IPOで株価はどうなる? 2019年・初値上昇額ランキング
IPOは本当に勝てるのか?
IPO(新規公開株式)は個人投資家にとってお祭りのようなもの。初値で売った場合の勝率が8割以上ということで、株初心者から上級者までが、大きな期待とともに参戦します。
2019年のIPOを振り返ってみると、一年を通して小粒な印象があったものの、12月は「バブル到来!?」とも言われるほど熱く盛り上がり、それまでの低空飛行はどこへやら。終わってみれば、全体として好調な結果でした。
しかし、詳しく分析してみると、2018年までのIPOとは大きく異なる、変化のあった年でもありました。
・おさらいの「IPO」
IPOとは「Initial Public Offering」の略で、日本語では「新規公開株式」。株式を一般の投資家に売り出すため、企業が株式市場に上場することを言います。これによって企業は資金調達を図り、事業規模の拡大を目指すことになります。
新規上場する際の公募価格は、企業の実力や将来性、同業他社の株価などを参考に決まりますが、売れ残りを避けるために多少ディスカウントされます。そのため上場後の株価は、この公募価格を上回ることが多くなるのです。
これを利用して、公募価格で購入して上場直後に売却することで、かなりの確率で利益を得ることができる、というわけです。
2019年のIPOはどうだった?
2019年の新規上場は86社。そのうち、初めて市場で取引が成立した株価=初値が公募価格を上回ったのは76社(88%)で、またも8割を超える高い勝率となりました。
ただし、初値騰落率の平均は+74.8%と、この3年で最低を記録しました。加えて、市場からの資金吸収総額は3247億円と、こちらは過去5年で最も低い水準です。500億円以上を調達できた企業はゼロ(最高額はSansan<4443>の約390億円)で、小粒化の目立つ年となりました。
新興向け市場である東証マザーズへの上場が過去最多の64社となったことも、2019年のIPOの特徴のひとつです。
2019年の初値上昇額トップ10
そんな2019年のIPO市場で、投資家に最も大きな利益をもたらしたのは、どんな銘柄でしょうか? 公募価格と初値との差額(つまり、初値で売却した場合の利益)が大きかった上位10社をご紹介します。
【第1位】サーバーワークス<4434>
アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)の導入支援や運用自動化サービスなどを請け負うサーバーワークス<4434>。人気テーマ「クラウド」の関連銘柄であり、かつアマゾン関連でもあるため、大注目のIPOでした。加えて、増収・増益と絶好調の高成長企業であることや公開株数も少ないことから人気化し、初値上昇率は276.6%、100株(単元)あたりの利益は132.2万円という好成績でした。
【第2位】Welby<4438>
Welby<4438>はPHR(パーソナル・ヘルス・レコード)のプラットフォームサービスを展開しています。健康×ITの「ヘルステック」は人気のテーマで、業績好調の高成長企業との評価が高いなか、公開規模7億円の小型案件ということで人気化。初値上昇率は246.8%、100株利益は128.3万円でした。
【第3位】AI inside<4488>
AI技術を用いた光学式文字読み取り装置(OCR)で読み取った文字をデジタル化するサービスを提供するAI inside<4488>。「AI」という人気のテーマで今期黒字見通しとあって注目が高く、また、公開規模も10億円という小型案件で人気化し、初値上昇率は250%、100株利益は90万円となりました。
【第4位】スポーツフィールド<7080>
2019年ラストのIPOとなったスポーツフィールド<7080>。スポーツ人材に特化した「スポナビ」などの採用支援事業を行う企業です。スポーツ人材特化という独自の事業内容が、東京オリパラを控えてテーマ性があることに加えて、小型案件(公開規模9億円)、少ない公開株数、タイトな需給、さらに12月のIPOの好調な流れも追い風となりました。初値上昇率は211.4%、100株利益は57.7万円でした。
【第5位】ジェイック<7073>
教育融合型人材紹介サービスや教育研修サービスの提供を手掛けるジェイック<7073>は、ニートやフリーターの就労支援を行っているのが特徴です。「働き方改革」テーマで、公開規模は7億円、公開株数も少なく、業績の伸びも好調とあって人気を集めました。初値上昇率は117.3%、100株利益は55.7万円。
【第6位】リビン・テクノロジーズ<4445>
ウェブテクノロジーと不動産を融合した不動産会社比較メディア「リビンマッチ」の企画・開発・運営などを行うのがリビン・テクノロジーズ<4445>。テーマ性の高い「不動産テック(IT×不動産)」であることや、業績も好調で、ベンチャーキャピタルの出資がなく需給面からも期待できることから、初値上昇率は130.8%、100株利益は51万円という結果でした。
【第7位】リックソフト<4429>
豪アトラシアン社のソフトウェア製品の日本向けライセンス販売、導入支援等を手掛けるリックソフト<4429>は、2019年の2番目のIPOとして注目されました。IPOでは人気の高い企業向けSI業種で「クラウド」関連というテーマ性もあり、業績の伸びも好調、公開株数も少ないことから、初値上昇率は126.3%、100株利益は50.5万円となりました。
【第8位】ベース<4481>
ベース<4481>は受託開発を中心として主に金融系のシステム開発を手掛け、主要顧客に富士通、みずほ証券、NRIなどがあります。同日上場のランサーズ<4484>、JMDC<4483>に比べて人気のない東証2部上場でしたが、業績好調で、需給面でも希少性があり、12月IPOの好調な流れを受けて、蓋を開けてみれば初値上昇率は92.6%、100株利益は43.5万円となりました。
【第9位】セルソース<4880>
再生医療のプラットフォームとして、法規対応支援や新治療開発等を手掛けるセルソース<4880>。「バイオ」関連はハイリスク・ハイリターンと見られる中でも、話題の「再生医療」がテーマの業績好調な黒字ベンチャーとして人気化しました。初値上昇率は164.1%、100株利益は37.4万円。
【第10位】ウィルズ<4482>
ウィルズ<4482>が手掛けるのは、上場企業と投資家を繋ぐマーケティングツール「IR-navi」「プレミアム優待倶楽部」など。株主優待という個人投資家が好みそうな事業内容で、人気の高い「クラウド」関連、マザーズの小型案件、かつ業績も好調とあって、初日は値がつかないほどの人気ぶりでした。初値上昇率は2019年ナンバーワンの372.4%、100株利益は35.75万円です。
ちなみに、注目の超大型IPOのFreee<4478>も同日上場でしたが、こちらも赤字IPOながら初値上昇率は25%となり、12月IPOの地合いの好調さが確認された結果となりました。
赤字IPOが増えた理由
改めて10社の事業内容を見てみると、「クラウド」や「働き方改革」「IT×異業種」など、新時代の新しいサービスがずらりと並んでいます。ランクインはしませんでしたが、名刺管理ソフトを提供するSansan<4443>(初値上昇率5.8%)や会計ソフト開発のFreee<4478>(初値上昇率25%)など、SaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)関連の企業も多く上場しました。
最も特徴的だったのが、マザーズ上場が過去最多(64社)となった上、そのうち赤字上場が16社もあったことでしょう。2018年は新規上場90社に対して12社でした。理由としては、若いネット企業は先行投資が嵩むことや、企業の高い成長性への期待感から投資家の赤字上場に対する許容度が高まっていることが考えられます。
2020年のIPOはどうなる?
IPOの初値は、企業の将来性だけでなく、同業他社との比較、公開規模、需給関係、さらに相場の状況も踏まえた複合的な要因で決まります。しかしながら、赤字上場が増えた今となっては、成長性を見極める選球眼をさらに磨く必要があるかもしれません。
2020年は、東証の市場再編問題や東京オリンピック・パラリンピックなどビックイベントもIPOに影響を与えそうです。