決算発表で買われた株・売られた株 大幅増益で上場来高値も続出【今月の高値更新】

佐々木達也
2023年11月9日 17時00分

株価の新高値は、銘柄にとっての「自己ベスト」。その記録を新たに更新することは、“伸びしろ”の表れかもしれません。直近で高値更新を果たした銘柄から、いまの相場の流れを読み解きます》

10月の日本株は下値を試す展開となりました。

具体的には、アメリカの長期金利上昇を受けたグロース株を中心とした売りが続きました。また、パレスチナの武装組織ハマスがイスラエルに対して大規模な攻撃に出たことを受け、中東情勢の不透明感が株式マーケットにも広がりました。

日経平均株価は30000円に近づく場面もありましたが、下値では押し目買いも入り、とりあえず大台はキープしています。10月の日経平均株価は前月末に比べて998円安、4か月連続で下落となりました。

こうした中で、高値を更新して相場の牽引役となっているのは、どのような銘柄でしょうか? 新高値・新安値の銘柄を取り上げながら、それぞれの共通点に着目し、10月相場で特徴的だった銘柄をひもといていきたいと思います。

・「高値更新」とは?

相場解説などで頻繁に使われる「高値更新」とは、読んで字のごとく、ある期間内の高値を更新したという意味です。ここに「昨年来」「年初来」「上場来」など期間を表す言葉が添えられて、「年初来高値を更新」などと言われます。また、新たに付いた高値を「新高値」と呼びます。

【株価の高値更新】
  • 上場来高値……株式市場に上場して以来の高値。買い方の強い物色が株価に現れているといえる
  • 昨年来高値……1〜3月に使われ、前年の1月1日から直近までの期間が対象
  • 年初来高値……4月以降に使われ、その年の1月1日から直近までの期間が対象

決算発表で買われた株・売られた株

10月の中旬は、外食小売といった内需系企業が6~8月期の決算を発表し、銘柄によって明暗が分かれました。

上場来高値が続出の外食

イタリアンレストランチェーンのサイゼリヤ<7581>は11日に、今期(2024年8月期)の連結営業利益が前期比81%増(131億円)という大幅増益となる見通しを発表しました。

インフレに対応した値上げで、特に海外で客単価が上昇し、客数も伸びています。上海や広州などの中国を中心としたアジア圏での好調が今期も続くとの見通しが好感されて、株価はその後も上昇、30日に6140円の上場来高値を付けています。

牛丼チェーンの吉野家ホールディングス<9861>も同じく11日に、今期(2024年2月期)の業績予想を上方修正しています。連結営業利益は前期比約2倍の68億円と予想。

客数獲得のための親子丼や野菜サラダうどんなどの季節商品の販売、「はなまるうどん」では天ぷら定期券などの強みを活かしたキャンペーンで、足元で客数が伸びています。海外ではインドネシアでの出店を再開する予定です。

販売施策に加えてコストコントロールにより、下半期の業績も堅調に推移するとの見通しが投資家の買いを集め、31日に上場来高値3522円を付けました。

明暗分かれた小売大手

インバウンド(訪日外国人効果)や景気回復で小売企業も好業績が目立ちました。

総合スーパーのイオン<8267>は11日に、3~8月の連結営業利益が前年同期比23%増の1176億円と過去最高になったと発表しました。株価はその後上昇が続き、31日に年初来高値3166円を付けています。

地域子会社の経営統合の効果などもあり、業績が低迷していた総合スーパー(GMS)事業は10期ぶりに営業黒字となりました。人流の回復でスーパーマーケット、ディスカウントストア事業などの好調が続きました。

一方で、苦戦が続いた企業の株価は低迷し、安値更新の動きとなっています。総合小売り大手のセブン&アイ・ホールディングス<3382>は12日に、3~8月の連結純利益が前年同期比41%減の802億円になったと発表。

ガソリン価格の上昇、インフレによる影響で苦戦が続くアメリカのコンビニ事業の影響が尾を引きました。株価は24日に年初来安値の5162円を付けています。

製造業には厳しい反応

10月下旬からは、7~9月期の決算発表シーズンとなりました。3月期決算企業にとっては中間期となり、今期の方向性や来期に少しずつ投資家の目線が移りつつある時期です。こうした中で、製造業の一角は、中国の景気不安などで業績が投資家の期待を下回り、売られる銘柄も散見されました。

たとえば、モーター大手のニデック(旧・日本電産)<6594>は10月31日に年初来安値5401円を更新しています。

23日に、4~9月の連結営業利益が前年同期比20%増の1157億円になったと発表。上半期としては営業増益でしたが、第2四半期(7~9月)でみると、成長領域として位置づけている車載事業が前期(4~6月)と比べて営業減益となるなど、業績にブレーキがかかりました。

同社の想定以上に中国での電気自動車(EV) 向け駆動用システムの「イーアクスル」を巡る競争の激化で、今期の販売計画も下方修正しています。決算説明会で永守重信会長は、車載事業について競争の激しい中国から欧米などへのシフトの方針を表明しています。

トラック大手の日野自動車<7205>は、27日に今期(2024年3月期)の業績予想を下方修正。ASEANなど海外市場の減速による販売台数の減少を予想しています。25日にはアメリカでのエンジン不具合による訴訟の和解で350億円の特別損失を計上すると発表したこともあり、株価は31日に425円の年初来安値を付けました。

他方で、超純水の製造装置メーカーの野村マイクロ・サイエンス<6254>は30日に上場来高値の7720円を付けました。24日に半導体製造用などで需要高地用な水処理装置などが伸びるとして、今期(2024年3月期)の業績予想を上方修正しました。

期待で買われた半導体

半導体関連は、足元の事業環境は苦戦しているものの、先行きの業績改善期待で買われています。

半導体の切断・研磨装置のディスコ<6146>は12日に上場来高値30670円をつけています。6日に発表した7~9月の出荷額の速報値が前年同期比で9%増となり、4~6月期に比べても17%増と好調だったことも買いにつながりました。

半導体のマスク検査装置の大手で個人・機関投資家ともに注目度の高いレーザーテック<6920>にも同様に買いが向かい、17日に年初来高値28030円を付けていました。

ディフェンシブに買われた株

内需・ディフェンシブ系企業で買われる銘柄も目立ちました。たばこのJT<2914>は31日、年初来高値を更新しました。たばこは景気の変動を受けにくいことに加えて、5%を超える予想配当利回りが、全体の下げ相場の中で資金の逃避先となった側面もありそうです。

山崎製パン<2212>も25日に、1~9月の連結営業利益が前年同期比74%増(278億円)と大幅増益になったことを受けて、31日に上場来高値3205円を付けています。

値上げや新製品の投入などの効果に加えて、低価格帯の食パンや菓子パンなども販売が伸びています。和菓子部門では串団子やホットケーキ、どら焼きなどが好調、洋菓子部門ではシュークリームやロールケーキなども伸びて売上高拡大につながりました。

金価格の上昇で上がった株

中東情勢の不透明感やインフレによる景気不安で投資家がリスクを回避するため、資金の一部が金(きん)に向かっています。金のニューヨーク先物(中心限月)は27日、一時、1トロイオンス2019.7ドルと約5か月ぶりの高値を付けました。

また、現物金価格に連動しやすい金ETF(上場投資信託)のSPDRゴールド・シェア<1326>は、投資口価格が30日に上場来高値の27855円を付けました。 同じく金ETFのNEXT FUNDS 金価格連動型上場投信<1328>も30日に上場来高値となっています。

このほか貴金属のリサイクルを手がける松田産業<7456>なども物色されて、30日に年初来高値を更新しました。

潮目を見逃すな

10月に新高値・新安値を付けた銘柄から、いくつかをピックアップして紹介しました。

日経平均株価が30000円を試す場面では、売られる銘柄には厳しい展開も続いた10月相場でした。ここから年末に向けては、こうした物色の方向性について変化の潮目を見極めたいところです。

[執筆者]佐々木達也
佐々木達也
[ささき・たつや]金融機関で債券畑を経験後、証券アナリストとして株式の調査に携わる。市場動向や株式を中心としたリサーチやレポート執筆などを業務としている。ファイナンシャルプランナー資格も取得し、現在はライターとしても活動中。株式個別銘柄、市況など個人向けのテーマを中心にわかりやすさを心がけた記事を執筆。
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