バリュー株と自動車関連が活況 阪神優勝で上がった株も あの人気株は安値更新【今月の高値更新】
《株価の新高値は、銘柄にとっての「自己ベスト」。その記録を新たに更新することは、“伸びしろ”の表れかもしれません。直近で高値更新を果たした銘柄から、いまの相場の流れを読み解きます》
調整の9月で上がった株・下がった株
9月の日本株は調整の流れとなりました。
中旬にかけては、大型のバリュー株などが堅調な展開でした。ただ、米FOMC(連邦公開市場委員会)や日銀の金融政策決定会合といった重要イベント通過後は、アメリカの金利上昇を嫌気した売りなどが優勢となり、日経平均株価は前月末に比べて762円安、3か月連続で下落して終わりました。
そんな中で、高値を更新して相場の牽引役となったのは、どのような銘柄でしょうか? 9月相場で新高値、新安値をつけた銘柄を取り上げながら、それぞれの共通点をひもといてみたいと思います。
・「高値更新」とは?
相場解説などで頻繁に使われる「高値更新」とは、読んで字のごとく、ある期間内の高値を更新したという意味です。ここに「昨年来」「年初来」「上場来」など期間を表す言葉が添えられて、「年初来高値を更新」などと言われます。また、新たに付いた高値を「新高値」と呼びます。
【株価の高値更新】
- 上場来高値……株式市場に上場して以来の高値。買い方の強い物色が株価に現れているといえる
- 昨年来高値……1〜3月に使われ、前年の1月1日から直近までの期間が対象
- 年初来高値……4月以降に使われ、その年の1月1日から直近までの期間が対象
9月はバリュー株優位の相場展開に
9月の日本株は、景気敏感のバリュー株に資金が向かいました。アメリカの利上げ継続への思惑、日銀の政策転換への期待で、日米ともに金利が上昇し、景気が上向くとの予想から景気敏感・割安株が買われました。
東証が春に打ち出した、PBR(株価純資産倍率)1倍割れの企業に対して市場評価を引き上げるための具体策を求める要請も、割安株に関心が向かう下地となっています。
中堅証券の丸三証券<8613>は株主還元の強化のため、2028年3月期までの4期にわたり、普通配当のほか特別配当を実施すると9月15日に発表しました。これを受け、株価は翌日からストップ高。短期の資金も巻き込んで上昇し、26日には年初来高値902円を付けるなど目立った動きとなりました。
他の証券株にも物色が波及し、19日には東洋証券<8614>、20日にはいちよし証券<8624>も年初来高値を更新しました。
21~22日には日銀の金融政策決定会合が開かれ、植田日銀総裁の記者会見で将来の金融政策変更に関して何らかのメッセージがあるのではないか?との期待が広がり、銀行株への買いも続きました。
三菱UFJフィナンシャル・グループ<8306>は9月21日に年初来高値1344円。昨年末からの上昇率は43%で、大型の金融株としては良好なパフォーマンスです。3大メガバンクの中では三井住友フィナンシャルグループ<8316>の39%、みずほフィナンシャルグループ<8411>の37%を上回っています。
三菱UFJはアメリカ向けの貸し付け残高の比率も高く、円安やアメリカの利上げの恩恵によるプラス評価もあったのかもしれません。
円安と挽回生産で自動車関連株が活況
アメリカの金利高止まりで円安の流れが続いています。ドル円の為替レートは、8月末の1ドル=145円台から9月末には1ドル=150円手前まで、じわじわと円安が進行しました。政府・日銀の為替介入による円高を警戒しながらも、市場筋は円売りドル買いを進めました。
その恩恵を受けているのは自動車関連株です。SUBARU<7270>は、20日に年初来高値3115円を付けました。トヨタ自動車<7203>と本田技研工業<7267>は、同じ20日に、分割修正後の上場来高値を更新しています。
コロナ禍や半導体不足の影響が一巡し、自動車の挽回生産が進んでいます。また、アメリカではGMなどの自動車メーカーが労組と労使交渉で対立しており、その分、日本の自動車メーカーに恩恵が向かう、との見方も株価を押し上げています。
また、グループ内の資本効率向上策による期待も株価を押し上げました。
トヨタ系の変速機大手のアイシン<7259>は、2026年3月期までの中期経営計画を発表。特に市場の関心を集めたのは、グループ間の持ち合いなど政策保有株式を1000億円以上売却し、「ゼロ」を目指すとしたバランスシート改革です。資産効率の向上による成長投資や株主への還元が見込まれます。
また、巨大なアルミ部品を一体成形し、自動車精算の工程を大幅に短縮できる「ギガキャスト」と呼ばれる技術に注力するとしています。株価はこれらを評価した買いを受けて、20日に年初来高値5981円を付けました。
阪神のARE、ラグビーW杯で盛り上がるあの株
プロ野球の阪神タイガースは、14日の試合で読売ジャイアンツに勝利し、18年ぶりのセ・リーグ優勝を果たしました。20日には、オリックス・バファローズがパ・リーグ3連覇を達成し、関西経済は賑わいを見せています。株式市場でも関連株に資金が向かいました。
阪神百貨店・阪急百貨店の持ち株会社であるエイチ・ツー・オー リテイリング<8242>は、優勝セール効果などへの期待で、優勝が濃厚となった8月中旬からさらに買われる展開に。ただ、優勝決定の14日に年初来高値1961円を付けたのちは典型的な材料出尽くしの動きとなり、翌日から売られました。
関西圏中心に家電量販店を展開する上新電機<8173>は、阪神タイガースのオフィシャルスポンサー。同じく8月から株価も盛り上がりを見せ、やはり同じく9月14日に年初来高値2520円を付けてからは反落の動きとなりました。
8日には、ラグビーワールドカップ・フランス大会が開幕。日本代表の勝利もあり、関連株も盛り上がりを見せています。
「スーパードライ」などのアサヒグループホールディングス<2502>は、15日に年初来高値5973円を付けました。スーパードライは2023年大会のオフィシャルビールで、アジアの企業として初めてワールドワイド・パートナーとして参画しました。
スタジオジブリで急騰した日テレ
22日に急騰したのが、日本テレビホールディングス<9404>。年初来高値1675円を付け、終値では14%高と、突如として商いを伴って買われました。
子会社の日本テレビ放送網が、アニメのスタジオジブリを子会社化すると発表し、関心が集まったためです。宮崎駿監督作品などの評価は海外でも高く、日テレグループとしても海外展開への期待が高まったようです。
中間配当の権利取りで高配当銘柄に関心
9月は3月期決算企業の配当権利にからむ株式の需給に市場の関心が集まる月です。今年は27日が配当の権利がつく「権利付きの最終日」、28日が「権利落ち日」というスケジュールでした。
通信キャリア大手のソフトバンク<9434>は安定収入の高配当株として評価されており、直近の予想配当利回りは約5%です。7月以降から緩やかな上昇を続け、27日に上場来高値1778円を付けました。
日本電信電話(NTT)<9432>も同様に27日、年初来高値(分割修正後)を付けています。さらに、KDDI<>は20日に上場来高値4767円を付けるなど、いずれも安定成長の大型・高配当株として評価されました。
中国の景気不安で売られた銘柄たち
中国の景気への不安が再燃し、上海総合指数などの株価指数は冴えない展開が続いています。
産業用ロボットや工場自動化(FA) 関連大手のファナック<6954>は、28日に年初来安値3838円を付けました。
同じく28日には、化粧品の資生堂<4911>も年初来安値に沈んでいます。同社の売上高の約2割は中国事業が占めています。また、原発の処理水放出を巡る問題を受けて、中国のSNSなどで日本の化粧品の不買運動が呼びかけられたことも尾を引いています。
年末に向け流れの変化に注目
9月に新高値・新安値を付けた銘柄を紹介しました。
日経平均株価が調整ムードとなる中で、買われた銘柄・売られた銘柄のパフォーマンスの差も出てきています。10月に入り、年末に向けてこれらの流れがどう変わるのか、引き続き注視していきましょう。