NISAで高配当株を買いたい理由 意外なメリットが暴落と老後に生きる

岡田禎子
2025年2月11日 11時00分

今年のNISA枠で何を買うべきか? その答えは、「利益を追求するならS&P500一択」「アメリカ集中が怖いならオルカン」。先日の記事で、私はそう結論づけました。

ただ、私自身はどうするのかと問われれば、「今年は高配当株にしよう」と決意しました。昨年は、成長投資枠でS&P500を一括購入、つみたて投資枠ではオルカンを毎日コツコツと買っていたのですが、「あの日」の経験から心変わりしたわけです。

歴史的な大暴落で悟ったこと

2024年8月5日の東京株式市場は、日経平均株価が4451円も下落するという過去最大の暴落となりました。背景には、アメリカ雇用統計で景気悪化懸念が強まったこと、日銀の利上げを受けて円高が急速に進んだことなどがありました。

その後の強烈な円高を受け、筆者のNISA口座もついにマイナスに。

さすがに下げすぎだろうとは思いましたが、評価損益のマイナス表示を見たときは大変なショックを受けました。「大丈夫。秋まで冬眠すれば戻るよ」。周囲にはそんなジョークを飛ばして平静を保っていたものの、内心は穏やかではありません。

過去の大暴落を経験していた、ということも恐怖の理由としてあります。

たとえばS&P500は、ブラックマンデーでは20%、リーマンショックでは50%以上の下落を記録しました。仮定の話ですが、今後NISAの非課税最大限度額(1800万円)をめいっぱいS&P500で持っていたとしたら、50%の暴落で900万円以上が吹き飛ぶ計算となります。

株価下落プラス円高がこのまま進むとしたら……と考えるとゾッとしたのです。

よく、大暴落が起きると「追加で買えるからワクワクする!」と言う人がいるのですが、あれは本当なのでしょうか? 恐怖が支配する中で追加買いを入れるのは、かなりの勇気がいります。どこまで下がるかわからないし、海外ものの場合は為替動向も考えなくてはなりません。

少なくとも筆者は、何度経験してもワクワクした気持ちにはなれません。全ての保有株がマイナスというやり切れない思いを抱えたまま、「とにかく冷静にならなくては……」と気持ちを抑えて対処することで精一杯です。

ところが、昨年8月の暴落時、日本の高配当株はちょっと様子が違っていました。

さすがに株価は下がっていましたが、その分、配当利回りが上昇しているのを見て、私は「買い!」と思ったのです。同じことを思った人はたくさんいたようで、下値で大量の買いが入っていました。高配当株の解説でよく言われる「下方硬直性がある」というやつです。

しかも、銘柄としては評価損を抱えたとしても、時期が来れば配当金としてキャッシュが手に入ります。市場が乱高下する局面では、一定のインカムを確保できることは安心感をもたらすということを、身をもって体感したのでした。

母に思う老後の資産形成のあり方

実は、もう一つ思うところがありました。

筆者の母は昨年から老人ホームに入所し、穏やかな生活を送っていますが、若い頃は株式投資が好きで、かなり売買を行なっていました。

70歳を過ぎた頃から高配当株に緩やかにシフトし、今では年金にプラスして配当金が大切な現金収入となっています。決して安くはない老人ホーム費用の補助という意味でも、この配当収入が大変助かっているのです。

私を含め多くの人は、老後には、それまでに築いた資産を取り崩しながら生活することになると思います。ただ、この「取り崩す」という行為にはなかなか恐怖を覚えるもので、考えている以上に簡単にはできないものです。

証券会社によっては、投資信託の「定時定額解約」というサービスがあり、毎月一定額が自動で解約され、現金として口座に振り込まれます。ただ、実は「定額」よりも「定率」のほうが計算上は有利になります。

また、資産の取り崩しに関しては「4%ルール」という考え方があります。取り崩す額を4%以内に抑えることができれば、資産を目減りさせることなく生活することができる、というものです。

しかし、ここで問題があります。「定率解約」を実行するのに、高齢の母に毎年の計算と作業ができるのか? あるいは、自分が高齢になったときはどうか? 正直なところ、難しいと言わざるを得ません。

これを解決してくれるのが、高配当株だったのです。

究極を言えば、3月期決算の武田薬品工業<4502>と12月期決算の日本たばこ産業<2914>で資産を築いておけば、3・6・9・12月の年4回(それぞれの中間決算+本決算)、あわせて4%以上の現金が黙っていても入ってくるのです。取り崩す必要なし。NISAなら20%の税金もなし。

2つの貴重な経験から、私は「2025年からの成長枠は高配当株にしよう!」と固く誓ったのでした。

高配当株投資の最高の楽しみ

高配当株の楽しみと言えば、もちろん、安定的なインカムゲインを受け取れることですが、意外な楽しみとして、日本株が崩れた場合でも、配当目的ならむしろ「買い場」と捉えて慌てることなく買いにいけることがあります。

冒頭で書いたとおり、私も昨年8月に経験しました。だから、自信を持って言えます。日本株なら為替変動を気にすることもありませんし、日頃狙っていた高配当株を安く買えた&買い増しできた、という満足感を得られるでしょう。

たとえ多少の含み損となった場合でも、数年も保有すれば配当金で埋められる可能性が高く、これをNISA枠で持っておけば恩恵はさらに大きいわけです。感情面でも、下落相場を「プラス思考」で取り組めることは、恐怖を抱きながらするそれとは大違いだと心底感じました。

株主優待を実施している企業なら、それもまた楽しみです。

とはいえ、高配当株の最高の楽しみは「配当金を何に使おうか考えること」、これに尽きます。配当金を手にすると、なんとも言えない喜びを感じます。これが案外クセになるのです。

もう一つ付け加えるならば、自分が選んだ企業を保有する、という主体的な楽しみがあることでしょうか。常日頃からニュースに敏感になる、株式相場に明るくなる、保有銘柄の動向を知る……など、楽しみながら株式投資の知識を得ることにもつながります。

高配当株投資に吹く追い風

近年、日本企業は株主への還元を強化しています。

TOPIX構成企業の2023年度の配当総額は19兆円で、10年前に比べて2倍以上に増加しています。この間、配当性向も26%から36%に上昇しています。また、自社株買いは10年前の5倍にあたる約10兆円にまで増えています。

この背景には、東証からのPBR改善要請に応じるべく、株主還元策を強化する企業が増加したことが挙げられます。これによって高配当株の人気が高まり、株価自体も上昇基調となっています。この傾向は今後も続くと見られています。

もちろん、高配当株にもリスクがあります。業績悪化による減配や無配、さらに株価下落など、株式投資である以上は「ほったらかし」というわけにはいきませんし、基本的なリサーチは必要です。

ただ、それらも含めて、NISAの恩恵をフルに活かしながら、老後に向けて投資スキルを磨き、自ら稼ぐ能力を身につけることは、これからの時代に強みとなるのではないか。私はそう考えています。

NISAも自分に合ったやり方で

新NISAの開始にあわせて始めたNISAですが、実際に1年間やってみて、新たな発見がありました。それは、単に儲けを計算するのではなく、自分のキャラクターや好みに合った投資をすればいいのだ、ということです。

とにかく資産を増やしたいならS&P500で利益追求をするもよし。安定成長を求めるならS&P500+高配当株、広く分散投資したければオルカン、やっぱり現金収入が欲しいなら日本の高配当株……などなど。

まずは自分の性格や生活、そして、何のために株式投資をするのか、という目的を確認することが肝要です。そのうえで、自分自身にいちばん合うものを選別しましょう。もし状況が変化したなら、それに合わせて柔軟に変えていけばいいのですから。

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[執筆者]岡田禎子
岡田禎子
[おかだ・さちこ]証券会社、資産運用会社を経て、ファイナンシャル・プランナーとして独立。資産運用の観点から「投資は面白い」をモットーに、投資の素晴らしさ、楽しさを一人でも多くの方に伝えていけるよう活動中。個人投資家としては20年以上の経験があり、特に個別株投資については特別な思い入れがある。さまざまなメディアに執筆するほか、セミナー講師も務める。テレビ東京系列ドラマ「インベスターZ」の脚本協力も務める。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、ファイナンシャル・プランナー(CFP)
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