決算発表で上がる株・下がる株 プロはどのように準備をしているのか

高野 譲
2018年4月26日 18時30分

一年で最も多くの企業が決算発表をする季節がやってきました。ニュースとなって話題を集めたり、時には株価を大きく動かしたりもする、相場における一大イベントです。どんな心構えで迎えればいいのか、プロトレーダーの視点を解説していただきました。【本記事は再録です】

ヒントは「発表前」にある

「あの株はダメな決算で上がったのに、こっちの株はなんで好決算なのに下がったの?」

上場企業の決算発表に続く一幕でよく耳にするこのセリフに、一定の答えが提示されるのは、ずっと後のことです。なぜなら、上がった理由・下がった理由を、決算報告書やニュース記事から探し出す必要があるからです。

しかし本来ならば、投資家として「決算発表前」に身構えておけるようにしたいと思いませんか?

そのために必要なのは「決算発表前」のチャートを確認すること。そこにヒントが隠されています。決算に対する期待と決算発表後の株価の、シーソーゲームのような「隠れた絆」を読み取れることができるのです。

決算発表後の値動きについて、発表前のチャートに焦点を当てて「プロが具体的にどのようなところを見ているか」を解説していきたいと思います。

「当日」の値動きを決めるもの

決算発表の当日の値動きを決定付ける要因は、「業績予想より良いのか? それとも悪いのか?」の一点のみです。

これは、発表された決算内容が投資家の「期待以上なのか? 期待以下なのか?」と言い換えることもできます。結果はどちらになるのか……だれもが固唾を呑んで見守る決算発表で、期待以上となった場合に「サプライズ決算!」という言葉が万歳のごとく使われていることを知っている方も多いでしょう。

対して、期待より悪い決算であれば、落胆した投資家たちによる罵詈雑言が市場内(あるいは裏)に飛び交うことになります。

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発表前から始まる投資家の「期待」とは

決算に対する投資家の期待は、「発表前」から始まっています。

投資家は当期の業績予想を、主に会社のIR(投資家情報=ホームページ上の決算短信)から入手しています。企業側には業績予想を出す義務があるわけではないのですが、大半の企業が、年4回ある決算と同時に、当期の予想(1年の目標の達成率)を公表しています。ここからすべての投資家の期待が始まる、と言えるでしょう。

次に登場するのが「アナリスト」と呼ばれる企業分析の専門家です。彼らは、IRの業績予想をもとに様々なコメントやレポートを作成します。

つまり業績予想には、単に企業が発表した予想と、それに専門家の意見を加えたアナリスト予想があることを覚えておきましょう。大企業においては、アナリストによって色付けされた予想(市場コンセンサス)を基準にして、投資家たちは決算発表当日を迎えます。

なお、アナリストはすべての上場企業に対して予想を行っているわけではなく、アナリスト予想があるのは対象企業の約17%程度、とする論文も発表されています(「アナリストカバレッジの現状と課題」米山徹幸)。

発表前の値動きは「長期」と「短期」で

それでは、今回のテーマである「決算発表前の値動き」について見ていきましょう。

値動きはチャートで視覚化したほうがわかりやすく、それによって、発表前における投資家の期待の「高さ・低さ」を読み取れます。たとえば、株価が上昇している企業に対しては、次の決算に期待している投資家が多い、ということです。

決算発表前の値動きを調べる際、多くの投資家は短期チャートを見ていることでしょう。つまり、「決算発表直前」の値動きだけを注視しています。それは、決算発表の1週間ぐらい前から「決算を意識した買い(売り)」といったコメントがニュース内などから聞こえてくることもあり、決算絡みの値動きはこれくらいの時期からチャート上に現れる、と思っている投資家が多いからです。

ズバリそのとおり! 間違いではありません。

しかし、実は、長期チャート(1〜3年)で見るほうが、次の決算における「企業側に求められる期待」の高さ・低さを、全体像として把握することができるのです。したがって、ここまではまず、長期チャートからわかる決算発表前の値動きについて、順を追って見ていきましょう。

「長期チャート」から見る決算発表前の値動き

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上の図①は、「無印良品」を展開する良品計画<7453>の長期チャートです。こんな身近な企業の株価が、わずか数年で3~8倍になっていることがわかります。驚きです。少し調べてみると、やはり業績の推移に比例するかように株価が上昇していたことがわかりました(図②)。

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しかし、2015年の後半から上昇はストップして、上値が重くなっています。だからといって下落するわけでもなく、図②の利益ベースのグラフを再三見直しても、業績は堅調に推移し、決して伸び悩んでいるわけではないようです。

「織り込み済み」が見え隠れ

こうした状況は、長期チャートでしか気づくことができません。果たして、次に発表される決算で株価は上昇するのか? いくつかの疑問符が付き始めます。

良品計画の決算発表前における状況としては、過去の好決算の連続で投資家の期待が高まり過ぎている、それによって「企業側に求められる決算内容」の敷居が高くなっている、それゆえ、いざ好決算を発表しても事前の期待値で相殺されてしまう可能性が高い……といったことが言えるのです。

このように長期チャートからは、いわゆる「織り込み済み」という言葉が見え隠れし、並大抵の決算内容では株価が上がらない状況が、ひと目で伝わってくるのです。そして、こうした決算発表前の値動きは、「好決算なのに売られる」というパターンを演じることが多くなるわけです。

「短期チャート」から見る決算発表前の値動き

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さて、2016年7月1日(金)、良品計画の2016年度第1四半期の決算発表がありました。

営業収益は対前年同期比+13%増、営業利益は同+20%増という好決算であるにもかかわらず、週明けの取引開始の初値は、前日比▲6%前後の下落でスタートすることになりました(図③)。

これについて、決算発表前の値動きとの因果関係を説明するには、前述した長期チャートの解説で事足りるでしょう。並大抵の決算では株価の上昇は見込めない、という判定だったのです。

思惑で買って事実“前”に売る

これに対して、短期チャートからわかるのは「投資家の思惑」です。

決算銘柄を持っているか否かにかかわらず、決算発表前にだけ銘柄情報をチェックする投資家は多くいます。つまり決算発表直前の思惑とは、裏を返せば「ポジションの解消」に他なりません。

相場格言では「思惑で買って事実で売る」と言いますが、実際には「思惑で買って事実“前”に売る」のが通例なのです。

機関投資家(法人の投資家)や長期保有を目的とした個人投資家は、基本的に、決算発表前に買うことはしません。発表後に、内容を見てから買います。したがって、彼らのポジション解消と、それを知って先読みした短期筋たちの壮絶なバトルを映したものが短期チャートだと言えるでしょう。

証券会社のトレーダーが意に反して決算発表前にポジションを取ってしまい、上司からお叱りを受ける姿を、私は何度も目にしています。

発表直前の値動きは、発表後には関係ない?

長期チャートで見た場合と同じように、短期的に株価が大きく上昇・下降すれば、「企業側に求められる決算内容」の敷居の高さが変化することになるでしょう。しかし、上下3%以内の値動きなら、決算発表後の値動きには関係ないと言えます。

あえて私の経験から言わせていただくなら、決算発表日には逆に動くことが多いです。つまり、前日の終値が上昇(下落)したのに、決算発表によって下落(上昇)するのです。なぜなら、通常、大きな発表前の値動きというのは、プラスマイナスゼロであることが標準だからです。

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図④を見てください。ドルのように市場の大きな金融商品では、重要指標(米雇用統計)の発表前には値動きがほとんどなくなります。

つまり、重要指標である決算の発表前に、株価が大きく動くこと自体が異例なことなのです。そうであるなら、思惑で動いた分だけ翌日に是正されても不思議ではありません。このことから、決算発表前の値動きを見極めるには、短期筋の思惑に乗らないことが大切だと言えるでしょう。

新たな相場の楽しみ方に

決算発表前の値動きは、基本的には長期チャートで分析します。しかし、レンジというもみ合い相場で、買われ過ぎ・売られ過ぎの判断がつかないときは、長期から中期、短期へと時間軸を短くして、前期決算の内容と値動きから次はどうなるだろうか、と思案することもできます。

投資家やメディアの注目は常に決算発表直後に集まりますが、ここで一度、決算発表の値動きに視点を向けてみるのも、相場を楽しむひとつの方法だと思っていただければ幸いです。

[執筆者]高野 譲
高野 譲
[たかの・ゆずる]株式・先物・FX投資家、個人投資家8年と証券ディーラー8年の経歴を持つ。現在は独立し、投資関連事業を法人化、アジアインベスターズ代表。著書に『図解 株式投資のカラクリ』『株式ディーラーのぶっちゃけ話』『超実践 株式投資のプロ技』(いずれも彩図社)などがある。
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