コロナ禍で決算発表はどうなる? 業績予想が株価に与える影響とは
企業が開示する2つの情報
投資家が企業の選定を行う際に最も重要視するもののひとつが、企業が開示する情報です。
企業による情報開示には法定開示と適時開示があります。法定開示は、金融商品取引法に基づく法定開示制度より開示が義務化されているもので、財務内容や営業概況などが記載されている有価証券届出書、有価証券報告書、四半期報告書などが該当します。
一方、投資家がよく見る決算短信(添付書類も含む)などは法定開示書類ではなく、金融商品取引所における適時開示制度に基づくもので、法的な開示義務はありません。しかし、アナリスト、投資家、さらにはマスコミ関係者にとって、有価証券報告書と並んで重要かつ利用価値の高い書類とされています。
・適時開示制度における開示事項
- 上場会社の決定事実
- 上場会社の発生事実
- 上場会社の決算情報
- 上場会社の業績予想、配当予想の修正
- 子会社等の情報 など
適時開示で求められるのは、このように投資家の投資判断に重大な影響を与えると考えられる会社の業務や運営または業績などに関する事項であり、法定開示の内容よりむしろ重要視されているとも言えます。諸外国と比較的しても、世界に誇るべき制度だと評価されているほどです。
最も注目される「業績予想」
株価というのは長期的に見れば業績に連動するため、決算発表シーズンに適時開示される内容の中では、実績のみならず、翌期の業績予想が最も投資家に注目されます。この先の業績が良くなるのか、それとも悪くなるのかによって、株価が大きく変動する可能性が考えられるからです。
そんな業績予想の開示ですが、実は記者クラブ(兜倶楽部)の要請から始まった慣行とされており、取引所がその要請を引き継ぐ形で続いています。会計基準の改正など法定開示情報の見直しとともに、決算短信、予想開示の方法も変化し、投資家がより一層注目する内容となっています。
現在では、上場企業の97%以上が業績予想の開示を行っており、売上高、営業利益、経常利益、配当だけでなく、設備投資額、セグメント情報などの開示をする企業もあります。
業績予想には経営者バイアスがある
注意しなければいけないのは、適時開示において公表される予測数値は、監査を受けたものでもなければ、会社がコミットするものでもない、という点です。
日本IR協議会の調査によれば、21.2%の企業が「あえて慎重な予想を公表する」と答えていますが、4.8%の企業は「あえて楽観的な予想を公表する」と答えています(「第15回IR活動の実態調査」2008年)。
また、業績予想には「様々な要因により予想値と異なることがある」旨のことわりが書かれていることが、とても多いです。ただ、これは予想数値に自信がないというわけではなく、様々な環境の変化によって業績が変動することも有り得ることを周知させていると考えたほうが良いでしょう。
というのも、投資家を欺くような情報開示には金融商品取引上の罰則があり、不合理な前提や算定方法に基づく業績予想の開示に関しては、これまでに偽計や風説の流布等の法的責任が追及された例もあります。従って、極めて慎重すぎる、あるいは極めて楽観すぎる内容にはなっていないと思われます。
業績予想の開示を行わない企業の背景
証券会社など金融のほか、市況に左右されるという理由等から、業績予想の開示を行わない企業は今でも存在します。
古くは東京製鐵<5423>(現在は開示)などの一部の鉄鋼、現在でもキーエンス<6861>などよく知られている会社でも、業績予想は非開示となっていることがあります。また、算定困難という理由で、従来は開示していた会社が非開示となることもあります。
例えば、東日本大震災のような天災による被害(決算が集中する3月に起こったこともあり、影響の算定に時間がかかったと推測されます)、あるいはM&Aなど企業の存続に関わる事象の発生など、非開示には様々な理由が存在することが考えられます。
予想できなくても、算定できたら開示
ただし、東証の上場規定(405条)では、予想を出していなくても、前期実績を予想値とみなして売上高で10%、利益で30%の変動が明らかになった時点で情報開示しなければならないと定められています。
また、決算短信で「次期の業績予想」の開示を行わないこととした場合の留意点として、取引所は以下の点を指摘しています。
- 社内において「次期の業績予想」に相当する情報を有している場合には、有価証券上場規程に基づいて、その内容の適時開示が求められる、
- 期中における適切な開示には、有価証券上場規程に抵触するリスク、金融商品取引法上の内部者取引が生ずるリスク、選択的な開示が生ずるリスクが生じる
- 金融商品取引法上の内部者取引規制においても、「新たな予想値の算出」は重要事実となる
このように、自発的な開示ではありますが、社内において「予想値」を有した場合、なんらかの発表が行われる可能性は高いと言えるでしょう。
業績予想の非開示が株価に与える影響
新型コロナウイルスの世界的パンデミックによる経済環境の激変を受けて、来期の業績予想を開示しない(できない)企業が多く出てくることでしょう。このような場合、個人投資家はどのようなスタンスをとればいいでしょうか。
まず、非開示の理由によって株価の反応は様々だと思われますが、通常は「この会社は業績予想が算定困難な状況下にある」と見てしまうでしょう。反対に、予想を開示した企業については「算定できる環境下にある」と見ることができます。
前者は業績の方向性の不透明感が強く、後者はそれが薄いと見ることができ、不透明感を嫌う株価は、それに準じた動きになる可能性が高いと考えられます。
2020年2月期の決算発表では、小売のセブン&アイ・ホールディングス<3382>やしまむら<8227>、良品計画<7453>などは予想開示を未定とした一方、ニトリホールディングス<9843>は従来通り予想を開示しており、株価はそれを好感する格好となりました。
ただし、そもそも従来から非開示姿勢の会社なのか、それとも今回に限って開示しないのかで、受け止め方も異なってくることに注意しておきたいところです。実績開示時点(決算発表日)での企業の姿勢としては、概ね下記のように分類できるでしょう。
- 1)もともと業績予想は非開示
- 2)通常どおり業績予想を開示
- 3)新たに業績予想を非開示に
1の企業は従来どおり、2の企業は不透明感の少ない企業と受け取ることができ、株価も予想に即した変動が予想されます。それに対して3の企業では、実績と比べて予想を大幅な下方に計画せざるを得ない、あるいは大幅赤字となる可能性があるでしょう。
例えばリーマンショック時には、多くの企業が大幅な赤字予想を発表し、改めて株価が下落した企業が続出しました。
コロナ禍で企業の決算業務はどうなる?
日本CFO協会が2020年3月期の企業の経理担当幹部らを対象に行った調査によると、75%が新型コロナウイルスによって決算業務に影響が出ると回答しています。
ただ、決算発表では予想を出さなくても、上で述べた東証の規定により、前期実績と比べて大幅に変動すること(売上高で10%、利益で30%)が明らかになった時点で、企業は情報を開示しなければなりません。いずれによせ、算定が可能となった時点で開示する必要に迫られるわけです。
多くの企業は6月下旬に株主総会シーズンを迎えますが、その2週間前には決算を確定した上で招集通知を送る必要があるため、時期的にはこのあたりが注目されそうです。決算発表で業績予想が出なかった場合でも、その後の情報開示に引き続き注意しておく必要があるでしょう。