水素、インバウンド、カジノ…続々と高値更新する銘柄と、その裏で安値更新のアノ銘柄たち【今月の高値更新】
《株価の新高値は、銘柄にとっての「自己ベスト」。その記録を新たに更新することは、“伸びしろ”の表れかもしれません。直近で高値更新を果たした銘柄から、いまの相場の流れを読み解きます》
決算発表シーズンの中、日本株相場は底堅さをみせています。日経平均株価は4月28日に28,856円を付け、終値ベースで年初来高値を更新しました。
しかし、指数だけを見ても全体の相場の流れをつかむことはできません。日経平均株価の採用銘柄は225ですが、東証の上場銘柄数はプライム市場だけでも1800余り、全体では約3900銘柄もあります。それら個別銘柄の中には、相場の地合いや個別の材料で日々高値を更新しているものも多くあります。
・「高値」とは?
相場解説などで頻繁に使われる「高値更新」とは、読んで字のごとく、ある期間内の高値を更新したという意味です。ここに「昨年来」「年初来」「上場来」など期間を表す言葉が添えられて、「年初来高値を更新」などと言われます。また、新たについた高値を「新高値」と呼びます。
【株価の高値更新】
- 上場来高値……株式市場に上場して以来の高値。買い方の強い物色が株価に現れているといえる
- 昨年来高値……1〜3月に使われ、前年の1月1日から直近までの期間が対象
- 年初来高値……4月以降に使われ、その年の1月1日から直近までの期間が対象
4月に高値を更新した銘柄を振り返りながら、その背景を読み取っていきます。
水素関連株に関心高まる
まずは水素関連銘柄です。水素は、二酸化炭素を排出しないクリーンなエネルギーとして、次世代での活用が期待されています。
4月初頭、政策による支援強化が報じられ、水素関連銘柄に関心が向かいました。4月3日の読売新聞オンラインは、政府が2040年の水素供給量の目標を、現在の約6倍となる「年1200万トン程度」に設定し、官民で今後15兆円を投資する計画を策定する、と報じています。
水素関連銘柄で主力とされている岩谷産業<8088>は、4月19日に年初来高値6580円を付けました。
「イワタニのカセットコンロ」で有名な岩谷産業は、カセットコンロ、ガス機器などで国内首位の企業。古くから水素の販売も行っており、液化水素・ヘリウムなど含めた特殊ガスの取り扱いではいずれも国内トップです。
高圧ガス設備メーカーの加地テック<6391>は、水素ステーションで使われる圧縮機(コンプレッサー)を製造しています。こちらも、報道のあった翌日に4660円の高値をつけ、年初来高値を更新しています。
鉄道株が相次ぎ年初来高値
インバウンド関連株も軒並み新高値を更新しています。
新型コロナの感染症法上の分類がゴールデンウィーク明けにインフルエンザと同等に引き下げられ、海外からの入国者に対する水際対策も緩和されています。JR6社が発表したゴールデンウィーク期間中の新幹線と在来線の予約状況は、前年比で1.7倍と大きく伸び、コロナ前の9割まで回復しています。
東海旅客鉄道(JR東海)<9022>は4月25日に年初来高値16910円を付け、株価は戻り歩調が続いています。
同日には、東日本<9020>、西日本<9021>、九州<9142>のJR各社および、小田急電鉄<9007>、東急<9005>なども相次いで年初来高値を更新しています。
鉄道各社は新型コロナからの回復で旅行需要が戻りを見せる一方、テレワークの普及で定期券収入が落ち込んでいます。こうした中、各社は、駅ナカの立地を活かした流通・サービス収入やホテルなどの非鉄道の収入増に力を入れており、今後の業績回復が期待されています。
盛り上がるカジノ関連株
4月14日、大阪府などが推進するカジノを含む統合型リゾート(IR)について、政府が整備計画を認定すると発表。統一地方選挙でIR推進派の大阪維新の会が勝利したこともあり、市場の関心はカジノ関連株に向かいました。
早速この日、パチンコやパチスロ、カジノ向けゲーム機器のセガサミーホールディングス<6460>が年初来高値2673円を付けています。パチスロ機の製造やフィリピンでカジノリゾートを運営するユニバーサルエンタテインメント<6425>も、同日に年初来高値3235円を付けました。
また、日本金銭機械<6418>は前日13日に年初来高値を更新していました。硬貨や紙幣などの金銭処理機メーカーとして、思惑が向かったようです。
株主還元強化で買われる銘柄も
決算発表シーズンまっただ中、決算と同時に自社株買いや増配など株主還元策の強化を発表する企業も多く、個別の買い材料となっています。
東京証券取引所は3月末に、PBR(株価純資産倍率)が1倍を割れている企業に対しては改善に向けた方針や具体的な取り組みなどの開示を継続的に求めていくべき、という方針を表明。こうした動きが、PBR1倍割れの企業のみならず、日本企業全体への株主還元の強化への期待につながっています。
電動工具の世界大手であるマキタ<6586>は、4月27日に今期(2024年3月期)の連結純利益について前期比2.4倍の333億円になりそうだと発表。さらに、100億円を上限とする自社株買いも発表しました。これを受けて翌28日に急騰し、3860円の高値を付けて年初来高値を更新しました。
オイルシールなど自動車部品のNOK<7240>は4月19日に株主還元強化を発表し、翌20日に年初来高値を更新しています。NOKは、2026年3月期までの3年間に合計で675億円の株主還元を行うとしました。増配や自社株買いの指針なども公表し、市場で好意的に受け止められて大幅高となりました。
逆風の巣ごもり銘柄は安値更新
4月の相場上昇の中で新安値を更新した銘柄も確認しておきましょう。新型コロナで業績が伸びたEC(電子商取引)やオンライン会議などの「巣ごもり銘柄」が新安値を更新しています。
アパレルECサイトのZOZO<3092>は4月28日に2821円を付けて年初来安値を更新。インフレによる物流コスト増・人件費増のほか競争激化もあり、成長が鈍化しているとの見方で株価の推移は低調です。27日発表の今期業績見通しでは過去最高益としていますが、投資家の目線は懐疑的なようです。
広告費減であの銘柄も年初来安値
巣ごもり一巡や景気後退で企業のネット広告費も抑え気味になっており、ネット広告業界は成長鈍化が続いています。
成果報酬型アフィリエイト広告大手のバリューコマース<2491>は、4月27日に今期(2023年12月期)の業績見通しを下方修正し、翌28日に年初来安値を更新しました。金融分野などを中心にネット広告の出稿が落ち込んでいます。
企業のネット広告抑制の動きは動画配信業界にも及んでいます。
ユーチューバーのマネジメントを手がけるUUUM<3990>は4月18日に596円を付け、これが2017年8月以来の上場来安値となりました。企業の広告抑制に加えて、ショート動画SNS「TikTok」の台頭など、動画配信業界もユーザーの視聴時間の獲得競争が激化しています。
オンラインの動画配信やオンデマンド放送のJストリーム<4308>も、同じく4月28日に年初来安値533円を付けました。
コロナ禍が後退し、テレワークの普及や動画配信の需要が一巡しています。また、コロナ禍では、製薬企業による講演会などの利用が伸びて、業績貢献していましたが、足元では企業がコスト削減に動いていることも逆風となっています。
同じ日には、アメリカのオンラインミーティングツールのズーム・ビデオ・コミュニケーションズ<ZM>