資産運用は余裕資金で行うべき? なかなか投資できない人の大きな誤解

高橋忠寛
2016年10月22日 14時07分

資産運用は「余裕資金」で?

「余裕資金はありますか? それはいくらですか?」と聞かれて、すぐに答えられる人はどのくらいいるでしょうか。資産運用を始めようとすると、マネー雑誌でも、書籍やウェブサイトでも、金融機関の窓口でも、「資産運用は余裕資金でやりましょう」とまるで判を押したように言われます。

しかし、それは本当に正しいのでしょうか? わかっているようでわかっていない、この「余裕資金」という言葉。資産運用はどのようなお金で行うべきなのか、そもそも余裕資産とはどんなお金なのか。意外と語られることのないこの問題について考えてみたいと思います。

いつまでも資産運用できない理由

資産運用に取り組もうとすると、マネー雑誌などには必ず「資産運用は余裕資金でやりましょう」という一文を見かけます。

金融機関の窓口に行って資産運用に関する商品の案内を受ける際には、目的やリスク許容度を確認するためにアンケート形式の質問に回答することになります。そこでも必ず「運用する資金は余裕資金ですか?」というような質問があります。どうしてなのでしょう?

それは、資産運用で利用する投資商品には損をしてしまう可能性があるからです。場合によっては、投資した資金が半分以下になってしまうかもしれません。そんなリスクのある商品に生活資金をつぎ込むのは、無謀と言われても仕方ないでしょう。だから、「余裕資金で」となるのだと思います。

しかし、資産運用で利用する商品には、価値が半分になってしまうような、大きな損失が発生する可能性のある商品ばかりではありません。

【参考記事】いくらから始められる? 株初心者が知っておくべき投資資金

それなのに「資産運用は余裕資金でやるものだ」と決めてしまうと、いつまでたっても資産運用を始められなくなります。事実、「自分には余裕資金なんてないから資産運用は考えられない」と言う人もたくさんいます。

日本証券業協会が行った「個人投資家の証券投資に関する意識調査報告書」(平成26年10月)という調査でも、20代・30代の人たちが有価証券への投資を行わない理由として、「なんとなく怖い」「ギャンブルのようなものだと思う」に次いで「まとまった資金がない」と答えています。

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もちろん、投資とギャンブルは大きく違いますし、まとまった資金がなくても資産運用に取り組むことは可能です。騙されたり、おかしな商品をつかまされたり、いきなり大きな損失を出さない程度の最低限の知識を学び身につけていれば、十分です。

【参考記事】イキナリ大きな損失を出さないために絶対知っておくべき5つのポイント

まとまったお金がなくても、お金を貯めるためにも、早くから少しずつ資産運用を始めるべきだと思います。たとえば投資信託であれば、毎月500円から資産運用が始められます。

失ってもいいお金なんてない

「余裕資金=失ってもいいお金」ということになると、いつまでたっても準備できるはずがありません。なぜなら多くの人にとって、失ってもいいお金なんてあるはずがないからです。

むしろ金融機関が「余裕資金で資産運用をしましょう」と言うのは、お客さまに買ってもらった金融商品が値下がりしても、文句を言われないようにするためのエクスキューズ(逃げ道)のようにすら感じます。

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そもそも余裕資金とは?

では、余裕資金とは一体、何なのでしょうか?

実はこれが非常にあいまいなのです。自分自身の胸に手を当てて、余裕資金をいくらもっているかを考えてみてください。きっと明確には答えられないでしょう。Aさんを例に考えてみましょう。

Aさんの生活資金は、家賃を含めて毎月30万円くらいです。これを給料の範囲内でまかなっています。毎月の手取り給料が35万円なので、「35万円−30万円=5万円」は貯金に回せます。ということは、Aさんにとって5万円が余裕資金なのでしょうか?

実はAさん、定期預金に500万円を預けてあります。これはマンションを購入するための頭金に充てたいと貯めたお金です。だから、その500万円は余裕資金ではない、とAさんは思っています。

「ん? 待てよ。そうすると、給料から生活費を差し引いて残った5万円も、家の頭金を増やすために充てているのだし、余裕資金じゃないかもしれない。いや、余裕資金? はて、一体どっちなんだ?」。Aさんはわからなくなってしまいました。

Aさんが悩んでしまったのも仕方がありません。そもそも「失ってもいい余分なお金」などというものは、誰にとってもあるものではないのです。

どういうお金で資産運用すればいいのか

では、資産運用はどういうお金で行えばよいのでしょうか。その答えは、「余っているお金」ではなく「すぐに使わないお金」です。教育資金など、たとえ使途が決まっていたとしても、使うのが先の資金であれば、それは資産運用に回していくべきだと思います。

資産運用とは、「資産を『運んで』『用いる』」と書きます。漢字が意味するとおり、「自分の資産をどう管理して、どう形成していくか。その後、それをどうやって取り崩して、どうやって使っていくか」を考えていくことだからです。

そして、将来必要となる資金を計画的に準備していくには、お金の名目にかかわらず、早いうちから資産運用を始めるに越したことはありません。そのほうが、大きく増やせる可能性も高くなるからです。

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若いうちはそれほどお金を持っていないものです。だから、もし「資産運用は余裕資金で」を真に受けていたら、若いうちは資産形成に取り組めなくなってしまいます。

これはおかしな話ですよね。いまは家計が苦しい、けれども、老後を視野に入れた将来、金銭的に余裕のある生活をするために準備していくのが資産運用です。むしろ若い世代ほど資産運用の必要性は高くなるはずです。

したがって、家計に余裕がなくても、「資産形成をするために回すべきお金」をなんとか捻出して、コツコツと投資していくべきなのです。だから、「余裕資金で資産運用をする」というのは、完全に間違った考え方だと思います。

「余裕資金」という言葉は実は曖昧で、金融商品の営業現場では売り手にとって都合良く便利に使われているように思います。すぐに使わないお金があれば、計画的に資産運用に取り組むべきです。お金も時間も心にも余裕のある将来の生活を手に入れるためにも、若い世代こそ、最低限の投資の知識を身につけ、コツコツと投資をして資産形成を行っていきましょう。

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[執筆者]高橋忠寛
高橋忠寛
[たかはし・ただひろ]株式会社リンクマネーコンサルティング代表取締役。上智大学経済学部経済学科卒業。東京三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)、シティバンク銀行での10年超の銀行勤務を経て、2014年9月に独立。投資助言代理業者[関東財務局(金商)2855号]として、金融商品の販売には関わらない完全に独立した立場で、資産運用を中心に資産管理についての総合的なアドバイスを提供している。著書に『銀行員が顧客には勧めないけど家族に勧める資産運用術』(日本実業出版社)がある。 ファイナンシャル・プランナー(CFP) 、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)
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