暴落相場の空売りで勝てない人に、鳥貴族と家康が教えてくれること
暴落相場は空売りで大儲け?
新型コロナウイルスによる暴落相場では、みなさんの資産は大丈夫だったでしょうか。コロナショックに限らず暴落相場においては、「空売りすれば大儲けできるんじゃ?」と思いますよね。でも、そううまくはいかなかったりするのです……。
知っていると知らないのとでは心構えがガラリと変わる、そんな暴落相場における「ボラティリティ」についてのお話です。
「鳥貴族で売り貴族」の巻
暴落だからって、そう簡単には下がらない
2020年2月中旬。このころはWHOもコロナに対して「そう、大騒ぎするもんでもない」的なことを言っておりました。ダイヤモンドプリンセス号が横浜に停泊したころです。
しかし、相場は未来への期待や不安で動くもの。このころから鳥貴族<3193>をはじめ、特に外食産業や旅行業界など、コロナのあおりを受けそうな銘柄の株価が下落を始めます。
2月10日に2,698円で空売りし、4月3日に1,190円で買い戻している人がいたら、その人こそまさに鳥“貴族”ですが……。実際、2月中旬〜3月末に空売りしたあとは余計なことせずにじっとしていれば、勝てたのです。チャートの形を見ても、この期間はおおむねきれいな右肩下がりです。
ただ、この「おおむね」が曲者。2月中旬〜3月末のローソク足一本一本に注目すると、トレンドは下降ながらも、ちょくちょくと陽線(緑色のローソク。始値より終値のほうが高い。買いが多く、市場が強気であることを示す)が顔を出しています。
この陽線によって、「あわわ……下落はもう終わったか!」と怖くなり、貴族になれるチャンスをみすみす手放してしまった鳥庶民もいたのではないでしょうか。はい、私です(涙)。
何が言いたいのかと言えば、「暴落相場で株価が右肩下がり」といっても、毎日すくすく右肩下がりになるなんてことにはならないんですね。言われてみれば当たり前のことですが、目の前の陽線に煽られて、そういう当たり前のことも忘れてしまいがちです。
ローソク足でわかる暴落相場の「ある特徴」
さらに、暴落期である2月中旬~3月末と、コロナ以前のローソク足を比較してみましょう。何か大きな違いがあることに気づきませんか? 陰線(陽線の反対で、売りが多く、市場の弱気を表す。このチャートでは赤色)が多い、ということではなくて、ローソクのひとつひとつの形に注目してみてください。
そう、陽線・陰線を問わず、コロナショック下ではローソクが「長い」んです。
ローソク足は、ローソクの胴体(四角い部分)と、四角の上下から伸びているヒゲから成ります。そして、四角の上下ラインが始値と終値、上ヒゲの先端が高値、下ヒゲの先端が安値を表します。つまり、ローソク足が長ければ一日の値幅が大きく、短ければ値幅が小さいということ。
暴落以前の平和なころの鳥貴族は、値動きが穏やかで株価も平和だったのが、コロナ禍という戦乱における鳥貴族は、普段とは違う激しい値動きを見せていたということです。
暴落相場の空売りで損する人の典型は、これだ!
たとえば、2月28日の寄り付き2,023円で鳥貴族を空売りしたAさんがいます。前営業日、前々営業日と陰線が続く、美しいまでのダダ下がりが続いていました。「もう遅いかな」という恐怖心と「まだまだイケるはず」という期待のはざまに、Aさんの心はありました。
その期待はむなしく、翌営業日3月2日の高値は2,165円。Aさんはチャートにつきっきり。手放そうかな。でも明日こそ下がるはず、と耐えることにしました。しかし、翌日の高値はさらに上がって2,250円。コロナ相場は解消してしまったのか。もう耐えられない……とAさんは買い戻しました。
それからどうなったのか。Aさんが買い戻した5営業日後、3月10日に株価は1,645円まで下がってしまうのです。空売りしてから10日間、黙って何もしなければ、いい感じに儲けてました。1週間、ネットのつながらない無人島にでも行っておけばよかった……(外出自粛要請が出ていましたが)。
Aさんは今でも、待てなかった自分、余計なことをしてしまった自分が悔しくてなりません。「家康のように、鳴くまで待てばよかった──」。でも、Aさんの失敗を他人事として笑い飛ばせるトレーダーは、そう多くはないのではないでしょうか。
プロが語る「鳴くまで待つ」極意
暴落相場で意識したい「ボラティリティ」
「鳴かせてみせよう」などと余計なことをせず、鳴くまで待てる家康になるためには、どうしたらいいのでしょうか。それは、暴落相場のポイントを押さえること。
鳥貴族に限らず、いわゆる〇〇ショックと呼ばれる暴落相場においては、ボラティリティ(株価の変動幅)が大きくなります。先ほどの「一本一本のローソクが平時より長くなる現象」ですね。
鳥貴族のチャートで見たように、暴落相場まっ最中でも上がる日(陽線)もある、ということに加えて、上がるときは普段よりも大きく上がるし、下がるときも普段ならあり得ないくらい大きく下がることもあるのです。そういう激しい値動き、ボラティリティの高さこそ、暴落相場の特徴と言えます。
「下がるとばかり思っていたのに急騰してビンタを食らう」のは、この特徴を理解していない素人にとっては「暴落あるある」として酒席のネタにでもするしかありませんが、プロのトレーダーは当然ながら、こんなミスは犯しません。
プロは暴落相場をどう過ごしているのか
暴落相場は、中期的に見れば下がります。でも、今日どうなるか、明日は上がるのか下がるのか、といった短期的な動きは、誰にもわかりません。もちろん、プロにだってわかりません。でも、私を含め素人は毎日下がると思ってしまうので、ちょっと上がったところで焦って振り落とされるのです。
ではプロは、こういうときにはどうしているのでしょうか。知り合いのトレーダーに聞いてみました。
「プロは、こういうときに資金を突っ込んだりしません。暴落時はボラティリティが高くなるとわかっているので、そういう場面ではポジションを小さくするのがトレードの鉄則です。ましてや、資金が十分にない人が信用取引(空売り)をするなんて、とても危険です!」
……たしかに、トレード歴の浅い素人ほど、暴落相場でポジションを大きくしたり、アクティブになっちゃったりしがちなんですよね。「チャンスだ! 突っ込もう!」って。でも残念ながら、「ボラティリティが高い→儲かるチャンス!→全力投球!!」という考えは、このプロに言わせれば「破滅的」とのこと。
空売りをするにしても、小さいポジションで行っていれば、思惑に反して急騰する日があってもぐっと堪えて下がるまで耐えることができます。大きく儲けられると期待して普段より大きなポジションを突っ込んでいることも、下がるまで待ち切れない素人の大きな敗因なのです。
ボラティリティ高く、ポジションは小さく
では、暴落相場では何をしたらいいのかと言えば、「基本的に暴落相場は手を出さない」ことが推奨ルートと言えそうです。それでも「どうしても手を出したい!」という場合には、胸に手を当てて、「損できる金額はいつもと同じ」ということを肝に銘じておきましょう。
平時には「〇万円まで」「買値の〇%まで」「全資金の〇%まで」など、人によって損切り(ロスカット)のルールがあるはずです(もしもない場合は、まずはルールを作るところから)。
でも、ボラティリティの高い暴落相場で控えめな損切りラインを設定すると、すぐにロスカットになってしまい、上述のAさんのように上下動の激しい相場に振り回されるだけ。そこで、普段より少し広めのところに損切りラインを設ける必要が出てきます。
それでも「損できる金額はいつもと同じ」にしなくてはいけません。なぜなら、暴落相場だからといって自分の資金量が増えたわけでも、トレード力が上がったわけでもないからです。相場は中期的に下がるとしても、すべての銘柄が必ず下がるわけでもなければ、空売りで絶対に儲けられるわけでもないのです。
具体的には、プロが教えてくれたように「ポジションを普段より小さくする」ことで、広めの損切りラインであっても損失金額を普段と同じにすることができます。損失可能金額から逆算して、いくらまでならポジションを持てるのかを計算しましょう。
こうして第2派に備えよう
新型コロナウイルスの行方と同じように、相場の先行きも不透明です。でも、いずれ治療薬やワクチンが開発されるであろうウイルスと違って、暴落を防ぐことはできません。
第2派が来たとき、もしくは今後また必ず起こる〇〇ショックのために、「ボラティリティの高い相場では、普段よりポジションを小さく」「平時でも有事でも、いつだって損できる金額は同じ」と毎朝10回唱和したいですね。