8月の株価はどうなる? サマーラリーか夏枯れか。相場を揺るがす超重要イベントに要注意
《マーケットにはその月ごとに恒例のイベントやアノマリー(経験則)が存在します。そうした経験則を知ることで難儀な相場でも柔軟にかつ冷静に対処することができます。では、本格的な夏枯れ相場を乗り切るための8月相場の特徴とは?》
本格化する夏枯れを乗り切るには
8月は夏枯れ相場が本格化する月です。日米ともに市場関係者のサマーバケーションで閑散相場の中、3月期決算企業の第1四半期の決算発表待ちで買い控えも起こりやすくなります。
そんな中、上旬から中旬にかけては、アパレルなどの夏物商戦やエンターテイメント関連銘柄の話題が盛り上がりを見せます。また、JPX400や日経平均株価といった主要インデックスの銘柄入れ替え予想が証券各社から出され、思惑による売り買いが活発化します。
下旬には夏恒例の重要イベント、米FRB議長によるジャクソンホール会議での発言があります。過去には、その発言から相場急落となったケースも見られますので、注意が必要です。
サマーラリーか? 夏枯れか?
8月を中心とした夏相場については、「サマーラリー」と「夏枯れ相場」という2つのアノマリーがあります。一般的に「サマーラリー」は上昇相場になることを指し、「夏枯れ相場」は取引量が減って相場が冷え込むことをいいます。
実際のところはどうなのか、検証してみましょう。
8月相場は残念ながら、株価にとってネガティブな要素が多いです。まずは、海外勢が売り傾向にある点です。過去10年の日経平均株価の月別売買状況では、8月は9回も売り越しとなっています。需給面では「主役不在」の弱い相場だということがいえます。
次に「円高」が挙げられます。円高は日本株にとってはマイナス要因です。そして8月は、アメリカ国債の大量償還があるために円買い・ドル売りが出やすくなります。アメリカ国債を保有していた日本の機関投資家が、手元に戻ってきたドルを円に転じる動きが活発化するからです。
加えて、市場参加者の頭の中には「8月は円高」と刷り込まれているために、円高シナリオに沿った動きを予想するケースが多い、ということあります。もともと市場参加者が少ない8月、思わぬ円相場の急激な変動には注意が必要です。
さらに夏は、海外発の突発的なイベントが出やすい時期としても知られています。過去には、2011年のアメリカ国債格下げショックや2015年の中国人民元切り下げショックなど、想定外の事態が発生しています。
このように見ると、8月は「夏枯れ相場」になりやすい傾向にある、といえるのではないでしょうか。しかしながら、「サマーラリー」という言葉が伝わるように、実際に夏に大きな上昇相場が発生したこともあります。さて、今年はどうなるのでしょうか?
8月の日経平均株価はどう動く?
では、実際の日経平均株価はどのように動いたのでしょうか。過去3年の値動きをチャートで確認してみましょう。
・2020年8月の日経平均株価
堅調なアメリカ株や新型コロナウイルス・ワクチンの開発への期待感で日本株は上昇しました。
しかし28日、安倍首相の任期途中での辞任劇で日経平均株価は一時600円を超える急落となりました。その後、菅官房長官が自民党総裁選へ出馬することが伝わると、政策継続の見込みから買い戻しが入り、株価は23000円台に回復しました。
・2021年8月の日経平均株価
新型コロナウイルスの感染拡大によりトヨタ自動車<7203>が大幅減産を発表するなど、日経平均株価は中旬まで冴えない動きとなりました。その後、27日のジャクソンホール会議でのFRB議長の発言によって早期の利上げ観測が後退すると、アメリカ株・日本株ともに大きく上昇しました。
・2022年8月の日経平均株価
FRBの利上げペース減速観測からアメリカ株は堅調に推移し、日本株も17日には7か月ぶりの29000円台を回復しました。しかしながら、FRB議長が26日のジャクソンホール会議で急速な金融引き締めの継続を示唆したため、日米ともに株価は大きく下落となりました。
それぞれのチャートを見ると、閑散相場の中でも堅調に推移し、特に2022年は「サマーラリー」を形成していたことがわかります。市場参加者が少ないからこそ、一度、強気相場となると強気は強気へ、弱気は弱気へと一方向に加速しやすく、そこからサマーラリーへと発展することもあります。
2022年は、米CPI(消費者物価指数)が予想を下回ったことで、アメリカ株がそれまでの強いモメンタムをさらに加速させ、日本株も追随しました。「弱気相場における一時的な中間反発」と考える投資家も多かったものの、結局は「サマーラリーに遅れてなるものか!」と誰もがリスクオンの姿勢となったのです。
ところが、せっかく盛り上がっていた相場も、月末のジャクソンホールでのFRB議長の発言によって冷や水を浴びせられた格好となり、株価は急落……となって8月を終えてしまいました。
夏の超重要イベント「ジャクソンホール会議」
2022年の大暴落のきっかけとなった「ジャクソンホール会議」とは、毎年8月末、米西部ワイオミング州の高原リゾート地として知られるジャクソンホールで開催される年次シンポジウムです。
主要国の中央銀行トップや経済学者などが集い、まさに膝を突き合わせて金融政策について議論します。もとは小さな勉強会だったそうですが、ここでの米FRB議長の発言が株式市場や金利、為替などマーケットに大きな影響を与えることがあり、市場参加者の注目度が高い重要イベントになっています。
2022年のジャクソンホールでは、パウエル議長の「インフレ抑制をやり遂げるためにも利上げをやり続ける」という発言によって、ダウ平均株価は1000ドルを超える下げ、日経平均株価も700円以上の大幅な下落となりました。
今年は、7月現在の株式相場は、FRBの早期利上げ停止期待で、日米ともに株高となっています。しかしながら、ジャクソンホールでのパウエル議長の発言次第では急転換する可能性もありますので、一連の動きを注視しておいたほうがいいでしょう。
夏こそ元気なエンターテイメント関連銘柄
8月は映画・アニメやゲームなどエンターテイメント関連銘柄の季節です。続々と決算発表が行われ、注目作品が封切られるなど話題に事欠きません。
加えてこの業種は、劇場版の大ヒットや関連商品など知的財産(IP)の展開が加速していることから業績拡大が期待されています。また、インフレ下でも消費はファン心理に支えられるため、ある程度の耐性を持ち、値上げも通りやすい、といった特性もあります。
具体的には、次のような銘柄が注目されます。
【この夏、注目のゲーム関連銘柄】
- バンダイナムコホールディングス<7832>:「機動戦士ガンダム 水星の魔女」のガンプラも好調
- 任天堂<7974>:「Nintendo Switch」が爆売れ中で映画「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」も大ヒット
- カプコン<9697>:「モノハン」「バイオハザード」のソフト販売が絶好調
- コナミグループ<9766>:業績回復への期待が高い
【この夏、注目の映画関連銘柄】
- 東宝<9602>:「名探偵コナン 黒鉄の魚影」「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」等の大ヒットで7月に上方修正を発表
- 東映<9605>:「THE FIRST SLAM DUNK」の大ヒットやアニメ関連の国内外のコンテンツ事業が好調
金利上昇やインフレ、景気後退懸念といった環境下では、エンターテイメント関連をディフェンシブ銘柄として視野に入れておくのもいいかもしれません。
銘柄入れ替えを投資に生かすヒント
個別銘柄の材料が少ない8月は、8〜9月に行われる日経平均株価など主要指数(インデックス)の構成銘柄の入れ替えが投資家の注目を集めます。
銘柄入れ替えに伴い、これらの指数をベンチマークとしているファンド(投資信託やETFを運用する機関投資家)では、入れ替え実施日の前日の大引け(=後場の最終取引)に、新規採用銘柄については大量の買い注文を、除外銘柄については大量の売り注文を行うことになります。
このように持ち高を調整する売買のことを「リバランス」といい、この大口の売買が株価が変動する要因となるのです。
この動きを利用した投資手法があります。まずは入れ替え発表直後に新規採用銘柄を買い、除外銘柄を売却(保有していない場合は空売り)、そして入れ替え前日の大引け(リバランスが行われるタイミング)で採用銘柄を売り、除外銘柄を買い戻すのです。
入れ替え発表前には証券会社各社が新規採用と除外の予想を出しますので、その思惑で株価が動くこともあります。
また、除外銘柄に大量の売りが出たことで業績に関係なく大きく株価が下落した場合には、日頃からウオッチしている投資家であれば「割安」と判断して底値で買い、その後の上昇で利益を手にする可能性があるでしょう。
見たことのない夏へ
8月はアノマリー的には「夏枯れ相場」に軍配が上がります。しかしながら、現段階では日米ともに足元の株価も強く、サマーラリーに発展する可能性もありそうです。
いずれにしても、そうしたアノマリー(相場の経験則)を知っていれば、事前に両方向からの仮説をさまざま立てることができます。そして、いざトレンドが発生した際にはその相場の波に従って柔軟に、かつ冷静に対処できる自分に気がつくのではないでしょうか。
そんな、「まだ見ぬ自分」に出会える夏にしてみませんか?