スタグフレーションは起きるのか? 気になる株式市場への影響は?
《不況なのに物価が上がる「スタグフレーション」が起きる懸念が高まっています。それはなぜか。また、株式市場にはどんな影響があり、投資家は何に気をつけなければいけないのか》
スタグフレーションとは?
スタグフレーションとは、景気が後退している中でインフレーション(物価上昇)が進むことです。英語の「stagflation」の日本語読みで、「stagnation(景気停滞)」と「inflation(インフレーション)」の合成語になります。
景気が停滞しているときは、通常、需要が落ち込むことからデフレ(物価下落)となりますが、原油など原材料価格の高騰によって、不景気でも物価が上昇することがあります。これが「スタグフレーション」です。
景気後退時には賃金も上がらないので、物価が上昇すると生活が厳しくなります。日本では、1970年代のオイルショック時にスタグフレーションが起こりました。
過去の例は1970年代のオイルショック
過去にスタグフレーションと定義されたのは、1970年代のオイルショック後です。オイルショックとは1973年の第4次中東戦争を機に始まり(第1次オイルショック)、1979年にはイラン革命を機に第2次オイルショックが始まりました。
当時は高いインフレに加え、アメリカの失業率は8~9%台に達していました。ゴールドマンサックスの調査によると、S&P500種株価指数の1960~2020年の実質トータルリターンはプラス2.5%でしたが、スタグフレーションの時期はマイナス2.1%に落ち込んでいたのです。
オイルショックと日本経済
日本でも、1973年に発生したオイルショック(第1次オイルショック)により、1974年(昭和49年)の消費者物価指数は23%も上昇し、「狂乱物価」という言葉も生まれました。
インフレ抑制のために公定歩合が引き上げられましたが、1974年のGDP成長率はマイナス1.2%となり、戦後初めてのマイナス成長となりました。その結果、高度経済成長が終焉したのです。そして、日本経済は原油価格の上昇によってもたらされたスタグフレーションに1年以上も苦しむことになります。
2021年秋、株式と債券が同時下落
いま、スタグフレーションへの懸念が市場で広がっています。エネルギーや半導体の供給不足でインフレ予想が高まり、企業の景気回復ペースも鈍ると見られているのです。
そして、株式市場ではインフレの影響を受けにくい金融株や資源株へ資金を移す動きが見られています。1970年代のようなスタグフレーションはまだ起きていませんが、マーケットへの影響は広がっているのです。
2021年9月は、世界のマーケットで株と債券が同時に下落しました。通常、株と債券は逆の動きをするので、株と債券への分散投資が可能です。しかし、9月はその株と債券が同時安となりました。
米テーパリングがいよいよ開始
債券価格が下落している要因のひとつは、世界各国の中央銀行が金融緩和を終了し、利上げに向かっているからです。とくに最大の注目はアメリカのテーパリング(資産購入の段階的な縮小)で、11月初旬のFOMC(連邦公開市場委員会)で、ついにテーパリングが開始されることが決定しました。
《参考記事》「テーパリング」で何が起きる? 株価や景気に与える影響を考える
利上げに向かうと、債券は下落しやすくなります。さらに、景気減速とインフレが同時に起こる「スタグフレーション」が意識され、企業収益悪化への懸念から株式も下落したのです。
2020年は、新型コロナウイルスの感染拡大による経済低迷への対策として、各国中銀は過去にない規模の金融緩和を行いました。その結果、株と債券が同時に上昇しました。
その後、経済正常化とともに債券が下落して株式が上昇するという通常の姿に戻りましたが、スタグフレーション懸念によって株と債券が同時に下落するという現象が起きているのです。
日本では株・債券・通貨のトリプル安も
日本では円安も進んでいます。10月に入り、米ドル円が114円台と約3年ぶりの水準まで下落しました。アメリカでテーパリング観測が進んだことや、インフレ懸念によってアメリカの長期金利が上昇したためです。
円安は輸出企業にとってプラス要因になるので、株にとってはポジティブな要因になると考えられています。しかし、最近は円安が進んでも株高にはなりづらくなっています。というのも、現在起きているのは「悪い円安」だと見られているからです。
資源など輸入原材料の価格が上昇する場面で円安が進むと、企業収益の悪化、つまり交易条件の悪化につながります。これが悪い円安です。
日本の輸出企業の場合、資源などの原材料の輸入価格が下がり、製品の輸出価格が上がって交易条件が改善すれば、企業業績が良くなって株価は上がりやすくなります。しかし現在は、商品価格の上昇による輸入価格の上昇が円安による輸出価格の上昇を上回っており、日本企業の収益を圧迫しているのです。
こうして、日本では株価や債券だけでなく通貨(円)も下落する「トリプル安」が進行しているのです。
コロナ禍のスタグフレーション
現在の物価上昇は、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた個人の消費行動の変化による影響も大きいと考えられています。人々は感染リスクの高い旅行や外食、娯楽サービスなどへの消費を抑える一方、家での食事やネットショッピング、日用品などへの支出を増やしています。
つまり、人と接触する「サービス」への支出は大きく減らしていますが、「モノ」への消費は増やしているのです。そして、日用品や自動車などでは供給が需要に追いつかず、価格が上昇。原材料の需要を高めて、商品市況、とくに原油などのエネルギー価格の高騰を招いているわけです。
新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着けば、個人の消費行動も一部戻るでしょうが、完全に「コロナ前」の生活に戻る可能性は低いでしょう。モノへの消費は続くものの供給が追いつかず、インフレ圧力が今後もかかり続ける可能性は十分にあります。
コロナ禍をきっかけとしたインフレ、そしてスタグフレーションに対応しないと、経済正常化への道のりは厳しくなるでしょう。年末相場に向けて、株価だけでなく経済市況全体を注視しておく必要がありそうです。