兜町がいま、「熊本」に沸いている 驚きの関連銘柄に古参たちの声も弾む

千葉 明
2024年4月3日 15時00分

《東京証券取引所が立つ日本橋・兜町。かつての活気は、もうない。だがそこは紛れもなく、日本の株式取引の中心地だった。兜町を見つめ続けた記者が綴る【兜町今昔ものがたり】》

兜町が沸く「熊本関連」「TSMC関連」

 物書き稼業の入り口を過ごしワクワクした日々を送った「兜町」を、久方ぶりに実感している。

 いま兜町の住人の間で、「熊本関連」「TSMC関連」と呼ばれる銘柄名が飛び交っている。TSMCは周知のとおり、台湾に拠点を置く世界最大の半導体受託製造企業。熊本県菊陽町で建設を進めていた第1工場の開所式が、今年2月24日に行われた。九州産業局の試算では、投資総額は約1兆2900億円。

 さらに、開所式前の9日の時点でTSMCは、「第2工場も熊本に建設する。今年末に建設を開始し、2027年末の運転開始を目指す」と発表した。投資総額は少なく見積もっても、第1工場の投資額を上回る規模とされる。日本政府も5000億円近くを補助する計画だとされている。

 兜町を久しぶりに歩いた。未だこの地に拠点を構える零細業者の間を訪ね回るためだ。彼らは文字通り、口を揃えた。

「いつ以来かな、我々でも理屈抜きに相場を張れるチャンスが来たのは」
「ところで、土産は持って来たのだろうな? 自分らが気づいていない熊本銘柄、TSMC銘柄だよ」

 その声色は、かつては毎日のように耳にしていた「相場が楽しくてたまらんよ」と言わんばかりに弾んでいた。彼らは、手ぶらで訪ねていったのでは、ろくに口もきいてくれない。私は、2銘柄を手土産にしていた。幸い、アッチでもコッチでもお茶を出してくれた。

兜町人が考える「関連銘柄」とは

 TSMCの第2工場も第1工場同様、デンソーやトヨタ自動車などが出資するTSMCの日本法人(JASM)が牽引する。ただし、こうした銘柄は、相場好きの根っからの兜町人は「面白くない」と言って右から左にスルーする。

 何人が、たまげるような銘柄を挙げた。それが、彼らならではの発想なのだろう。関連性などないはず(?)の企業までもが、関連銘柄として指折り数えられた。

 例えば、ビューティカダンホールディングス<東S・3041>。生花祭壇の企画提案・制作・設営を全国展開している。数期間の営業利益も順調な推移。でも、なぜ……? 兜町の住民よれば、「熊本市に本社がある。TSMC進出以来、地価が上がっている。効果を享受しているはずだ」。

 あるいは、Lib Work<東G・1431>。ネットやVRを活用した戸建住宅や不動産販売の熊本本社企業。確かに今後、県外からの専門人材の雇用も増えよう。3400人を超えるとされる。そのために住まいを準備する必要性はわからなくもないが……。

 ある兜町人は、こちらの疑問を遮って、こう説明した。「社長の瀬口力の公の発言を知らないのは、不勉強だよ。昨年夏の6月期決算の発表時に『TSMCの後を追うように数十社の台湾企業が熊本に拠点づくりを希望している。国内の大手企業には既に熊本に拠点を置き始めている』と言っているんだ」

 続いて、九州フィナンシャルグループ<東P・7180>。「本店は鹿児島だが、本社は熊本。TSMCの熊本への経済効果は、2031年までの10年間で6兆9000億円近くになると試算されている。地銀大手がそれをみすみす見逃すはずがない」

 さらには、グリーンランドリゾート<東S・9656>。「北海道・九州で観光施設を展開しているが、完成した工場で働く従業員や新工場を作る従事者も、ゴルフをやるだろうから」

 ……などなど。彼らの話に乗るか否かは、ぜひ各自でご判断願いたい。ただ、昔ながらの〝株屋〟であり、いまも兜町に棲む彼らの視点からは、「なるほど。こんな見方もあるものか」と株式投資の幅の広さ、懐の深さを改めて感じさせられる。

テーマ探索は株式投資の訓練

 最後に、私が持ち歩いた手土産についても紹介しておく。これまた、ご判断は各自の責任で。「関連銘柄」を発想するヒントにしてもらえれば幸いだ。

 ヤマックス<東S・5285>。熊本市に本社を置く、土木向けコンクリート2次製品メーカー。道路脇の側溝や駐車場の縁石、川沿いの護岸などに活かされている。また、PCカーテンウォール(高い耐熱性・耐火性・遮音性を持ち様々なデザインや形状の建築物の外壁)が、東京都庁をはじめ超高層建築が乱立する新宿の代表的なビルにも使われている。

 2022年3月期こそ、経済活動の停滞を受けて15.1%の減収・15.6%の営業減益となったが、以降は快調。2023年3月期は14.3%増収、55.3%営業増益、48.3%最終増益。今期(2024年3月期)も、10.9%増収、19.9%営業増益、23.9%の最終増益、14円増配の30円配という計画で立ち上がり、11月に続き2月にも上方修正を出している。

 最新の『会社四季報』(24年春号)では、業績欄の見出しを【特需謳歌】とし、「地元熊本での半導体関連の工場向けに、コンクリート製品の需要が想定超」と書き出している。

 現在の株価は1800円台の後半。予想配当利回りは1.9%だが、予想PERは15倍弱で割高感は薄い。過去10年間の株価パフォーマンスを改めて振り返ってみたら、5.3倍余り。中長期の構えでも魅力を覚えるし、熊本関連としてもしばらくは目が離せない銘柄といえるのではないだろうか。

 グッドライフカンパニー<東S・2970>。資産家への1棟賃貸マンションの薦めから、用地の仕入れ・企画・設計・施工・リーシング・運営管理、そして売却までを一貫して展開、というビジネスモデルだ。いまどき決して珍しくない業態だが、収益動向は堅調。

 熊本関連のエビデントは、福岡・熊本の地盤。台湾の中小企業向け融資で首位の玉山銀行が福岡支店を開設し、TSMC進出に伴う不動産関連事業の後ろ盾となっている。グッドライフカンパニーによれば「熊本・菊陽町や周辺でTSMC工場関連の6物件が進行中(1つは竣工)」としている。

 半導体事業の挽回は国策のひとつでもあり、株式市場にとっては格好のテーマとなる。「TSMC」「熊本」に着目し、その関連銘柄を自分なりに探ることも、株式投資の訓練になるだろう。

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[執筆者]千葉 明
千葉 明
[ちば・あきら]東京証券取引所の記者クラブ(通称・兜倶楽部)の詰め記者を振り出しに、40年以上にわたり、経済・金融・ビジネスの現場を取材。現在は執筆活動のほか、講演活動も精力的に行う。『野村證券・企業部』『ザ・ノンバンク』『円闘』など著書多数。
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