相場急落でも買われた医薬品とシステム関連 戻り相場でさらに売られたのは…【8月の高値更新】
《株価の新高値は、銘柄にとっての「自己ベスト」。それは〝伸びしろ〟の表れと言えるのかもしれません。最近ベストを更新して伸びしろを見せているのは、どんな銘柄か。直近で高値をつけた銘柄から相場の流れを読み解く【高値更新を追え!】》
8月の日経平均株価は続落し、7月末に比べて455円、1.16%の下落となりました。7月中旬からの下げ相場が続き、投資家のリスク回避が鮮明となりました。
月初は、7月末の日銀会合やアメリカの雇用統計を受け、円高ドル安が急速に進行。円売り・日本株買いのポジションが積み上がっていたこともあり、円高・株安の波乱の展開となりました。5日には、日経平均株価が4000円超という大幅な下落を見せ、市場関係者に衝撃を与えました。
しかしその後、アメリカ景気への過度な懸念が後退し、ダウ平均株価もふたたび史上最高値まで戻るなど強い展開に。日本株も、好業績銘柄や売られていた半導体株などが上昇し、30日には日経平均株価も38500円台まで戻して終わりました。
そんな8月相場で、高値を更新したのはどのような銘柄でしょうか? 新高値・新安値をつけた銘柄の中から、8月相場で特徴的だった銘柄をひもときます。
・高値更新とは?
相場解説などで頻繁に使われる「高値更新」とは、読んで字のごとく、ある期間内の高値を更新したという意味です。ここに「昨年来」「年初来」「上場来」など期間を表す言葉が添えられて、「年初来高値を更新」などと言われます。また、新たに付いた高値を「新高値」と呼びます。
【株価の高値更新】
- 年初来高値……4月以降に使われ、その年の1月1日から直近までの期間が対象
- 上場来高値……株式市場に上場して以来の高値。買い方の強い物色が株価に現れているといえる
- 昨年来高値……1〜3月に使われ、前年の1月1日から直近までの期間が対象
日銀会合の余波で銀行株が高値
月初の1日に勢いを見せたのは、地銀株やネット銀行株でした。
7月30・31日に開催された金融政策決定会合で、日銀は、政策金利を0.25%に引き上げる追加利上げを決定しました。会合後の記者会見では植田総裁がさらなる追加利上げへの示唆も述べたことから、市場はタカ派的に受け止め、金利の先高感で銀行株が買われました。
りそなホールディングス<8308>、八十二銀行<8359>、北国フィナンシャルホールディングス<7381>などの銀行株の一角が、軒並み1日に年初来高値を更新しました。
同じく1日、住信SBIネット銀行<7163>は上場来高値3235円を更新しました。楽天銀行<5838>も同日に上場来高値です。
戻り相場で強さを見せた医薬品
下旬の戻り相場では、医薬品株の一角が強さを見せました。
大塚ホールディングス<4578>は、日経平均株価が急落した5日以降に右肩上がりの値動きとなり、29日に上場来高値8786円をつけました。抗精神病薬「レキサルティ」、持続性抗精神病薬「エビリファイ メンテナ」などが伸びているほか、アジアでの「ポカリスエット」なども好調に推移しています。
30日には中外製薬<4519>も上場来高値です。関節リウマチ治療薬の「アクテムラ」や血友病治療薬の「ヘムライブラ」などの販売が伸びています。
また、中堅製薬のゼリア新薬工業<4559>も30日に年初来高値2324円をつけました。外出機会などが増え、アルコール分解補助の「ヘパリーゼ」などの売上が伸びています。
急落からいち早く戻った株は?
5日の相場急落からいち早く戻りを見せた銘柄のひとつが、中堅の塗料メーカーである神東塗料<4615>です。
5日に年初来安値をつけたのち、8日に決算への期待の思惑で急騰し、わずか3日で172円の年初来高値をつけました。ただ、8日大引け後に発表された2024年4~6月期決算は営業利益が黒字転換となる好決算でしたが、株価はその後、材料出尽くしとして冴えない展開となりました。
不動産ポータルサイトなどを運営する日本情報クリエイト<4054>も、5日に上場来安値458円をつけたのち、13日に年初来高値872円まで上昇する乱高下ぶりでした。7日に発表した2024年6月期決算は売上高が前期比18%増収、営業利益は2.1倍でともに過去最高だったことなどから急騰しました。
音楽著作権管理などを手がけるNexTone<7094>は、5日の年初来安値1089円から22日の年初来高値1958円まで大きく上昇。8日発表の4~6月期決算は売上高2.1倍、営業利益5%増と会社計画を上回る好業績。2023年に連結子会社化したレコチョクグループの配信事業も順調だったことが追い風でした。
貴金属リサイクルの松田産業<7456>は30日に年初来高値3220円まで上昇しました。リスク回避による金価格の上昇で、宝飾分野からの貴金属リサイクルが増加し、事業が堅調に推移しています。また、電子デバイス分野ではAIの拡大による取り扱い増加の期待も広がっているもようです。
システム関連株が月末に軒並み新高値
企業のDX化や人手不足への対応、生成AIの導入などでシステム関連の需要が伸びています。また、景気変動や市況などに左右されにくく、安定した業績の伸びが見込める内需株としても評価されています。
野村総合研究所<4307>は27日に年初来高値5022円をつけています。直近では銀行向け開発や製品販売、運用サービスが伸びています。また、セキュリティー事案の発生増によるセキュリティー強化のニーズもプラスとなっています。公共・民間向けのコンサルティングが好調でした。
ウェブシステム構築ソフトを手がけるNTTデータ・イントラマート<3850>は28日に年初来高値2525円をつけ、急落後の上昇が顕著となりました。サブスク型ライセンスやクラウド型サービスへのシフトが順調に進んでいます。19日に光通信による株式の買い増しが判明したことも好感されました。
システム大手の大塚商会<4768>は30日に上場来高値3497円を更新しました。事業環境は好調で、1日に2024年12月期の業績予想を上方修正。システム構築からITサービス、サポートなどいずれも収益が増加しています。
戻り相場でさらに売られた銘柄は?
不安定な相場でもしっかりと高値を更新する銘柄がある一方で、急落後の戻り相場についていけず、さらに安値を更新してしまった銘柄も散見されます。
外食大手のコロワイド<7616>は29日に年初来安値1715円まで下落しました。9日発表の4~6月期の決算で純利益が前年同期比50%減と落ち込んだほか、20日に新株発行で約367億円を調達すると発表したことが嫌気されました。
調達資金はM&A資金に充てるとのことで、将来的な事業拡大の布石ではあるものの、短期的には株式需給が悪化することから売りが先行しました。
ゴルフ専門サイトを運営するゴルフダイジェスト・オンライン<3319>は22日に年初来安値411円まで下落しました。海外事業は成長しているものの、国内でゴルフ全般のメディア露出が減っており、新規顧客の獲得に苦戦しています。IT設備投資費などの負担も重く、業績は低迷しています。
煮豆やヨーグルトなど食品メーカー、フジッコ<2908>は30日に年初来安値1674円をつけました。7月31日に発表した4~6月期決算は営業利益が96%減と大幅減益でした。消費者の節約志向で惣菜の販売が苦戦。広告宣伝投資を先行させたものの売上が伸び悩んだことが響きました。
化粧品メーカーのミルボン<4919>は13日に年初来安値2815円まで売られました。4~6月期は、国内ではヘアケア用品と化粧品の販売が伸びて増収となったものの、円安の影響や人件費の増加、原材料高のコスト上昇で利益が伸び悩みました。
秋相場の注目は?
波乱の夏相場を終えて、秋にかけてはふたたび日銀や米FRBの金融政策、さらに、自民党総裁選とアメリカ大統領選の行方が焦点となりそうです。
そんななか、今後どんな銘柄が活躍するのか? 年末高への期待を胸に、これからも高値更新・安値更新の銘柄を中心にウォッチしながら、相場の潮目を探っていきたいと思います。