時価総額がトヨタの4倍。日本株にも影響するテスラの本当の凄さとは

鳳ナオミ
2021年3月2日 8時00分

日本株にも影響を及ぼすテスラとは?

テスラ<TSLA>という会社をご存じでしょうか? 日本ではまだ一般にはなじみがないかもしれませんが、株式投資をしている人であれば、もちろん聞いたことがあるでしょう。アメリカ……というよりも世界で最も有名な電気自動車メーカーです。

ただ、日本の株式市場に上場しているわけではありませんし、日本国内でテスラの電気自動車が走っているところもほとんど見かけませんので、自分にはあまり関係ないと思っているかもしれません。しかし、この会社は、アメリカのみならず世界の株式市場で無視できない存在となっており、日本株投資だけをしている場合でも、横目でウォッチしておくことが大変重要になっているのです。

テスラとは?

まず、簡単にテスラの紹介をしましょう。

電気自動車専業の自動車メーカーであるテスラは、世界における販売台数が2020年で50万台弱と、世界トップの自動車メーカーであるトヨタ自動車<7203>の販売台数(約900万台)の18分の1、売上規模では約10分の1の規模の会社です。

台数だけで言えば、スバル<7270>や三菱自動車工業<7211>の国内生産台数にも及びません。しかし、2016年の販売台数がほんの8万台弱だったことを考えると、4年で5倍以上に伸びている会社であり、とてつもなく急成長していることがわかります。

しかしながら、急激に変化している会社だけに、現在の販売の規模や水準だけでは評価が難い会社ともいえます。

現状のテスラの大きな2つの特徴

現在のテスラの特徴といえば、以下の2点を挙げることができます。

  • 電気自動車の専業世界トップ
  • D2Cの販売手法

規模や台数はまだ大きくはないものの、電気自動車専業というポジショニングでは他を寄せ付けず、電動車(EV+PHEV)の世界市場シェアでは約17%(2019年)とトップ。直近では2割を超えており、生産能力はすでに100万台超と、そのシェアはさらに拡大していると見込まれています。アメリカ市場だけを見れば、電気自動車の80%はテスラとなっています。

また、既存の流通網を利用せず、D2C(ダイレクト to コンシューマー)、つまり消費者に対して直接販売する方式を採用しているため、在庫を抱えないビジネスモデルとなっているのも大きな特徴です。

通常、様々な顧客の要求にこたえるために、メーカーなり販売店なりは相当程度の在庫を抱える必要がある一方で、在庫を抱えないテスラは、余計な在庫リスク及びコストを持たないのです。これは、低コストオペレーション事業戦略として、ファッションなどいくつかの業界で実践されているビジネスモデルですが、これを自動車業界で実現しているのがテスラです。

本来、既存の自動車の販売体制をもって販売するならば、もっと高価な車になっていたはずです。言い換えれば、トヨタやホンダなど既存の自動車メーカーも電動化を進めていますが、テスラと同様な車を作っても、価格競争の点ではまったく刃が立たない可能性が高いということにもなります。

なぜ、株式市場で無視できない存在なのか?

そんなテスラは、世界の株式市場におけるポジショニングがとてつもなく大きくなっています。

企業価値を表す時価総額の世界ランキングを見ると、世界市場の主役企業がわかります。2021年1月22日時点の1位はアップル(23,030億ドル)、2位はサウジアラムコ(20,400億ドル)、3位はマイクロソフト(17,010億ドル)、4位はアマゾン・ドット・コム(16,590億ドル)、そして5位がグーグル擁するアルファベット(12,770億ドル)。GAFAといわれる誰もが知っている有名企業が並びます。

知っての通り、GAFAは世界のIT産業をリードしている企業であり、その関連する企業も含め、世界経済を牽引しているという点は異を唱えることのできない事実です。そしてテスラの時価総額は、これらの企業に肉薄する7位(8,010億ドル)に位置しており、これを見る限り、通常の会社ではないことがわかります。

〈参考記事〉改めて考える時価総額 その意味と銘柄選びにうまく活用する方法とは

時価総額は発行済み株式総数に株価をかけて算出されるため、時価総額が伸びているということは当然、テスラの株価は上昇しています。2020年の初めに85ドルほどだった株価は、コロナ禍で大きく上昇し、2021年2月には一時900ドルを突破しました。

ちなみに、日本企業の時価総額首位は世界の自動車産業トップのトヨタですが、世界のランキングでは47位(2,087億ドル)に留まっています。売上も販売台数もトヨタの10数分の1のテスラが、トヨタの約4倍の時価総額をもつ会社となっていることを考えると、衝撃的なポジショニングといえるでしょう。

テスラは時代変化の象徴かもしれない

株式投資をする上で基本的な情報である企業業績にも触れておきましょう。テスラは、2019年第3四半期に初めて営業黒字になるまで、赤字企業でした。また、現在も黒字とは言え、とても世界時価総額7位の会社の利益水準とはいえません。

こうしたことから、世界の証券アナリストの株価評価が分かれる会社となっています。割高であり、適正株価は現在の価格よりもずっと下とか、あるいは、将来的な成長を見越した上昇であるとか。ただ、株式市場の歴史を振り返ると、今見えている情報だけをベースに根拠ある分析をしてしまうと、株価分析が間違ってしまうことがしばしば起こるのも確かです。

事実は、世界7位の時価総額になるまで株価が上昇していること。

とは言え、テンバガー(株価が10倍になった銘柄)など株式市場にはいくらでもあります。特別な技術を開発したベンチャー企業や、利益が数十倍にもなった会社などでは、普通にあり得る展開です。いつの時代も、ある局面でそうした会社が現れ、市場の注目を一身に集めるのもまた株式市場の特徴ですし、事前にそうした会社を発掘することも株式投資の大きな醍醐味です。

しかし、短期間で世界7位にまで株価が上昇するのは、稀な事象と言えます。

イノベーションやライフスタイルの大変化など、時代が大きく変化に向けて動きだしたとき、株式市場でいち早く変化が起こるのはよくあることで、また、そうした時代変化の姿を映し出すのが株式市場だったりもします。要するに、テスラの動きは次なる変化の表れかもしれない、ということです。

現在のテスラの株価(と時価総額)は、すでに単なる電気自動車メーカーとしての評価ではなく、時代の変化を映した新しい会社の立ち上がりに対する評価となっているのかもしれません。

過去を振り返ると、株式市場のこうした動きは10年から20年の期間で起こっている現象です。これは世界のみならず、日本市場でも当然起こりうる現象なので、それが、日本株だけやっている場合でも、テスラの動きに注目をしておいたほうがいい理由です。

テスラは、日本株投資を行う上でも、様々なヒントを与えてくれる格好の教材かもしれません。

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[執筆者]鳳ナオミ
鳳ナオミ
[おおとり・なおみ]大手金融機関で証券アナリストとして10年以上にわたって企業・産業調査に従事した後、金融工学、リスクモデルを活用する絶対収益追求型運用(プロップ運用)へ。リサーチをベースとしたボトムアップと政治・経済、海外情勢等のマクロをとらえたトップダウンアプローチ運用を併用・駆使し、年平均収益率15%のリターンを達成する。その後、投資専門会社に移り、オルタナティブ投資、ファンド組成・運用業務を経験、数多くの企業再生に取り組むなど豊富な実績を持つ。テレビやラジオにコメンテーターとして出演するほか、雑誌への寄稿等も数多い。現在は独立し、個人投資家として運用するかたわら、セミナーや執筆など幅広い活動を行う。また、日本初のデジタルマネー格付け及びインデックスを提供する「JDRpro.」の開発運用責任者も務める。
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