商社、自動車、化学… 日本株が崩れる中でも買われた銘柄たち【4月の高値更新】

佐々木達也
2024年5月7日 10時00分

《株価の新高値は、銘柄にとっての「自己ベスト」。それは〝伸びしろ〟の表れと言えるのかもしれません。最近ベストを更新して伸びしろを見せているのは、どんな銘柄か。直近で高値をつけた銘柄から、相場の流れを読み解く【高値更新を追え!】》

4月の日経平均株価は前月末に比べて1963円安と、4か月ぶりに下落しました。

アメリカの金利上昇を受け、上昇相場を牽引していた半導体株などに利益確定の売りが先行しました。また、月中には中東のイランとイスラエルで双方による攻撃が行われ、地政学的リスクが意識されたたこともあり、年初から上昇していた日本株に売りが広がりました。

ただ、その後は中東リスク拡大への懸念が一服、買い遅れた投資家による押し目買いも入り、安値圏からは戻る展開となりました。

こうした中で、高値を更新して相場の牽引役となっているのは、どのような銘柄か。新高値・新安値をつけた銘柄を取り上げながら、それぞれの共通点に着目し、4月相場で特徴的だった銘柄をひもときます。

・高値更新とは?

相場解説などで頻繁に使われる「高値更新」とは、読んで字のごとく、ある期間内の高値を更新したという意味です。ここに「昨年来」「年初来」「上場来」など期間を表す言葉が添えられて、「年初来高値を更新」などと言われます。また、新たに付いた高値を「新高値」と呼びます。

【株価の高値更新】
  • 上場来高値……株式市場に上場して以来の高値。買い方の強い物色が株価に現れているといえる
  • 昨年来高値……1〜3月に使われ、前年の1月1日から直近までの期間が対象
  • 年初来高値……4月以降に使われ、その年の1月1日から直近までの期間が対象

商社株が軒並み上場来高値

4月に上昇が目立ったのは商社株です。アメリカの利上げ見通しが後退し、日米の長期金利が上昇しました。半導体などのグロース株に利益確定売りが入った反面、金利上昇を受けた資金のシフトで、景気敏感のバリュー株である商社株などが買われました。

5大商社株はそろって30日に上場来高値を更新しました。

伊藤忠商事<8001>は3日、長期と2025年3月期の経営計画を発表し、長期の株主還元について「総還元性向を40%以上」としました。総還元性向とは、配当と自社株買いを合わせた株主還元が利益に占める割合を示します。また、配当性向は、30%以上か1株配当200円のいずれか高いほうとしました。

成長投資を継続しつつ株主還元を強化すると発表したことで、市場ではこれを好感した買いが入りました。

拍車をかけたバフェット効果

〝バフェット効果〟も商社株の上昇に拍車をかけました。18日にアメリカの著名投資家ウォーレン・バフェット氏が率いる投資会社バークシャー・ハサウェイは、円建て債券で2633億円を調達すると発表しました。同社は2022年と2023年にも円建て社債を発行し、日本の商社株を買い増していました。

海外の資源プロジェクトへの積極的な投資も続いています。三井物産<8031>は23日、英・石油メジャーのシェルと仏・総合エネルギー企業のトタルエナジーズとともに、アラブ首長国連邦のアブダビ国営石油のLNG(液化天然ガス)プロジェクトの権益への投資を協議していると報じられています。

事業ポートフォリオの見直しも進んでいます。三菱商事<8058>傘下のローソン<2651>について、KDDI<9433>が2月に1株10360円でTOB(株式公開買い付け)を実施し、共同経営に参画。そのローソンは、伊藤忠傘下のファミリーマートと共配送の実証実験を始めるなど効率化に取り組んでいます。

円安進行で自動車株が上昇

4月は円安が急激に進みました。アメリカでは2023年末から、景気後退懸念やインフレ一服でFRB(連邦準備制度理事会)の利下げが相次ぐだろう、との予想が市場の大勢を占めていました。

ところが蓋を開けてみると、雇用や消費などの経済指標はアメリカの景気が堅調であることを示し、インフレ率もFRBが利下げに転じるほどまでは下がっていません。

また、注目された25~26日の日銀の金融政策決定会合では、事前の予想通り、政策金利(無担保コールレート翌日物金利)の誘導目標は0~0.1%で据え置かれました。

一部では、円安進行の阻止のため、日銀が長期金利の買い入れ額を減らす(=市中の円の供給量を減らす)のではないかとの観測もありましたが、現状維持としました。

また、会合後の記者会見で植田和男総裁が、足元の円安について「物価の基調に大きな影響はない」と述べたことから、政府・日銀による円買い介入への警戒感が後退。連休中の29日には、外国為替市場で1ドル=160円を一瞬上回る場面がありました。

その後、円買い介入のような急激な円高の動きで1ドル=154円程度まで戻すなど乱高下が続いていますが、円の先安感が円売りを強めています。

こうした円安進行で買われたのが自動車株です。SUBARU<7270>は12日に年初来高値3610円を付けました。北米を中心に高価格のSUVなどの販売が好調です。

自動車部品大手のデンソー<6902>も、同じく12日に年初来高値2993.5円を更新しています。26日には、2025年3月期の連結純利益について、前期比68%の大幅増益で過去最高になりそうだと発表しました。

アメリカをはじめとするインフレやEVの成長一服で、コストパフォーマンスの良いハイブリッド車の販売が好調です。そのため、同社のハイブリッド車向け部品や電動化・自動運転関連の部品などの販売が伸びると期待されています。

出遅れ気味の化学株も物色

景気敏感で、どちらかというとこれまで市況低迷で株価が出遅れていた化学株も、4月は上昇が目立ちました。

日用品の花王<4452>は、30日に年初来高値6525円を付けました。 新興国などでの競争激化や原材料価格上昇を受け、近年は業績が低迷し、株価は上値が重い展開が続いていました。

しかし、中国の経済回復への期待などに加えて、同社株を保有する香港の投資ファンド、オアシス・マネジメントが3日、化粧品やスキンケアブランドの成長重視と事業ポートフォリオの改革を提案する旨の声明を発表。この株主提案による成長期待や還元強化の思惑もあり、株価は上昇しました。

総合化学大手の住友化学<4005>も23日に年初来高値367.6円を付けました。医薬品事業や石油化学事業の不振で2024年3月期は最終赤字に転落する見通しです。ただ、構造改革への期待や出遅れ気味の化学株への買いが入ったことで、直近の株価は戻り歩調となっています。

個別物色で買われた銘柄は?

業種ではなく個別の物色で4月に上昇が目立ったのは、中堅証券のアイザワ証券グループ<8708>です。

26日に東証が各企業に要請している「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」についてのリリースを発表。特別配当の実施や配当総額の設定など株主還元を強化すると発表し、30日に株価は上場来高値1785円を付けました。

半導体搬送装置のローツェ<6323>は、16日に上場来高値30400円を更新しています。11日に2025年2月期の連結営業利益が過去最高(前期比31%増の316億円)になりそうだと発表。生成AIの利用拡大や中国の半導体投資を受けて、半導体材料の搬送装置の受注が高止まりしています。

他の半導体株に利益確定売りが入る中、直近の予想PER(株価収益率)が20倍強とさほど割高感がないことも、堅調な株価推移に一役買っています。

4月に売られた株は?

通信キャリア向けアンテナタワーのシェアリングを手がけるJTOWER<4485>は、26日に年初来安値3260円を付けました。コスト上昇で前期(2024年3月期)は2年連続の最終赤字と予想されています。

グロース市場は個人投資家の損益が改善せず、また、海外投資家は大型株を中心に日本株に投資していることから、市場全体で上値の重い展開が続いています。

住設機器や建材のLIXIL<5938>も26日に年初来安値1661.5円と低迷しました。22日に前期(2024年3月期)の業績予想を下方修正したこともあり、株価は下落。インフレの進行で主力のヨーロッパなどで製品の販売が落ち込んでいます。構造改革のための費用を計上したこともあり、業績が下振れました。

連休も終わり、今後、夏に向けてどんな銘柄が活躍するのか? 引き続き、高値更新・安値更新の銘柄を中心にウォッチしながら、相場の潮目を探っていきたいと思います。

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[執筆者]佐々木達也
佐々木達也
[ささき・たつや]金融機関で債券畑を経験後、証券アナリストとして株式の調査に携わる。市場動向や株式を中心としたリサーチやレポート執筆などを業務としている。ファイナンシャルプランナー資格も取得し、現在はライターとしても活動中。株式個別銘柄、市況など個人向けのテーマを中心にわかりやすさを心がけた記事を執筆。
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