少額から始められて低コスト さらに買いやすくなったETFの魅力とは
株と同じように取引所で売買できる投資信託、それが「ETF(上場投資信託)」です。いつでも売買できることに加えてコスト面でもメリットが多いと言われる一方、流動性の問題が指摘されていました。それを解消すべく始まった新制度によって、どのような変化があったのでしょうか?
ETFが変わった? 買いやすくなった?
東京証券取引所(東証)は2018年7月、ETFに「マーケットメイク制度」を導入しました。
ETFは簡単・低コストで株式や債券、REIT、コモディティなど様々な資産に分散投資ができる金融ツールとして、アメリカを中心に世界中で拡大が続いています。ただ、日本のETF市場は今ひとつ知名度が低く、個人投資家に浸透しきれていない状況です。
そもそもETFとはどんなものかをおさらいしつつ、マーケットメイク制度導入によってETF市場がどう変わるのかを解説します。
そもそもETFとは?
まずは、ETFのおさらいから始めましょう。ETFとはExchange Traded Fund(上場投資信託)の略で、その名の通り、証券取引所に上場しているインデックス型投資信託のことです。
「インデックス型」とは、日経平均株価やTOPIX(東証株価指数)など特定の指数に連動する成果を目指して運用される投資信託のこと。ETFは、このインデックス型投資信託を株式と同じように売買できるようにした金融商品です。
ETFのメリットは「いいとこどり」
ETFは株式の機敏性と投資信託の利便性を併せ持つ、「株式と投資信託のいいとこ取りをした商品」と言えます。
・コストが安い
ETFの特徴としてまず挙げられるのが、コストが安いことです。
普通の投資信託に比べて販売会社に払う仕組みがない分、保有するコストが相対的に低い傾向にあります。売買する際は株式と同じ売買手数料がかかりますが、ネット証券で売買すると低コストで済みます。
・いつでも売買できる
株式のように機敏に売買できることも、ETFの大きなメリットです。
取引所の取引時間内であれば、株式と同じようにリアルタイムに売買することができます。一方、通常の投資信託は1日に一度算出される基準価額での売買のみとなります。
・少額から分散投資ができる
3つめのメリットは、少額で分散投資ができること。
ETFは、株式や債券など様々な資産を組み合わせてパッケージした商品です。例えば、日経平均のETFを1口購入すれば、日経平均を構成する225銘柄すべてを買うのと同じことができ、日経平均そのものに投資することができます。
個別銘柄であれば、もしも全225銘柄を購入した場合には億単位の資金が必要ですが、ETFなら数万円程度で分散投資できるのです。
・海外株式や資源への投資も可能
ETFには様々な種類があり、アメリカ株や中国株などの新興国株、さらに原油や金などの資源にも投資することができます。2019年2月時点では229銘柄が上場しています。
また、デリバティブを使ったブル型・ベア型などのETFもあります(詳しくはこちらの記事をご参照ください)。
ETFのデメリットは「流動性」
デメリットとして挙げられるのは、流動性コストです。
・ETFの流動性コストとは?
流動性コストとは、流動性が低いことによって生じるコストを言います。流動性が低い銘柄の場合、売り手と買い手が提示する値に差(スプレッド)が生じるため、買い手は希望より高く買ったり、売り手は希望より安く売ったりする必要が出てきます。
ETFは、一般の投資信託に比べて保有コストが安いことが大きなメリットです。日経平均やTOPIXなどのメジャーなETFはそのメリットを存分に生かせますが、流動性が低いETFでは、流動性コストが想定以上にかかってしまい、メリットを生かしきれないこともあるのです。
・流動性を提供する「マーケットメイカー」とは?
そこでアメリカなどでは「マーケットメイカー」と呼ばれる専門業者が、売りと買いを常時提示することで流動性を提供しています。
日本のETF市場でも「マーケットメイカー」はもともと参入していたのですが、流動性のある銘柄は一部の銘柄に限られ、その他銘柄は流動性が低く、売りたいときに思った値段で売れない、買いたいときに思った値段で買えないことが問題視されていました。
マーケットメイク制度とは?
こういった背景もあり、東証は「コストメリットのあるETFを、長期の資産形成を目指す投資家にもっと活用してもらいたい」との想いから、マーケットメイク制度を導入しました。
この制度は「長期投資に向いているETFに流動性を提供してくれるマーケットメイカーに対し、東証が手数料の割引などのインセンティブを与える」というものです。
つまり、東証自らインセンティブを払って、マーケットメイカーに「これくらいの数量で、これくらいの値で売買しますよ」という注文を出してもらうことで流動性の改善を促す、という狙いがあります。
その成果は?
この制度が導入されたことで、これまでより多くのETFへの注文が見られるようになり、投資家はマーケットメイカーが参入している銘柄では、流動性コストや売買可能数量はどれくらいかの目安を持つことが可能になりました。
東証のレポートによると、マーケットメイク対象銘柄の大部分で売りと買いの差額が縮小し、売買代金が増加する傾向が見られたとのこと。特に「医薬品」「電気精密」「自動車 輸送機」など各業種の値動きを捉えた「業種別指数(TOPIX-17シリーズ)」で顕著に成果が表れています。
これは、例えば「今後円安が進行→自動車銘柄の株価が上昇する」というアイデアはあるものの、銘柄を絞り切れず、また手持ち資金も少額の場合に、業種別指数の「自動車 輸送機」のETFを買う、ということが可能になったためだと考えられます。
2019年2月時点で、このマーケットメイク制度の対象ETFは113銘柄となっています(対象銘柄は「東証マネ部!」で随時更新されています)。
新たな選択肢になる?
マーケットメイク制度の導入によってETF市場の流動性が向上すれば、多くの投資家がETFを活用しやすくなります。また、魅力的であっても流動性がないため見送らざるを得なかった銘柄にもチャンスが生まれます。
その一方で、(ETFでない普通の)インデックス型投資信託の競争激化によるコスト低下で、ETFの優位性は失われつつある、とも言われています。
いずれにしても、個人投資家にとって商品の選択の幅が広がることは好ましいと言えます。それぞれの特性を把握することが何より重要ですが、新しい選択肢としてETFを検討してみてはいかがでしょうか。