なぜ円高になると日経平均が下がるのか? 為替と株価の奇妙な関係

私たちが投資した株式の価格は、時に為替相場の大きな磁力に動かされてしまいます。夜のニュース番組の終わりには、アナウンサーが「今日は円高の影響で日経平均は値下がりしました」「円が買われて株が売られました」という原稿を読む姿をよく見かけます。番組はそのまま終了し、疑問符だけが残ります。

「円高で株安……なぜ?」

円高ということは、より少ない日本円で、より多くのもの(より高いもの)を海外から手に入れられる、ということです。日本にとっては最高のはずなのに、なぜこれで日本株が売られてしまうのか? 今回は、この私たちの国の「為替と株式の不思議な関係」を解説したいと思います。

円高とは? 円安とは?——為替相場の基本

woman with money, dollars raised her finger to her mouth and says "shh"

通貨(為替)と株価は連動して上昇(あるいは下落)するのが一般的です。他国より経済が強い国ほど自国通貨の価値が高まり、その国の株価は上昇します。現にアメリカは、自国通貨ドルの上昇にともなって株高に動いています。

しかしながら、5年前まで低迷し続けていた日本の株式市場に対して、当時の為替相場は1ドル=80円にまで達していました。株価が下がるなかで円高が進行していたわけです。この状況を「病気だ」と言う人もいました。「通貨が上がると株価が下がる」のは、日本独特の“病”と言えるのかもしれません。

そもそも「円高」「円安」とは、どういうことでしょうか。まずは、為替相場の基本からおさらいしましょう。

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たとえば1ドル=100円のとき、両替所に1ドルを持っていくと100円がもらえます(わかりやすくするために手数料は考慮しません)。これが1ドル=50円になると、1ドルを両替しても50円にしかなりません。倍の2ドルを出して、やっと100円と交換できます。

これは「ドルの価値が半分になった」とも言えますし、「円の価値が2倍になった」とも言えます。前者を「ドル安」、後者を「円高」と表現します。つまり円高とは、ドルが売られることであり、円が買われることです。反対に、円が売られてドルが買われる状態が「円安」「ドル高」となります。

為替相場とは2つの通貨の相対的価値(交換レート)ですから、一方が上がれば、当然もう一方は下がることになります。

そして、一般的に「円高」「円安」と言った場合は、アメリカのドル(米ドル)に対する円の価値を指します。米ドルは信用力が高く、世界中どこに行っても使うことが可能で、「基軸通貨」と呼ばれています。海外の有名観光地では、現地通貨よりも米ドル紙幣が普及していることもあります。

国際間の貿易でもこの米ドルを使うのが一般的で、以下の解説も、すべて米ドルに対する「円高」「円安」が前提となっています。

円高で日本株が売られる理由

さて、円高になると、日本企業は下記のような2つの心配事をします。

1.海外で自社製品が売れなくなってしまう(シェア低下)
2.海外売上のドルを円に両替したら雀の涙だ(為替差損)

1.海外で自社製品が売れなくなってしまう(シェア低下)

円高によって、あらゆる製品やサービスが海外で売れなくなってしまいます。たとえば、こんな状況が起こることが考えられます。

アメリカ在住のある少年は、近所のおもちゃ屋で公式ポケモンカードを1枚1ドルで買うのが楽しみでした。ところがある日、同じカードが1枚2ドルになっていました。少年は帰宅し、父親に懇願します。父親は翌日、子供だましの不当な値上げだとクレームに行きましたが、おもちゃ屋は「円高(ドル安)で卸売価格が2倍になったのだ」と説明します。父親は仕方なく店を出ると、路地裏の小さな露店で非公式のポケモンカードを購入し、息子に渡しました。

この短い作り話には、円高が日本企業にもたらす様々なマイナス要素が含まれています。

商品が売れなくなるだけでなく、値上げによる業界への不信感と顧客離れ、粗悪な偽造(コピー)品の普及と、さらには同業種間のシェア低下も懸念されるのです。特に販売シェアの低下は国際競争力を失うことと同じであり、企業の成長戦略に大きく影響してくる可能性もあります。

2.海外売上のドルを円に両替したら雀の涙だ(為替差損)

海外で事業を展開する日本企業は、決済にドルを使っています。そのため現地の売掛金だけでなく、日頃からある程度のドルを保有していることも多くあります。円高が大きく進行すると、それらのドル資産を円に換金したときに“雀の涙”ほどに目減りしてしまうのです。

1ドル=100円のときに1億ドルの売上があったとしましょう。この時点で円に換金すれば100億円です。しかし、急激に円高が進んで1ドル=50円になると、この売上は50億円になってしまいます。何もしていないのに、為替相場の変動だけで売上が半減してしまうのです。

このように、円高になると「シェア低下」「売上減少」「為替差損」といった懸念が生まれます。これらが、海外輸出を主な収益源としている企業の業績に対する不安材料になり、株式が売られることなるわけです。

なぜ日経平均が下落するのか?

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円高が輸出に不利に働くことはわかりました。しかし裏を返せば、海外製品を円高の力で安く仕入れられるようにもなります。原材料が値下がりすれば製造コストを抑えることにもつながり、企業の業績アップに貢献すると期待できます。

つまり市場全体を見渡した場合、円高懸念によって株式が売られる輸出企業もあれば、円高を好感して買われる輸入企業もあるということです。それなのになぜ、円高になると日経平均株価が下がるのでしょうか? それは、日本の輸出企業と輸入企業のアンバランスに原因があります。

■日経平均株価の構成銘柄

日本の株式市場を代表する株価指数である「日経平均株価」は、実は、文字どおり全上場銘柄の株価を平均したものではありません。東証1部に上場している全銘柄(1990銘柄/2016年11月10日現在)から選出した225銘柄の平均株価です。

円高によって日経平均株価が下がるのは、この225銘柄に、ハイテク産業や自動車産業といった輸出企業の割合が多いからなのです。特に自動車産業は、企業数こそ業種別7位に甘んじていますが、いずれも企業規模が大きく、円高の影響を強く受けるため、これらの企業の株価の変動が日経平均株価を大きく動かすことになります。

業種別・日経平均株価採用銘柄数(2016年11月10日現在)
1.電気機器(29社)
2.化学(17社)
3.機械(16社)
4.非鉄金属製品(12社)
5.食品(11社)/銀行(11社)
7.自動車(10社)

株価の変動が指数に与える影響を「寄与度」と言いますが、日経平均は225銘柄の「平均」ですので、単純に株価が高いと寄与度も大きくなります。そうした株価の高い銘柄(値がさ株)が輸出企業に多いことも、円高が日経平均を押し下げる原因のひとつになっています。

こうして、為替の影響を強く受ける輸出企業の株価が、日経平均を大きく動かす結果になるのです。そのため、円高でこれらの銘柄が売られて日経平均が下がると、日本株全体が下落するかのようなイメージをもつ人もいるかもしれません。

■基幹産業の構造的要因

日経平均を構成する225銘柄は、東証1部上場銘柄のなかから「流動性の高い銘柄」を中心に選出されています。つまり取引(売買)が活発に行われている、日本を代表する企業ばかりと言えます。最近はインバウンド効果で観光・サービス業も好調ですが、現在の構成銘柄を見ると、日本の基幹産業が、まだ自動車関連を筆頭とした製造業だということがわかります。

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ここで「まだ」という表現を使ったのは、今後の「変化」を考えるためです。稼ぎ頭となる産業が変化すれば、日経平均の構成銘柄も、それに合わせて変化することになるでしょう。その比率によっては、為替相場に対する日経平均の反応の仕方も変わってくることが考えられます。

「円高で株安」という病は、産業の変革によって治るかもしれないし、極度な輸出依存に陥れば、さらに悪化することも考えられるのです。

外国人投資家の「売り」もある

もうひとつ、「円高が外国人投資家の『売り』を呼ぶ」という点についても、少し解説しておきたいと思います。

円高・ドル安になるほど、外国人投資家が保有する株式に利益確定の注文が入ります。基軸通貨であるドルは投資の世界でも一般的で、外国人投資家の大半は、自分の証券口座にドルを入れて商いをしています(ドル建て)。ということは彼らは、日本株についてもドルに換算した値で見ているわけです。

日本の株式市場では株価が動いていない状態でも、為替が円高・ドル安に動けば、ドル建てで見た株価は上がります。つまり「為替差益」が発生するのです。利益確定をするために日本株を売る外国人投資家は少なくないでしょう。株式の値下がり分を為替差益によって補填しているとも言えます。

外国人投資家によるこうした売りが出ることも、結果的に日経平均を下げる一因となります。

まとめ

円高と日経平均の関係をシンプルにまとめると、次のようになります。

円高によって業績の悪化が懸念される輸出企業の銘柄が売られる
→ 輸出銘柄に影響を受けやすい日経平均株価が下落する

いま自分が保有(投資)している銘柄や気になる銘柄を並べたリストがあれば、ぜひ業種別に並び替えて、輸出銘柄と輸入銘柄に分けてみてください。為替相場が円高に大きく振れたとき、自動車や精密機器がどう売られ、対して輸入企業である食品や医薬品はどう動くのか。投資マネーが輸出から輸入へシフトする様子をリアルタイムで見られるかもしれません。


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