AI関連の強さは健在。復調が期待される7月のIPO市場を振り返る
《IPOの件数は4銘柄と少なかったものの、初値騰落率は−10%から+133%まで幅の大きい結果に。人気テーマの実力が垣間見られた7月のIPO市場をランキングで振り返ります》
2022年7月のIPO市場
前月6月は12銘柄のIPOがありましたが、7月は一転して4銘柄に留まりました。例年6~8月のIPO件数は低水準で推移します。したがって、6月の12銘柄というのがいわば“異常値”で、7月の4銘柄は例年通りの件数といえます。
その一方で、IPO市場の土台といえるマザーズ指数(※)を見ると、7月は、3月以来の月間でのプラスとなりました。1月の急落幅に比べると依然として安値圏での取引に留まっていますが、それでも2020年3月の安値までは下回ることなく反発しており、今後の上昇継続が期待されます。
※市場再編により東証マザーズ市場はなくなりましたが、マザーズ指数の算出は継続中のため、このシリーズでは引き続きマザース指数を参照しています。
2022年7月のIPOランキング
7月にIPOした4銘柄について、公募価格に対して初値がどれだけ上昇(あるいは下落)したかを表す「初値騰落率」のランキングで見てみましょう。
数は4銘柄でしたが、初値騰落率は−10%から133%まで大きく幅があり、明暗が分かれました。公募割れは1銘柄。比率は25%で、6月の38%(12銘柄のうち5銘柄)に比べて低下しています。
公募価格ベースでの時価総額100億円超えは1銘柄(INTLOOP)のみで、全体としては小型株中心の月でした。
2022年7月の気になるIPO銘柄
2022年7月の4銘柄のIPOの中から、特徴ある2銘柄を紹介します。
・unerry<5034>──旬のAI関連。初値は公募価格の2倍以上に
自社開発のAIによる人流データの分析サービスを提供する企業。直近の業績推移はこのようになっています。
- 2020年6月期:売上高5.7億円、経常利益▲0.9億円、当期純利益▲0.9億円
- 2021年6月期:売上高7.8億円、経常利益▲1.6億円、当期純利益▲1.69億円
- 2022年6月期(予想):売上高13億円、経常利益0.7億円、当期純利益0.7億円
赤字が続いたものの、2022年6月期は黒字予想です。実際、第3四半期は売上高11億円、経常利益1.2億円で、通期での黒字化が確実になっています。
公募価格の1,290円で計算すると予想PERは57倍で、時価総額は45億円。ただ、予想決算の最終利益は1億円未満なので、この予想PERは高めの設定といえます。それでも時価総額が50億円を割る水準の公募価格でした。
結果として初値は3,000円まで上昇し、初値騰落率は133%。公募価格の2倍以上の初値を付けて、初値時価総額は100億円を超えました。
公募株数140,000株に対して売出株が397,700株と2倍以上もあり、IPOとしては不利な面もありました。しかし、確実な黒字化予想とAI関連銘柄という点が評価され、7月トップの初値騰落率になりました。
AI関連銘柄は、今期もすでに複数社が新規上場していますが、いずれも良好な初値騰落率です。今回のunerryのIPOでも、IPO市場でのAI関連銘柄の強さが再認識されたと言えるでしょう。
・INTLOOP<9556>──旬のテーマ候補ながら公募割れ
フリーランスのコンサルタントやITエンジニアを活用したコンサルティングやシステム開発を手がける企業です。業績推移は次のとおり。
- 2020年7月期:売上高71億円、経常利益0.5億円、当期純利益0.3億円
- 2021年7月期:売上高92億円、経常利益4.1億円、当期純利益3.4億円
- 2022年7月期(予想):売上高130億円、経常利益7.4億円、当期純利益5.0億円
当期は売上高130億円を予想するなど、コンサルタントやITエンジニアの不足を背景に、急速に業績を伸ばしています。
公募株と売出株の比率もよかったものの、若干高めの公募価格(3,500円→予想PER28倍)が裏目に出て、初値騰落率−10%の公募割れとなってしまいました。
ただし、時価総額は初値でも144億円あり、100億円を超えて150億円近い水準でのIPOを果たした形となっています。
フリーランス関連はIPO市場の次なる「旬のテーマ」として注目されていますが、AIなどに比べるとまだキーワードとして弱く、また、すでに事業実態がある中での若干割高な株価設定も影響したようです。
IPOの活況期なら公募割れには至らなかった可能性もあり、その点でも残念な結果となりました。
そろそろ活気を取り戻せるか?
過去1年のマザーズ指数を見ると、月間でプラスになったのは2021年8月、2022年3月、そして2022年7月の3回しかありません。そして、8月と3月はいずれも翌月には反落してマイナスで終わっています。
ただし、マザーズ指数の直近の底値は600ポイント付近となっていますので、この7月の反発を契機として上昇が続く可能性もあります。アメリカの新興市場であるナスダック総合指数も7月は大きく反発して節目の12,000ポイントを回復しており、新興市場の低迷は一段落したといえる状態です。
IPO市場は新興市場の影響を大きく受けます。マザーズ指数の上昇が、低迷が続くIPO市場が活気を取り戻す起爆剤となるか。8月も閑散期が続きますが、8月以降も含めたIPO件数と初値の動向が一層注目されます。