良い企業よりも魅力的な企業。成長だけに注目すると間違う理由とは

朋川雅紀
2025年12月18日 15時00分

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成長だけに注目すると間違う理由

いったい、何が投資のリターンを決めるのでしょうか?

企業の価値は、経済的な利益と、その成長率に対する「マーケットの期待値」の関数であるはずです。この基本的な考え方に従えば、成長だけに注目するとなぜ間違った結論を導くことになるか、を説明できます。

成長は、望ましい時(企業が資本コストを超過する利益を上げている時)もあれば、望ましくない時(企業の利益が資本コストを下回っている時)もあり、さらに、どちらとも言えない時(利益が資本コストとほぼ同等である時)もあります。資本コストとは、会社の資金調達に伴うコストのことです。

企業の成長の成果を判断する前に、適切な利益を上げているかどうかを把握しておかなくてはなりません。企業は、倒産に向かって成長することさえあります。また、低成長の事業が継続的に高い収益性を維持することもあります。収益性を無視して成長を検討することは、失敗の始まりとなるのです。

そして、企業の収益性を理解するには、その企業の「競争戦略」を把握しなくてはなりません。戦略の分析とは、次の3つの基本的な論点に取り組むことです。

  • 企業は資本コストを超える投資収益を生み出しているか、あるいは、将来に魅力的な利益をもたらすと信じるに足る理由はあるか。
  • 利益が資本コストを超えるならば、その超過リターンをどの程度の期間にわたって維持できるのか。
  • いったん企業の利益が資本コストを下回った場合、利益が期待を超える水準まで回復する可能性はどの程度か。

資本コストへの回帰とは

十分に実証されているマクロ経済理論の一つに、「企業の投資収益は、一定の期間が経過すれば資本コストの水準に回帰する」というものがあります。この理論は直感的でわかりやすいと言えます。

高い収益を上げる企業は、競争と資本を誘引し、やがて利益水準は機会コストの水準にまで低下します。同じ理由から、資本は、倒産、投資の引き上げ、統合・整理などにより、利益が上がっていない業界から逃避し、やがて利益水準は資本コスト水準にまで上昇します。

資本コストへの回帰はよく見られる現象ですが、一方で、それほど多くはないものの、継続的に利益を上げ続けている企業も存在します。一定数の企業の利益が長期間にわたり資本コストを上回っているということです。

持続的な高い利益は、巨額の富の源泉になります。利益率と成長率が同じである2つの企業があった場合、資本コストを超過する利益を長期にわたって達成し続ける企業の方が、価値が高く、高い株価で取引されます。つまり、株価のバリュエーションが高くなります。

高い利益を上げている企業の戦略を分析するにあたっては、超過リターンをもたらしている要因、つまり、顧客に支持されている理由や製品の優位性などを明らかにし、そうした優位性がどの程度続くのかを検討する必要があります。企業の戦略的な強みと、それがもたらす経済的な利益は、成長という要素だけにとらわれていると見落としてしまう恐れがあります。

投資家の期待

株価は“期待”を反映します。そして、長期にわたる超過リターンを生み出す企業を見つけるカギは、期待の変化を的確に予想することです。

ここで重要なのは、良い企業(大きな利益を生む企業)か悪い企業(小さな利益しか生まない企業)かではなく、「魅力的か、魅力的でないか」という選択基準です。従って、投資家は、期待というものに照らしながら、全ての企業の株価を評価する必要があります。

この考えのもとで、あるタイプに属する企業は注目に値します。それは、評価の低い企業です。

この分析は、特にバリュー投資家にとって重要です。バリュー投資家は、利益率が改善することを期待して、統計的に割安になっている銘柄を購入します。このスタイルの投資家が陥りやすい罠は、ろくに利益を生み出していないから株価が安くなっている企業を選んでしまうことです。

しかしながら、一時的に業績が落ち込んだために株価が割安になっている企業を選ぶことができれば、マーケットがその企業のターンアラウンド(業績回復)を予期していないとすれば、潜在的に大変魅力的な投資になります。

ある調査によると、評価の低い企業がその後どうなったかを調べたところ、持続的な回復を実現できたのは、対象企業のうち30%ほどに留まりました。

資本コストへの回帰とターンアラウンドのデータからは、多くの割安株は理由があって安いのであって、ほとんど利益を上げていない企業の業績が回復し、将来長期にわたって資本コストを上回る利益をもたらすようになる可能性は低いことがわかります。

高い利益率を維持している企業が現存し、だがマーケットがその持続性を正しく評価できていない、という事実は、企業の競争力の仕組みを的確に把握し、十分な投資期間を充てることができる投資家だけが超過リターンを獲得するチャンスがある……ということを示唆しているのです。

[執筆者]朋川雅紀
朋川雅紀
[ともかわ・まさき]大手信託銀行やグローバル展開するアメリカ系資産運用会社等で、30年以上にわたり資産運用業務に従事。株式ファンドマネージャーとして、年金基金や投資信託の運用にあたる。その経験を生かし、株価サイクル分析と業種・銘柄分析を融合させた独自の投資スタイルを確立。現在は投資信託のファンドマネージャーを務めるかたわら、個人投資家の教育・育成にも精力的に取り組んでいる。ニューヨーク駐在経験があり、特にアメリカ株式投資に強み。慶応義塾大学経済学部卒業。海外MBAのほか、国際的な投資プロフェッショナル資格であるCFA協会認定証券アナリストを取得。著書に『みんなが勝てる株式投資』(パンローリング)がある。
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