DX銘柄は本当に儲かるの? 政府も強力プッシュの国策テーマ株の実力
いま最強の国策テーマ!
新型コロナウイルスの感染拡大によって企業のデジタル化・DXが前倒しで加速し、伝統産業や岩盤市場にも変革が起きようとしています。
常に変化を好む株式相場では、2020年3月のコロナショック後からテレワーク関連やクラウド(SaaS)関連、サイバーセキュリティ関連などDX関連銘柄が大きく買われ、テンバガー(10倍株)も多数現れました。
2021年9月には、日本のデジタル化推進の司令塔となるデジタル庁も発足し、新政権も本命の政策に掲げたことから、DXは今まさに「最強の国策テーマ株」として投資家の注目を集めているのです。
DXとは何か?
DXとはデジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)の略で、デジタル技術によって人々の生活やビジネスを変容することを意味します。2004年にスウェーデン・ウメオ大学のエリック・ストルターマン教授によって提唱した概念とされています。
ちなみに、経済産業省では以下のように定義しています。
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。
──「デジタルトランスフォーメーションを推進するための ガイドライン (DX 推進ガイドライン) Ver. 1.0」
AIやクラウド、5Gなどのデジタル技術の飛躍的な進化により、企業はこれまでの常識を変える商品やサービスを提供することが可能となりました。
DX成功例の代表格といえば、アメリカのアマゾン・ドット・コム<AMZN>です。
これまで実売店で買う対象だったモノをネット上で買えるようにし、経験豊富な販売員の持つ知見をデジタル化、リコメンド機能として活用するなど、革新的なサービスの提供を実現化しました。さらに、DXによって物流にも革命を起こし、過去5年で時価総額を6倍に大きく飛躍させたのです。
日本のDXと「2025年の崖」
日本でDXが最初に注目されたのは2018年9月。経済産業省が「DXレポート」を発表し、このなかで「2025年の崖」という言葉を用いて日本企業に警告を鳴らしました。
もしDXが進まなければ「2025年以降、最大で年間12兆円の経済損失が生じる可能性がある」と指摘し、DXへの取り組みの重要性を訴えるとともに、企業にDX化を促したのです。その一方で、DXが実現した場合には「2030年には実質GDPで130兆円超えの押上げ効果がある」とも試算しています。
調査会社のIDC Japanの予測では、2020年における世界のDX市場規模は、投資金額ベースで前年比+10%以上も拡大しており、1兆3000億ドルを超える見通しとなっています。
世界中のあらゆる産業でDXが加速するなか、アマゾンのような飛躍的な成長が期待される企業に、投資家はもちろん国からも期待が寄せられているのです。
経済産業省お墨付きのDX銘柄
株式市場で評価されるDX銘柄は、企業の体質や事業構造がデジタル化によって大きく「トランスフォーム(変革)すること」で企業価値(=時価総額)が飛躍する銘柄です。
ただ、ひとくちにDX銘柄と言っても、「クラウド(SaaS)」「AI」「サイバーセキュリティ」「キャッシュレス」「テレワーク」「オンライン教育」「遠隔医療」「オンライン診療」「電子認証」「デジタル通貨」……など、関連のテーマだけでも多岐にわたります。
さらに、コロナ禍を受けて日本企業にDXブームが到来し、どの企業も「わが社はDXに取り組んでいます!」と謳うなか、DXと言いつつ実際どれくらい効果的に行っているのか、ただのIT化ではないのか、本当に業績に貢献できるのか等々、「結局、どのDX銘柄がいいの?」とお悩みの方も多いでしょう。
そこで、ひとつの考え方として、経済産業省お墨付きのDX銘柄に注目してみましょう。
実は経済産業省では毎年、東京証券取引所に上場している企業の中から、デジタル技術を活用してビジネスモデルなどを抜本的に変革し、新たな成長・競争力強化につなげていく企業を「DX銘柄」として選定しています。もとは2015年に始まった「攻めのIT銘柄」で、2020年からDXの観点が追加されました。
通算7回目となる2021年には28社が選定され、このうちDXグランプリには、独自のIoT機関システム「Lumada(ルマーダ)」を活用した日立製作所<6501>と、不動産事業や人工知能(AI)などを手がけるSREホールディングス<2980>の2社が選ばれました(選定企業一覧はこちら)。
・日立製作所<6501>
総合電機・重電トップの日立製作所<6501>が2021年、ITベンダーとして初めてDXグランプリに選定されました。
独自のIoT基盤である「Lumada(ルマーダ)」を活用した新規ビジネス創出の実績や、グローバルでのDX加速に向けた戦略や基盤、体制を構築していること、ステークホルダーとの協創によるDXをビジネス展開していることなど、DXが企業全体の変革のエンジンとなっていることが評価されました。
7月には、米IT企業のグローバルロジックを1兆円で買収し、大きな話題となりました。この買収は、Lumadaを進化させてグローバル規模でのDX需要の取り込みを加速させることを期待するもの。
なお、2022年3月期の連結営業利益予想は前期比46%。第2四半期決算で半導体など部材不足の影響により下方修正を出したものの、コロナ禍からの収益性改善やITや環境関連事業などの中長期的な成長期待から、株価も右肩上がりの上昇となっています。
DX銘柄のパフォーマンスはどうなの?
ここで気になるのが、お墨付きDX銘柄のパフォーマンスです。
「DX銘柄2021」の過去5年の平均パフォーマンスをTOPIXと比較してみると、ほぼ同程度。さほどマーケットで高く評価されているとは言えないものの、業種別では上位に位置するものが多く、個別銘柄に目を向ければ日立製作所のように市場を大きく上回るものも出ています。
また、DXの効果は事業規模が大きいほどそのインパクトがあるため、選定の前提となるDX認定の申請企業は未申請企業よりも企業規模が大きいことや、DX銘柄に選定された企業はROEも高い傾向にあることは、優位性として挙げられそうです(DX調査2021などより)。
お家芸プラスDXの可能性に期待
DXの定義を改めて確認しましょう。DXのXは「X-formation」で「既存の価値観や枠組みを根底から覆すような革新的なイノベーションをもたらす」といった意味があります。
プラットフォームを米GAFAMに牛耳られていることから、日本ではIT系のDX企業はなかなか投資家の期待に応える結果を出せない、といわれます。
しかし、日本にはお家芸である製造業をはじめとして優れた技術力を持つ世界トップクラスの企業が多数あります。例えばキーエンス<6861>やトプコン<7732>がそうです。その価値を理解して活用すれば、DXによって変貌を遂げて企業価値が大きく飛躍する可能性があるのではないでしょうか。
デジタル後進国といわれる日本。でも、株式市場はいつでも変化を求めています。他の国に比べて遅れているということは、それだけ変化も大きくなるはず。国も激推しのDX銘柄、この先も注目です。