IPOで株価はどこまで「飛ぶ」のか? 2017年・初値爆上げランキング

岡田禎子
2018年2月19日 8時00分

IPOといえばお宝株、「IPOは必ず儲かる」「初値で売れば利益は○倍!」、そんなイメージはありませんか? 株の知識は必要なし、売買のテクニックもいらない、IPOに当選すれば儲かる……と個人投資家にも人気の高い投資法です。

しかし、株の世界に「必ず儲かる」はないはず。IPOの実績損益をランキングで振り返り、そこからIPO投資の実際を見ていくことにしましょう。

IPOをざっくり解説

IPOとは「Initial Public Offering」の略で、「新規公開株式」のことです。企業が資金を集めるために、株式市場に上場して一般の投資家に株式を売り出し、資金の調達を図ります。企業は、この資金をもとに設備投資や人材の増員などを行い、事業規模の拡大をめざすわけです。

ブックビルディングで価格を決定

IPOでは、「ブックビルディング」によって公募価格(上場前の株の売り出し価格)を決定します。ブックビルディングは次の方式で行われます。

まず証券会社が、その企業の実力や将来性、同業種の株価などを参考に価格を設定します。その後、企業が機関投資家を個別に訪問し、ヒアリングを行います。その結果をもとに、企業と証券会社が協議して公募の仮条件を決定。その仮条件を投資家に提示し、投資家の需要状況を把握することによって、マーケットに即した公募価格が決定されます。

IPOは、創業からさほど年数の経っていない新興企業が行うため、マザーズやジャスダックなど多くは新興市場に上場されます。また、IPO株は「利益が出せる」と昔から人気が高く、売り出される株数も少ないために、通常は抽選で購入者が決められます。

IPO投資はなぜ儲かるのか?

では、なぜ「IPOは儲かる」と一般的に言われているのでしょうか。

新規上場する際の公募価格は、株の売れ残りが出ないように、また華々しく上場させるために、比較的割安な価格で投資家に売却されます。そのため、初値(上場後に初めて市場でついた株価)は公募価格を上回ることが多くなります。

これを利用し、上場前の公募価格でIPO株を購入して上場直後に売却することで、かなりの確率で利益を得ることができる、とされているのです。

勝率は9割超!

それでは、「実際のところどうだったのか?」を2017年のIPO銘柄で確認してみましょう。

2017年の新規上場は90社でした。そのうち、初値が公募価格を上回った企業は82社(全体の91%)、9割を超える高い勝率となりました。

2017年の初値上昇額トップ10

以下は、公募価格と初値との差額トップ10(つまり、初値で売却した場合の利益上位10社)です。投資家にもっとも大きな利益をもたらしたトレードワークス<3997>では、100株あたり114万円の利益、実に+518%という好成績でした。

No. 上場日 社名 市場 公募価格 100株購入時
の利益
初値上昇率
初値
1 11/29 トレードワークス ジャスダック 2,200 1,140,000 518.18%
13,600
2 12/13 ヴィスコ・テクノロジーズ ジャスダック 4,920 1,008,000 204.88%
15,000
3 3/30 ユーザーローカル マザーズ 2,940 956,000 325.17%
12,500
4 11/21 サインポスト マザーズ 2,200 633,000 287.73%
8,530
5 6/15 ビーブレイクシステムズ マザーズ 1,670 603,000 361.08%
7,700
6 4/6 テモナ マザーズ 2,550 550,000 215.69%
8,050
7 10/26 SKIYAKI マザーズ 3,400 500,000 147.06%
8,400
8 1/27 シャノン マザーズ 1,500 481,000 320.67%
6,310
9 8/30 UUUM マザーズ 2,050 465,000 226.83%
6,700
10 6/20 ディーエムソリューションズ ジャスダック 2,500 460,000 184.00%
7,100

トップ10はこんな銘柄

【第1位】トレードワークス<3997>

証券システム事業が主力で、FX(外国為替証拠金取引)システム事業やセキュリティ診断事業も手がける企業です。「ネットセキュリティ」というテーマ性のある事業を持っていたことで人気化し、初値上昇率は500%超、100株利益は+114万円となりました。

【第2位】ヴィスコ・テクノロジーズ<6698>

製造業の生産ラインで外観上の欠陥を検査する画像処理検査装置の製造・販売を手がける企業で、専業メーカーとしては首位。初値予想はさほど評価の高くなかったのですが、「FA(工場自動化)」というテーマ性や、業績面の堅調さから強い買いが入り、+100.8万円の大穴IPO株となりました。

【第3位】ユーザーローカル<3984>

ビッグデータの解析・人工知能(AI)による情報提供サービスを手がける企業です。デジタルマーケティングデータとSNS上の大量のデータ分析により、企業経営やマーケティングの意思決定を支援、記事コンテンツの分析サービスも行っています。「AI」や「ビッグデータ」というテーマ性から買いが人気化、初値上昇率は325%(+95.6万円)となりました。

【第4位】サインポスト<3996>

金融機関や中央官庁・地方自治体などの公共機関に向けたシステムコンサルティング事業が主力です。バッチ処理などサービス事業、人工知能(AI)のひとつであるディープランニングを応用したシステム開発などのイノベーション事業も展開しています。公募規模が小さいことや、市場の重要テーマである「AI」が投資家の注目を集めました。

【第5位】ビーブレイクシステムズ<3986>

クラウド技術を用いて提供するERPの開発、販売を行うパッケージ事業のほかに、システム受託開発やIT人材派遣を行うシステムインテグレーション事業も展開しています。マザーズ上場の小規模案件であることや、2か月ぶりのIPOであったこと、「クラウドサービス関連」というテーマ性もあり、上昇率は361%となりました。

【第6位】テモナ<3985>

定期販売に特化したショッピングカート付き通販システム「たまごリピート」と、ウェブ接客ツール「ヒキアゲール」などEC事業者支援サービスを展開しています。「EC事業者支援」というテーマ性や成長性の高さから人気化しました。

【第7位】SKIYAKI<3995>

ファンクラブ・ファンサイトの製作・運営や公式グッズ電子商取引サービス、電子チケットサービスなどを事業展開しています。ユニークな社名や、CCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)の傘下であること、FanTech(Fan×Technology)、ブロックチェーンの活用などテーマ性もある点が人気となりました。

【第8位】シャノン<3976>

マーケティング・クラウドサービスの企画・開発・販売・導入、マーケティングに関わるコンサルティングとサービスを手がけています。「クラウドサービス関連」というテーマ性と、非常に小規模案件であること、また2017年最初のIPOとあって、好需給から320%の上昇率となりました。

【第9位】UUUM<3990>

動画投稿サイトYouTubeで広告収入を得るYou Tuberなどクリエーターのマネジメントを手がけている企業です。HIKAKINなど著名なYouTuberを多く抱えており、話題性、将来性に注目した買いが多く入りました。

【第10位】ディーエムソリューション<6549>

企画からデザイン・印刷・配送まで一括提供するダイレクトメール(DM)事業と、インターネット広告やSEO、コンテンツマーケティングなどのインターネット事業を展開しています。「インターネット広告関連」のテーマ性や業績の堅調が評価された結果となりました。

IPOの特徴と注意点

こうしてトップ10銘柄を見てみると、「新テクノロジー」や「AI(人工知能)」、「ビッグデータ」など今が旬のテーマの企業がずらりと並んでいます。将来性が高いイメージの企業は注目度も高く、人気化して、初値が“飛び”やすくなることがわかります。

初値爆上げ……の祭りのあと

しかしながら、実はこの10銘柄のうち、2017年度末(12月29日)で初値を維持していた、または上回っていたのは2銘柄しかありません。

IPO銘柄は、期待感の高さや流動性から初値は上がりがちです。しかし、その後は期待感が薄れ、流動性も低くなるため、株価は調整してしまい、初値を維持できる銘柄はそうは多くない、という実態があるのです。

そして忘れてはならないのが、初値が公募価格を下回った銘柄もある、という事実です(2017年は8社)。「絶対に儲かる」わけではないことを肝に銘じるためにも、これら「残念賞」に終わった銘柄に目を向けることも大切ではないでしょうか。

[執筆者]岡田禎子
岡田禎子
[おかだ・さちこ]証券会社、資産運用会社を経て、ファイナンシャル・プランナーとして独立。資産運用の観点から「投資は面白い」をモットーに、投資の素晴らしさ、楽しさを一人でも多くの方に伝えていけるよう活動中。個人投資家としては20年以上の経験があり、特に個別株投資については特別な思い入れがある。さまざまなメディアに執筆するほか、セミナー講師も務める。テレビ東京系列ドラマ「インベスターZ」の脚本協力も務める。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、ファイナンシャル・プランナー(CFP)
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