強まるロシア包囲網 世界経済と株式市場に与える影響とは
2022年2月、ロシアがウクライナ侵攻
2月24日、ロシアはウクライナへの軍事侵攻を開始しました。ロシア国境からドンバス地域へ、クリミアからの北上、ベラルーシからキエフの3つのルートで侵攻。ウクライナのミサイル防衛力の弱さをつき、巡航ミサイルやロケットによる軍事施設の空爆を行いました。
ロシアのプーチン大統領は、これまでもロシア系住民の保護などを口実に他国へ侵攻してきました。2008年には親欧米路線を強めたジョージアに、ロシア系住民を守る口実で同国の南オセチアとアブハジアに軍を投入し、一方的に独立を承認。
2014年には隣国のウクライナ領クリミア半島に進行し、武力で併合しています。プーチン大統領は、1991年のソ連崩壊後に独立した国への影響を強め、かつての「大国復活」を目指しているのです。
制裁案としてロシアをSWIFTから排除
ロシアのウクライナ侵攻への制裁案として、ロシアを国際的な資金決済網の「SWIFT(国際銀行間通信協会)」から排除する案が浮上。3月2日にロシア2位のVTBバンクなど大手37行をSWIFTから排除することを、EU(欧州連合)は明らかにしました。
SWIFTは、世界中の銀行が加盟する巨大な国際金融ネットワーク。国境をまたぐ決済や送金で、日々、数兆ドルが行き交っています。ロシアも原油や天然ガス、金属の取引決済に活用しています。SWIFTから排除されれば、最大で約300あるロシアの銀行が、海外の資金決済から締め出されることになるのです。
また、ロシアの中央銀行にも制裁を発動し、通貨防衛の能力を失わせます。米ドルやユーロなどとの取引を凍結させて為替介入(外貨売り・ルーブル買い)をさせないようにすると、ルーブルが急落します。そして、インフレ加速による景気悪化によって国民の不満を高めるのが狙いなのです。
ソ連末期から1990年代にかけて、物不足やハイパーインフレをロシア国民は経験してきました。また、2014年にウクライナ南部のクリミアを強制的に編入したときにルーブルが大暴落したことも覚えています。
ウクライナ侵攻前からルーブルに不信感を抱く人は多く、資産をドルに変えて持っている人もいました。
ルーブル急落で政策金利20%台へ
欧米がロシアをSWIFTから排除する経済制裁を決め、ルーブルの保有者が米ドルなど外貨に換える動きを急いだため、ルーブルは2月28日に1ドル=110ルーブル台まで下落。過去最安値を更新しました。
これを受け、ロシア中央銀行は政策金利を9.5%から20%に引き上げると発表。政策金利が20%台になるのは、2003年以来19年ぶりです。アルゼンチンの42.5%に次いで高くなり、トルコの14%を上回る水準になったのです。
しかし、その後もルーブル安は止まらず、3月8日には1ドル=150ルーブルをつけて史上最安値を更新しました。ロシアがウクライナに侵攻する前は1ドル=70〜80ルーブル程度で推移していたので、ルーブルの価値は半分になってしまったのです。
ロシア国債のデフォルト懸念が高まる
2022年2月のインフレ率は9.15%と なり、7年ぶりの高水準となりました。しかし、ロシアは経済制裁を受け、今後はさらにインフレ率も高まると考えられます。クリミア併合後の2015年は 15.6%まで上昇しました。さらに、ロシア危機後の1999年には92.7%というハイパーインフレになっています。
債券の利回りも急上昇しています。ウクライナ侵攻前は1桁台だった2047年償還のドル建て債券の利回りが30%前後まで上昇。米ブルームバーグでは、ロシア国債を保証するコストが、約80%の確率でデフォルトを起こすことを示唆していると報じています。
ロシア中央銀行によると、外貨建てロシア国債の非居住者の保有比率は50%を超えており、経済制裁で追い詰められたロシアでデフォルトが起これば、金融市場にさらなる混乱を招く可能性があるのです。
1998年にはロシアで財政危機が生じ、長期金利は110%台まで上昇しました。そして、米ヘッジファンドLTCM(ロングターム・キャピタル・マネジメント)が事実上の破綻。同ファンドはロシア国債に投資していましたが、ロシアがデフォルト(債務不履行)を起こして損失が急拡大したからです。
今後の世界経済に与える影響
SWIFTからのロシア排除は制裁の効果を高めますが、ロシアから天然ガスなどを輸入する海外の買い手にとっても痛手となります。
また、ロシアからの輸出が止まると、資源価格の高騰にも拍車がかかると懸念されています。 とくに欧州にとっては大打撃となります。なかでも、イタリアとドイツの天然ガスのロシアへの依存度は5割前後と高く、輸出に関しても、オランダとドイツはロシアにとって2番手と3番目の貿易相手国です。
ロシアがデフォルトとなってルーブルが暴落すれば、一部の欧州系銀行で信用リスクが高まる恐れもあります。欧州初のクレジットクランチ(金融機関の融資縮小)がアメリカや日本の金融機関に影響を与える可能性もあり、2008年のリーマンショックの再来とならないよう、各国中央銀行は準備が必要です。
個人投資家としても、日々のニュースを注視しつつも、目先の株価変動に慌ててしまうことがないように、様々なケースを想定して備えておいたほうがいいでしょう。