テクニカル分析を再考する。相場を予測することは本当に可能なのか?
《テクニカル分析で勝ち続けるには、結局のところ何が必要なのか? 20年以上にわたって値動きと向き合い続けるテクニカルアナリストが、その本質について考え直す【テクニカル分析・再考】》
ファンダメンタルズ分析とテクニカル分析の違い
相場の値動きを予想するやり方には、ファンダメンタルズ分析とテクニカル分析があります。
ファンダメンタルズ分析で扱う情報は、個別銘柄なら、個々の企業の財務状況や企業理念、経営計画など価値判断の基礎になるもの、株式市場全体なら、景気の動向を示す経済指標やその年の財政・金融政策などです。
株価の上昇・下降の根っこにあるのは、個別銘柄なら「企業が増益すれば、株価が上昇する」、市場全体なら「市場全体へ入る資金の量が増えれば、指標となる指数が上昇する」ということです。ファンダメンタルズ分析とは、こうした値動きの“芯”を見極めるための予測です。
わかりやすい例を挙げるなら、法人税の減税は、個別銘柄の株価と市場全体(指標となる指数)のどちらにとっても上昇要因になります。個別銘柄の場合、値動きの根底にあるのは「企業の利益が増加する見込みがあれば、株価が上昇する」ということだけなので、単純に法人税が減れば、企業が何もしなくても減税分だけ翌年度の利益の積み上げを期待できるため、株価上昇への期待につながります。そして、多くの優良企業の株価が上昇すれば、市場全体の指標となる指数も上昇します。
これに対してテクニカル分析では、値動きだけを見て、その先の価格が上がるのか、下がるのかを判断します。ファンダメンタルズ分析は価格変化の核心部の分析ですが、テクニカル分析の場合、その根拠は「信じる」ということだけです。確率を信じるか、値動きに意味を見つけてその見方を信じるか、このどちらかです。
テクニカル分析は曖昧にも核心にもなる
テクニカル分析の追求は、「何かあなたを信じられる根拠を教えてちょうだい」と値動きに問い続ける作業です。最初のうちは誰もが確率に向かいますが、追求してゆくと、確率だけでは利益を得られないことに気づかされます。
『アカギ』(作・福本伸行/竹書房)という麻雀の漫画があります。アニメ化もされているのですが、そのアニメの第2話で、こんな解説が登場します。
「賭けているものがない時、勝負を制するのはセンスと集中力」
「賭けたものがある場合、それらの能力だけでは絶対に勝てない」
「いくら相手の手の内が読めても、その読みを自分が信じられなければ無意味」
漫画・アニメだからと言って、軽んじてはいけません。まさにこれが、テクニカル分析で勝つための本質なのです。心の底から信じられるものがなければ、どこかでつまずき、立ち上がれなくなります。
移動平均線を信じる根拠
よく知られているテクニカル指標に「移動平均線」というものがあります。
単純移動平均線は、一定期間の終値の平均値を結んだ線です。ある日の終値が移動平均線よりも上にあれば、その計算期間内では買い側で利益を得ている人が多いと考えられるため、その後も価格が上昇する可能性がある、という推測につながります。
ただし、この推測にはほとんど根拠がないので、信じるための理由を積み上げてゆきます。移動平均線を上抜いてから何日間、終値が移動平均線以上で推移しているか、あるいは、移動平均線を上抜いた後どの程度の値幅上昇があるのかなど、できるだけ長い期間で調べてゆきます。
しかし、所詮は調べた期間内での事象に過ぎないので、その結果がこの先も継続するかどうかはわかりません。そこで、実際に自分で仕掛けて検証してみることになります。
たとえば、ある銘柄の値動きについて調べたところ、終値が移動平均線を上抜いた後、60%程度の確率で5営業日以上その状態を維持し、価格は100円以上の上昇で推移した、という結果が出たとします。
【終値が移動平均線を上抜いた後…】
- 60%程度の確率で、5営業日以上、終値が移動平均線より上にある
- 価格は100円以上の上昇をキープ
これを検証するために、10日間、この銘柄で取引を行います。結果は、次のようになりました(〇=勝ち/×=負け)。
× × 〇 〇 〇 × × 〇 〇 〇
6勝4敗で、確かに調べた確率どおりです。ただ、7日目(4度目の負け)の時点では3勝4敗となっており、想定していた確率とはかなり違っています。
この時点で利益が出ていれば、もう少し継続しようと考えるかもしれませんが、もしも4度の負けのうち大損になる取引が1回でもあって全体でも損になっていたら、このまま取引を継続できるでしょうか。たいていの場合、不安になって取引を中止するか、8日目以降に損失分をカバーできた時点でやめてしまうのではないでしょうか。
つまり、「60%程度の確率で、5営業日以上、終値が移動平均線より上にある」という調査結果を信じられる地点(ここで言えば10日目)にたどり着く前に、信じることを諦めてしまうわけです。
その一方で、同じ6勝4敗でも、次のような結果になった場合はどうでしょう。
〇 〇 〇 × × 〇 〇 〇 × ×
途中(4・5日目)で大きな損が出たとしても、それまでに得た利益が損失以上に大きければ、自分の発見が利益になることを自ら証明しているような気分になり、さらに強く信じられるようになるのではないでしょうか。
最初に調べた確率も、検証のための取引結果も、たまたまそうなっただけに過ぎません。しかし、検証を開始する地点が違うだけで、自分の中での価値は大きく異なってしまいます。ある人にとっては曖昧で頼りない情報で終わり、別のある人にとっては売買を支える確信になります。
一方は、この結果を簡単に言いふらすでしょうが、もう一方は、絶対に他言などするはずがありません。
信じていても利益につながるわけではない
この2つの結果について、強く信じた側が利益を得られるのかといえば、そうではありません。過去のデータから得られる確率は、どこまでいっても確率でしかありません。長く取引を継続していれば、確率と異なる場面や大幅な損失が積み重なる場面があらわれて、いずれ信頼は薄れてゆきます。
「相場を予測する」と聞くと、なんとなく可能なようにも感じられますが、我々がテクニカル分析でやろうとしていることは「未来予知」なのです。絶対にそうなるという未来がわからなければ、継続して勝ち続けることなどできません。どれほど困難な挑戦なのか、テクニカル分析は決して容易な道ではないと、わかってもらえるのではないでしょうか。
だからと言って、「値動きを調べるだけで未来を予測することなどできない」と結論づけてしまうわけでもありません。人の世の中には、必ずわかる未来があります。それは、人が何か目的をもって積極的に行動しているとき、その人がどう動くか、ということです。
ただし、自分以外の他人のことは、親しい間柄でなければ性格もわかりませんし、目的を持って行動していても、いい加減な人もいれば長続きしない人もいます。そういう人は、想定しているような未来には行き着かないでしょう。
未来を確実に予測するなら、弱みにつけ込むことが重要です。人あるいは企業、社会の弱みを見つけて、その人・企業が「そうせざる得ない状況」を探すことができれば、そこには「必ずわかる未来」が隠されています。
値動きの話から遠くなってきたように思えるかもしれませんが、このことが値動きを予知するヒントになります。次回は、値動きを予知するための考え方について紹介します。