月13日には、演説中に起きた銃撃事件の直後にトランプ氏が拳を突き上げて支持者にアピールする写真が大きく報じられ、これがトランプ氏の追い風になったとする見方もあります。
トランプ氏が当選した場合は、景気刺激のため財政支出を拡大するとの見方から金利が上昇。建機大手の小松製作所<6301>は同業の米キャタピラー<CAT>とともに買われ、17日に上場来高値を更新しました。
また、日本などに対して自国による軍備強化を求めるとの思惑で、防衛関連とされる三菱重工業<7011>も8日に上場来高値を上回るなど、トランプ・トレードによる物色が続きました。
さらに、トランプ氏によるドル高を是正してアメリカの製造業を支援するとの発言を受け、7月後半にかけて円高ドル安が進行。円安による輸入コスト増で苦しんでいた内需株に資金が向かうきっかけとなりました。
住友大阪セメント<5232>は、19日に年初来高値4,311円を付けました。円高で石油などの原材料コストが低減され、利益率が改善するとの期待で買われました。
猛暑到来で関連銘柄に資金流入
今年の夏の気温は全国的に例年より暑い気温が続く、観測史上最高と言われた2023年を超える猛暑となる可能性があります。こうした中でエアコンやアイスクリームなど猛暑関連銘柄が買われています。
B-Rサーティワンアイスクリーム<2268>は22日に年初来高値を更新しました。19日に発表した今年1~6月期の決算は、売上高が前年同期比26%増の141億円、営業利益が89%増の15億円と大幅増収増益でした。
「スーパーマリオ」や「ドラえもん」などのキャラクターとのコラボキャンペーンや商品ラインナップの強化で、国内の売上高は過去最高を記録しました。また、会員制のアプリ「31club」の会員数が800万人を超えるなど、デジタル強化策も成功し、会員の購入額は非会員を30%以上も上回っています。
また、アイスクリームの卸売りやスーパーマーケット事業のアイスコ<7698>は同じく22日に上場来高値を上回りました。
飲料やアイスクリームなどを森永乳業<2264>も、23日に年初来高値3,625円を付けています。「マウントレーニア」などコーヒー飲料やアイスクリームの「ピノ」「パルム」「モウ」などの採算の良い商品の伸びを見込んでいます。
また、神戸工場の製造棟を増設し、4月からアイスクリームの製造設備を増強しており、需要の増加に対応しています。
建材や金属の卸売り、家電の製造・販売の山善<8051>も31日に年初来高値を更新です。同社は「YAMAZEN」ブランドで扇風機・サーキュレーター・調理家電などのプライベートブランド商品を展開しており、猛暑を受けて物色されたと思われます。
相場調整で様々な銘柄が新安値
一方、7月後半の相場調整で様々な銘柄が新安値を下回るなど、銘柄によって明暗が分かれました。
パナソニックホールディングス<6752>は26日に年初来安値を1,197円を下回りました。電気自動車(EV)向け電池で協業する米テスラ<TSLA>のEV販売の低迷も、株価の下落につながりました。
23日にテスラが発表した4~6月期の純利益は前年同期比45%減の14億7800万ドルと振るいませんでした。中国の新興EVメーカーなどとの競争激化で値引きをせざるを得ず、利益率が悪化しました。
産業用のロボットやACサーボモーター大手の安川電機<6506>も7月は株価の下落が続き、25日に年初来安値5,013円を付けました。主力の中国の景気悪化やスマートフォンや半導体の設備投資設備投資の先送りが続いており、受注が落ち込んでいます。
5日に発表した3~5月期決算は売上高が7%減の1324億円、営業利益が32%減の111億円と利益率の悪化が続いています。
牛丼の吉野家ホールディングス<9861>も業績の悪化を懸念した売りに押され、22日に年初来安値を下回りました。10日に発表した3~5月期決算は、売上高が7%増の475億円という増収ながらも営業利益は39%減の8億8000万円と大幅減益でした。
アメリカでインフレによる影響で客数が落ち込んでいるほか、中国も経済不況の影響が外食産業に現れています。26日には日本国内で主力の「牛丼」などを値上げすると発表しましたが、人件費や原材料高などのコスト上昇による利益圧迫は、まだまだ続きそうです。
現在の相場は荒れ気味ではありますが、秋にかけては日銀や米FRBの金融政策、アメリカ大統領選の行方が焦点となりそうです。そういう中でどんな銘柄が活躍するのか? 引き続き、高値更新・安値更新の銘柄を中心にウォッチしながら、相場の潮目を探っていきたいと思います。