巣ごもり需要なのに……好業績でも関連銘柄が売られたワケ

石津大希
2021年2月22日 12時00分

《外出自粛による需要拡大で、追い風が吹いている電子コミック関連銘柄。しかし、期待とは裏腹に、「マンガワン」などの漫画アプリを事業の軸とするLink-Uの株価は2020年夏以降、不調が続いています。Link-Uの軟調な株価の原因とは? それをひもとくカギは「バリュエーション」にありそうです》

好業績なのに相場上昇の波に乗れない

新型コロナウイルスの感染拡大を背景に、株式市場ではマスクや消毒液、ウェブ会議ツール、コロナワクチンなど、多くの「投資テーマ」が生まれた。これらのテーマに関連する銘柄は、需要拡大への期待から物色買いが向かったため、株価が上昇することが多かった。

なかでも、外出自粛の影響で電子コミックの利用が増え、テーマ株投資の対象となった電子コミック関連銘柄は、2020年3月以降に株価が大きく上昇。

東証1部に上場するLink-U<4446>もそのひとつだ。同社はコンテンツ配信サービスを展開しており、なかでも漫画アプリが強い。そのため、株価は一時3,000円目前まで上昇する勢いを見せていたが、8月以降は一転してさえない動きを続け、12月終盤には1,100円台にまで下落した。

2020年11〜12月は、日本株が大きな盛り上がりを見せ、多くの銘柄の株価が上昇していた時期だ。そんな相場上昇の追い風がありながら、投資テーマを抱える同社の株価がなぜ下がり続けたのだろうか。謎を解くヒントは「バリュエーション」にある。

バリュエーションと期待値の関係

バリュエーションとは、簡単に説明すると「投資対象のリターンやリスクを踏まえた価値評価」ということだ。典型的な指標として「PER」「PBR」などが挙げられ、

「成長企業なのにPERが15倍とは、割安だ!」
「成熟企業なのにPERが25倍とは、割高だ!」

といったように語られることが多い。

PERの場合、一般的には14~15倍が東証1部の平均的な企業の目安とされている。つまり、上の「成長企業なのにPERが15倍とは、割安だ!」とは、「東証1部の平均的な企業よりも成長性が高く、今後リターンが伸びていくと思われる企業のPERが15倍とは、過小評価されている!」という意味になる。

日常的に使う言葉に言い換えるならば、「コスパ(コストパフォーマンス)」に近い意味合いだ。「いい物(高成長企業)にしては値段(株価)が安い」、こんなふうに中身と値段を見比べるといった分析の中で、バリュエーションはよく用いられる。

期待だけが高まり過ぎたLink-U

Link-Uの株価が2020年8月以降さえなかったのは、「いい物だと思ったことから高い値段が妥当と考えられていたが、期待したほどではなかったので、その結果として『妥当な値段』が下がり続けた」というふうに説明することが出来る。

Link-Uはコロナ禍において需要が拡大した電子コミックのサービスを手掛けている。それに伴って業績も拡大しており、業績が「堅調」なのは間違いない。当然、「コスパがいい(=割安に見える)うちは買い」と市場で需要が増え、株価は3,000円に迫る水準にまで上昇した。

そして、このときのPERは100倍を超えていた。東証1部の平均的な企業の目安が14~15倍ということを踏まえると、いかに高い数値かわかるだろう。だがその一方で、「業績の伸びが期待していたほどではない」という見方が次第に広まっていった。

具体的には、売上高は2020年7月期の実績で前期比23.3%増と、コロナによる自粛期間という良好な事業環境を踏まえると、やや物足りない印象だ。また、売上高の水準が10億円強と低水準にとどまっているのも、業界内での「プレゼンスの低さ」「競争における劣勢」を匂わせた。

さらに、次の第1四半期(2021年7月期)の売上高は会社予想を下振れて着地。そのほか、シェア獲得に向けた多額の広告宣伝費が利益を圧迫していることも、懸念につながったと考えられる。

確かに、同社の足元の業績の伸びは堅調だ。しかし、重要なのはバリュエーションのバランス(コスパ)であり、「PER100倍が妥当といえるほどいい銘柄か?」という視点では、業績成長のペースが期待に追い付いておらず、結果として売りが多く出た状況だといえる。

バリュエーションはあくまでひとつの「尺度」

Link-Uのケースのように、バリュエーションの「業績における実績と期待のミスマッチ」は、その後の株価の動きに影響を与える。しかし、それはあくまで要因のひとつに過ぎないことも覚えておきたい。

株式市場では短期の投資家、長期の投資家、テクニカル目線の投資家、ファンダメンタルズ目線の投資家、スキルの高い投資家、そうでない投資家……など、多くのプレーヤーがごった返して日々売買している。そうした中で、ひとつの考え方、ひとつの指標が、市場でいつでも通用するはずがないからだ。

バリュエーションに絡んだ動きが常に起こるとは限らず、銘柄や状況によっては他の要因が大きく影響するケースも少なくない。

バリュエーションはあくまで要因のひとつに過ぎないと頭に入れたうえで、常に銘柄や相場の動きを観察しながら、「何が株価を動かしているのか」を分析する。その姿勢を身に付けることが、上達の近道かもしれない。

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[執筆者]石津大希
石津大希
[いしづ・だいき]外資系投資顧問会社で株式アナリストとして勤務したのち独立。ファンダメンタルズ分析の経験を生かして、客観的データや事実に基づく内容を積極的に発信。市場で注目度の高いトピックを取り上げ、深く、そして、わかりやすく説明することを心がける。
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