初心者が知っておきたい株の確定申告 個人投資家のための節税法とは

榊原佳子
2025年2月27日 15時00分

個人投資家のための税金節約法

NISAで株式投資を始めた人の中には、NISAの非課税枠を超えてより本格的に取り組んでみよう!と考える人もいるかもしれません。そこで問題となるのが税金です。利益に課される税金は、株式投資において避けては通れないコストです。

このコストを少しでも減らす方法として、「損益通算」と「繰越控除」があります。どちらも利用するには確定申告をする必要がありますが、申告自体は近年かなり簡単にできるようになっており、ハードルが下がっています。

・損益通算

投資で得た利益と損失を相殺させることで、課税対象となる所得を減らす仕組みです。

例えば、株式の売却で30万円の利益を得た場合、通常であればその利益に対して課税され、60,945円(所得税+住民税+復興特別所得税)を納めなければなりません。

しかし、同じ年に別の株式で10万円の損失を出していた場合、その損失を利益と相殺することで、課税対象は実質20万円に減少し、半額の約20,315円が還付されます。投資家にとって痛い損失が、税負担を軽減することに活用できるのです。

損益通算は株式だけでなく投資信託や先物取引などでも適用されるため、複数の口座で損益通算を適用することもでき、幅広い投資活動で利用できます。

さらには、事業所得や不動産投資、山林所得の利益とも相殺させることができるので、事業主や不動産オーナーの人は幅広く節税をすることができます。

・繰越控除

損益通算で相殺しきれなかった損失は、翌年以降に繰り越すことができます。この仕組みを「繰越控除」といいます。

例えば、10万円の損失が出た翌年に20万円の利益が出た場合、前年の損失を翌年に繰り越すことで、課税対象を10万円に減らすことができます。繰越控除は最長3年間まで有効なため、損失が大きかった年は、再来年以降の節税にもなります。

繰越控除を受けるためには、損失が発生した年に必ず確定申告を行う必要がありますので、お忘れなく。

証券口座の源泉徴収「あり」「なし」の違い

ところで、証券口座を開設するときは、以下3つの選択肢があります。

  • 源泉徴収ありの特定口座
  • 源泉徴収なしの特定口座
  • 一般口座

「源泉徴収あり」の口座では、取引で利益が発生した時点で自動的に税金が引かれるため、確定申告をする必要がなく、手間のがかからないことがメリットです。

しかし、損益通算や損失の繰越控除を活用したい場合には、「源泉徴収なし」の口座を選びましょう。源泉徴収なしの口座では、自動的な税金の徴収は行われませんので、投資家自身が年間の損益をまとめて確定申告する必要があります。

また、一般口座を選ぶと、証券会社などが発行する「年間取引報告書」がないため、売却損益や配当金などの計算をすべて自分で行わなければなりません。もちろん、「源泉徴収なし」と同様、確定申告も必要です。

株式投資にかかる税金

株式投資にかかる税金は、主に「譲渡益(売却益)」と「配当金等」の2つがあります。

・譲渡益にかかる税金

譲渡益とは、株式の売却で得られる利益のことです。ある株式を100万円で購入し、それを130万円で売却した場合、30万円の譲渡益が発生します。この30万円に対して税金がかかります。

株式の譲渡益に課される税金には、所得税や住民税に加えて、現在は復興特別所得税もあります。

  • 所得税:15%
  • 住民税:5%
  • 復興特別所得税:0.315%

税率は合計で20.315%です。したがって、譲渡益30万円の場合は、この税率をかけた60,945円を納税しなければなりません。

ただし、年収2000万円以下の会社員で「給与や退職金以外の所得」の合計額が年間20万円以下は、確定申告は不要です。

・配当金等にかかる税金

配当金とは、企業が株主に対して利益の一部を還元するために支払うお金のことですが、この配当金に対しても所得税と住民税がかかり、上場株式の場合は譲渡益と同じ税率です。

通常、配当金にかかる税金は口座の種類に関係なく証券会社や企業が源泉徴収しているため、基本的には確定申告を行う必要はありません。

ただし、「総合課税」を選択して確定申告を行うことで、配当控除を利用して税金を減らせることもできます。一方で「申告分離課税」を選択すると損益通算ができるので、配当金から源泉徴収された税金が確定申告によって還付されることもあります。

「総合課税」と「申告分離課税」は確定申告時に選択できますので、どちらが自分にとって有利になるのかよく検討しましょう。

やってみよう、確定申告

損益通算や繰越控除を利用するには、年間を通じて得た利益と損失を自分で計算し、申告しなければなりません。それが確定申告です。毎年2月中旬から3月中旬が申告期間となります。

確定申告をするにはまず、対象となる年の全取引の損益を把握するところから始めます。株式や投資信託などの取引履歴は証券会社のサイトからダウンロードし、年間の損益を集計します。特定口座の場合は、証券会社などから「年間取引報告書」が発行されます。

次に、国税庁のホームページにある「確定申告書作成コーナー」を利用し、確定申告書を作成。案内に従って入力していくだけなので、初めての人でも簡単です。申告書が完成したら、必要な書類を添付して期限内に税務署へ直接持参するか、郵送で提出します。

本格的に投資をするなら、事前に利用者識別番号を取得してもいいかもしれません。e-Taxで送信するだけで提出できるようにすれば、毎年の確定申告がかなり楽になります。さらにマイナンバーと連携することで、「年間取引報告書」を自動取得できるようにもなります。

専門家に頼ることもペナルティを防ぐための〝投資〟

申告漏れや所得隠しは、数年後に税務調査を受ける可能性につながります。その場合、加算税や延滞税といったペナルティはかなりの金額になりますので、きちんと正しく申告しておくのが賢明です。

事業や不動産投資を営んでいる人はもちろん、年末から確定申告の時期にかけて多忙だという場合は、税理士などに依頼することで手間が減らせるだけでなく申告ミスもなくなります。

ちょっと敷居が高く感じるかもしれませんが、相談してみるだけでも、株式投資に関する税金について理解が深まるはずです。これもひとつの「投資」だと思って、専門家の力を借りて税金の勉強をするのもいいかもしれません。

〈参考記事〉確定申告していますか? 実は、納税しなくてもいい場合もあるんです

納税も投資家としての務め?

税金は株式投資における大きなコストですが、仕組みや制度を理解して適切に活用すれば、ある程度までは減らすことができます。

何かと嫌われがちな税金ですが、私たちの生活インフラや社会保障を支えるための欠かせない資源でもあります。税金を通じた「富の分配」で投資家として社会貢献をしていると考えれば、納税に対する印象も少し前向きになるかもしれません。

節税は大切ですが、黒に近いグレーのレベルまで取り組むのは危険です。適度な節税対策をして、払うべきお金はしっかり払ったうえで、より大きな利益を株式投資で目指していきましょう。

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[執筆者]榊原佳子
榊原佳子
[さかきばら・よしこ]ライター、個人投資家。名古屋大学大学院修了後、大手出版社とIT企業で編集者として勤務したのち、フリーランスに。社会人1年目から株式投資を始め、投資歴は10年以上。株を通して経済や国際などの時事・歴史に関心が広がり、さらに株の世界にのめり込む。
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