主幹事で見るIPOランキング 公募割れ最多はアノ大手証券会社
《「確実に儲かる」として個人投資家に人気のIPO株投資。しかし近年、そんな「夢の時代」にも陰りが……。IPOで上がる株と下がる株は何が違うのかをデータから読み解く【IPO通信簿】》
2023年、日経平均株価は約30%という大幅な上昇となりましたが、その一方で、新興市場では2022年からの低迷が続きました。ただ、そんな中でもIPO(新規株式公開)の件数は落ち込むことなく、2022年を上回る97銘柄が新たに株式市場に乗り出しました。
そんな2023年のIPO市場について、IPOを果たした銘柄ではなく、その主幹事を務めた証券会社から、手がけた銘柄数などをランキングをもとに振り返ってみたいと思います。
2023年のIPO主幹事銘柄数ランキング
IPO株投資では、どの証券会社が主幹事か、という視点は非常に重要です。
「主幹事」とは、企業が株式を新規公開する際に、新株の引き受け・販売の中心役となる証券会社のことで、公開価格の決定にも大きく関わっています。大手証券会社の主幹事となる銘柄は安定感があるものの、意外な証券会社の主幹事銘柄が初値で大きく上昇する、なんてことも少なからずあります。
2023年にIPOの主幹事を務めた証券会社について、手がけた銘柄数でランキングにすると、次のような結果となります。1位は、18銘柄の主幹事を務めた大和証券でした。
近年は、銀行系のSMBC日興証券とみずほ証券の主幹事が多い状態が続いており、2022年はその2社が1位と2位でした。
《参考》IPO市場は今年も苦戦 いまこそ知っておきたい公募割れの多い証券会社・少ない証券会社
なかでも1位のSMBC日興証券が頭ひとつ抜けていたのですが、2023年は、1位の大和証券が18銘柄で、2位は同じ17銘柄で3社(みずほ証券、野村證券、SBI証券)が並び、次いで15銘柄が1社(SMBC日興証券)となり、ほぼ横一線です。
2022年に1位だったSMBC日興証券は、不祥事の影響から一歩後退したものの、かろうじてトップ集団は維持できたようです。
とはいえ、独立系の大和・野村、銀行系のみずほ・SMBC日興、ネット系のSBI……という上位のお馴染みの顔ぶれに変化は見られません。
初値騰落率で見る、2023年に健闘した証券会社
2023年は、新興市場全体の低迷は続いた一方で、IPO市場においては、公開価格に比べて初値が一気に大きく上昇した銘柄も現れました。そうした銘柄について、主幹事の視点から見てみます。2023年のIP0初値騰落率トップ5と、それぞれの主幹事は以下のとおりです。
みずほ証券の主幹事が2銘柄ランクインしたものの、ベスト5の主幹事はおおむね分散しています。その中で、初値騰落率429.5%でトップとなったアイデミー<5577>もみずほ証券が主幹事であり、みずほ主幹事銘柄の健闘が目立つ結果と言えるでしょう。
ただし、みずほ証券は17銘柄を手がけています。それに対して、わずか1銘柄のみの主幹事だった東洋証券は、そのテクノロジーズ<5248>が初値騰落率265.0%で4位にランクイン。まさに〝一打必勝〟のホームランを打ったかたちです。
このように、数多くの主幹事を務めている大手証券会社ではない、中堅の証券会社が主幹事を務めた銘柄が初値騰落率で上位に入ることもあり、2022年はいちよし証券が5位に入りました(銘柄はトリプルアイズ<5026>)。この傾向が2023年も維持されたことから、2024年がどうなるのかも注目です。
公募割れで見る、2023年は厳しかった証券会社
2023年は26銘柄が、初値が公開価格(公募価格)を下回る公募割れとなりました。97銘柄がIPOした中での、約4割です。では、公募割れ銘柄を最も多く出した証券会社は、どこだったのでしょうか。主幹事別の件数をランキングで見てみましょう。
1位のSBI証券は主幹事17銘柄のうち8銘柄が公募割れとなっており、およそ半分が公募割れという結果です。2位のSMBC日興証券は主幹事15銘柄なので、約3割(5銘柄)が公募割れでした。
初値騰落率ワーストの主幹事は?
続いて、初値騰落率ワースト上位の主幹事を見てみましょう。いずれも公募割れです。
2023年の初値騰落率ワースト1位はオートサーバー<5589>の▲14.6%でしたが、その主幹事はSBI証券でした。公募割れ銘柄の数でも1位だったSBI証券。初値騰落率ワースト銘柄の主幹事も務めており、同社にとって2023年のIPOは厳しい結果に終わってしまったようです。
ただ、ワースト上位の3銘柄はそれぞれ別の証券会社が主幹事であり、また、下落率8%台には多数の銘柄・証券会社が並ぶ状態です。
金融庁がSBI証券に業務停止命令
2024年1月12日、金融庁は、SBI証券に対してIPO株の勧誘を1週間禁止する業務停止命令を発表しました。
同社が主幹事を務める銘柄について、公開価格を割れないよう価格操縦を行っていたと認められたためです。すでに昨年12月に、証券取引等監視委員会から行政処分を求める勧告が出ており、それに基づいた処分でした。
近年のSBI証券は、中小型株のIPO銘柄の主幹事として実績を上げ、主幹事銘柄数で常に上位にランクインするようになっていました。しかし、特に2023年は主幹事銘柄の約半数が公募割れとなるなど株価形成に苦戦していた中で、この業務停止命令が下されました。
さらに金融庁からは、業務停止命令とともに、経営管理体制と内部管理体制の強化を求める業務改善命令も出されており、今後のIPO関連業務への影響も生じる可能性があります。
新興市場が低迷する中でも年間100前後のIPO件数を維持してきた背景として、SBI証券の存在は無視できません。この業務停止命令が、SBI証券だけでなく、2024年のIPO市場全体ににどのような影響を与えるのか、注目せざるを得ません。
なお、2024年のIPO市場は2月に開幕しましたが、現在のところ、SBI証券の主幹事はありません(3月は4件が予定)。
2024年の注目は?
2023年は97銘柄がIPOを果たし、新興市場低迷にもかかわらず、数では健闘しました。しかし、主幹事の大手の一角を占めるSBI証券への業務停止命令が出されたことで、2024年のIPO市場はその影響を受ける可能性もあります。
また、日経平均株価がおよそ34年ぶりに史上最高値を更新する中で、出遅れと指摘されている新興市場に資金が向かうのはいつになるのか。2024年のIPO市場では、SBI証券を含め各証券会社の主幹事件数の動向とともに、新興市場全体の回復にも大いに注目です。