初値が伸びない2024年のIPO市場 あの注目株のその後を追いかけてみる

石井僚一
2024年9月25日 9時30分

《「確実に儲かる」として個人投資家に人気のIPO株投資。しかし近年、そんな「夢の時代」にも陰りが……? IPOで上がる株と下がる株は何が違うのか。データから読み解く【IPO通信簿】》

2024年は8月までに47銘柄のIPOが行われました。東証グロース市場250指数が低迷する中でも、IPOの数はコンスタントにあります。しかし、今年は初値が伸びません。8月までの初値騰落率第1位は127.4%に留まり、投資家にとっても〝夢〟を見ることができない状態です。

2024年前半戦のIPO市場を振り返り、注目のIPOの「その後」を追いかけます。

2024年前半のIPO市場を振り返る

株式市場は8月に入り、急落と急騰を見せるなど一時混乱状況に陥りましたが、年初から見れば上昇を維持しています。ただ、その中でグロース指数は昨年からの低迷が続いており、8月の市場混乱時には2020年3月の安値も一時割り込みました。

しかしながらIPO自体は順調に行われており、8月までに47社が新規上場を果たしました。2023年の56銘柄は下回るものの、一昨年2022年の43銘柄に比べれば多くなっており、IPO市場は継続的に稼働中と言ってよいでしょう。

初値の伸びは限定的

2024年前半戦の初値騰落率ベスト5を見てみましょう。トップとなったジンジブ<142A>の初値騰落率は127.4%で、以下4位まで120%台が並びます。

初値騰落率120%台というのは、2021~2023年のIPO前半戦(1~8月)ならベスト5入りできない数字です。たしかにIPOの件数は維持されているものの、初値騰落率200%超えが複数出ていた昨年までと比べると、IPO市場の熱気は下火です。

その一方で、公募割れに終わった銘柄は5件に留まっています。IPO株投資での損失リスクは抑えられているものの、かつてのように、初値が10倍以上に大化けするなどの夢を抱けるような状態にはなっていません。

話題のIPO株のその後を追跡

2024年前半にIPOした銘柄の中から、話題の銘柄のその後の状況を見てみましょう。

  • ジンジブ<142A>
  • アストロスケールホールディングス<186A>
  • PostPrime<198A>
  • タイミー<215A>

前半戦トップながら、ほぼ初値天井に…

・ジンジブ<142A>

3月に上場したジンジブ<142A>は大阪に本社を置き、高卒人材の採用サービスを提供する企業です。公開価格1750円に対して初値は3980円となり、初値騰落率127.4%で今年前半の第1位になりました。

ただ、IPO以降は株価下落が続き、初値天井に近い状態となりました。4月には2320円まで下落し、上場来安値をつけています。6月後半に3500円台まで上昇したものの、8月の市場急落時で再び2327円まで下落。その後3000円を回復しましたが、再度反落して、9月に入ると2500円台まで落ちました。

公開価格は一度も割れていません。しかし、一度も初値を超えられていません。株価は初値に比べて3割以上安い水準で推移しており、前半戦トップの銘柄としては寂しい株価推移となっています。

JAXAからの受注発表で株価は反発

・アストロスケールホールディングス<186A>

昨年のispace<9348>からスタートした宇宙ベンチャーのIPO。アストロスケールホールディングス<186A>は3社目で、今年6月に上場を果たしました。スペースデブリ(宇宙ごみ)除去サービスの開発で知られ、注目のIPOでした。

公開価格850円、初値1281円。初値騰落率は50.7%ながら、初値での時価総額は1400億円を超える水準で、赤字の宇宙ベンチャーとしては非常に高い評価を受けてIPOに成功しました。

その後、株価はジリジリと下落が進む展開となります。目立った反発もないまま下落が続く中で、8月の市場混乱時には安値513円まで下落することに。しかし、ここが底となって株価は反発。8月末には1000円を回復し、9月中旬から再び上昇しています。

8月19日、JAXAから120億円規模のスペースデブリ(宇宙ごみ)除去実証実験を受注したことを発表し、これが株価を押し上げる形となりました。

もう一段上昇すると初値を回復します。そこからさらに上昇するか、あるいは初値回復には至らず反落してしまうか、注目されます。とはいえ、現状では初値の2割以上安い水準にあり、ジンジブ同様に寂しい状態と言えるでしょう。

2024年前半の隠れたヒット銘柄

・PostPrime<198A>

投資インフルエンサーとして有名な高橋ダン氏が代表を務める企業です。SNS界隈では曲がり屋的予想が話題の高橋氏ですが、金融・経済特化型SNSサービスを提供する同社は今年6月に新規上場し、公開価格と初値がいずれも450円。初値騰落率0%のほろ苦いデビューとなりました。

しかしながら、その後の株価は大きく伸び、7月初旬に1427円まで上昇しました。8月の市場急落時には566円まで下落したものの、すぐに反発しています。9月に入ってからは800円を前後していますが、それでも初値を大幅に上回る水準です。

初値こそ伸びませんでしたが、IPO後に相場が始まりました。IPO株投資では、こういうことも大いにあります。高値付近で売却できていれば、購入価格の3倍ほどの利益を手にできました。IPO後の株価推移まで含めると、2024年前半戦の隠れたヒット銘柄と言えるでしょう。

一時公募割れするも株価は順調

・タイミー<215A>

2024年前半のIPO市場で最大の注目を集めたタイミー<215A>。スキマバイトサービスで急成長し、テレビCMなどで個人投資家にも知名度がありました。時価総額1000億円超の価格設定でIPOに挑み、公開価格1450円に対し初値は1850円で、初値騰落率27.5%。公開価格を約3割上回る水準で着地しました。

IPO後に株価は下落。8月の市場急落では公募割れに至りましたが、すぐに反発して8月半ばに初値を回復。その後は2000円を前後する取引が続いていたのですが、9月後半に入って大きく下落。再び公募割れ水準になってしまいました。

タイミーは今年を代表するIPO銘柄のひとつ。今後の株価動向が注目されます。

後半戦の大注目は東京メトロ!

2024年は、グロース指数の低迷が続く中でもIPOが行われています。10月には東京地下鉄東京メトロ)<9023>のIPOが予定されており、上場時の時価総額は6400億円ほどになると報じられています。近年では最大のIPOとなる見込みで、その初値の行方に大注目です。

ただ、ここまで見てきたように、今年のIPO市場では初値騰落率が低く収まる状態が続いています。東京メトロが起爆剤となるか。2024年後半戦も、初値騰落率の動向を注視しながらIPO市場を見つめます。

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[執筆者]石井僚一
石井僚一
[いしい・りょういち]ベンチャーキャピタル勤務を経て個人投資家・ライターに転身。株式市場や個別銘柄の財務分析などを得意とし、複数の媒体に寄稿中。なかでもIPO関連の執筆を数多く手がけており、IPO企業の目論見書のほとんどに目を通している。
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