「人気のある会社への投資」はなぜ失敗するのか? 儲かる株を見抜くポイントと意外な買い時【株初心者のための13選】
《株価は好調、さらに新NISAのスタートで、新たに株式投資を始める人が増えています。そこで、株初心者にぜひ読んでほしい記事を、ベテランの個人投資家である岡田禎子さんがセレクト。株式投資の醍醐味と教訓がつまっています》
「株初心者はつい『人気の会社』に投資しようとしますが、そうではない、買い時はむしろ不人気のときですよ、という意外性と示唆に富んだ内容が勉強になります」──岡田禎子
人気のある会社への投資
人気のある会社の株式を買うことは「良い投資」と言えるのでしょうか。
この問題に答える前に、「ヒューリスティック」という言葉についてお話ししたいと思います。おそらく、この言葉を初めて聞いた方がほとんどだと思います。
ヒューリスティックとは?
「ヒューリスティック(heuristic)」は「直感的推論」と訳されることがあります。短い思考プロセスですばやく結論を出すための方法です。短い時間で行えますが、必ずしも最適とはいえない解決策を見つける思考パスです。
つまり、直感的なひらめきによって、ある推論を完成させてしまうことが、これに当たります。
人間は、情報を処理するだけの十分な時間がない場合や、あまりにたくさんの情報に直面する場合、今まで経験したことがない問題に直面した場合、問題があまり重要ではない場合などには、ヒューリスティックを使用する傾向があると言われています。
公務員はマッチョか、それともスリムか
ヒューリスティックのひとつに「代表性ヒューリスティック」があります。「代表性ヒューリスティック」とは、典型的な事象でまとめて判断をくだす簡便的意思決定を指します。
例えば、公務員と商社マンの2人が並んでいます。ひとりは色黒でガッチリした体型、もうひとりは色白で細面だとします。どちらが商社マンで、どちらが公務員かと尋ねられたら、おそらくほとんどの人が「色黒でガッチリした体型の人が商社マンで、色白で細面の人が公務員」と答えるでしょう。
これは、各人がもともと持っているイメージであったり、自分の知り合いを連想したうえで導いた結果だったりします。見た目と実際の職業が結びつく論理的根拠はありません。実際には、色白で細面の商社マンだっているでしょうし、色黒でガッチリした体型の公務員だっているはずです。
人に限らず、モノの場合も同様な理解が成立します。特定の人やモノが、それが属するグループや集団の典型、あるいは多数のメンバーに共通して見られる特性であれば、その対象はグループの代表と認識されやすいのです。
人気のある会社と、儲かる株
話を投資に戻します。投資家は、「人気のある会社が儲かる株(良い投資)である」という確率を過大評価してしまう傾向があります。というのも、儲かる株(良い投資)と人気のある会社は似ているからです。
果たして、実際のところはどうなのでしょうか。
人気のある会社は投資家の注目を集め、株価の勢いがあります。その勢いに飛び乗るのは短期的に儲かるかもしれませんが、いわゆる「高値掴み」になってしまい、成功の確率は低くなってしまいます。
それにもかかわらず、投資家には、「人気のある会社=良い株(投資)」と考える傾向があります。なぜなら、彼らは「代表性ヒューリスティック」を使っているからです。
ヒューリスティックの問題点は、深く考えることなく、単純な思考プロセスで結論を導き出すところにあります。簡単に入手可能な情報だけに基づいて状況を判断してしまうのです。これでは、最適でない意思決定につながる可能性が高いと言えます。
結論を言います。「人気がある」という理由だけで、その企業の株を買うことは、とても危険です。
もちろん、人気のある企業がすべてダメというわけではありません。人気のある企業には2種類あります。一つ目は、ただ人気があるだけの企業です。ストーリーは魅力的に聞こえるかもしれませんが、実績の裏付けがありません。もう一つの人気企業は、人気があり、かつ実績も伴っている企業です。
したがって、人気がある会社への投資を検討する際には、人気に実績が伴っているか、夢物語ではなく成長ストーリーに合理性はあるのかなど、会社のビジネスの中身を十分に分析し、本当に買いに値する価値ある会社なのかどうかの判断をしなければなりません。
買い時は、不人気になったとき
私自身は、実績が伴っていてストーリーに合理性を見出した企業が、一時的に不人気になったとき、つまり、株価が一時的に下落したときに買うようにしています。
そして、株を買う前には、少なくとも以下の4つをチェックします。
・ストーリー
プラス材料(株価を押し上げる要素)だけでなく、マイナス材料(株価を押し下げる要素)、つまり、リスク要因や懸念材料を必ず確認します。
人気のある企業というのは、プラス材料だけがクローズアップされる傾向がありますので、プラス材料とマイナス材料の両方を天秤にかけ、プラス材料がマイナス材料を凌いでいるときのみ、買い入れ候補銘柄となります。
・業績
売上、利益、キャッシュフローの成長率や、ROEやマージンなどの利益率の過去の推移を見ます。水準とトレンドから、ストーリーの合理性を判断するのです。
・バリュエーション
株価収益率(PER)、株価売上率(PSR)、配当利回りなどの水準を確認します。これらをもとに、成長率、収益性、リスクなどの観点から、株価の妥当性をチェックします。
・チャート
上記のファンダメンタルズ分析を補完するためにも、株価の動き(短期と長期の株価チャート)を確認します。人気のある企業というのは、少なくとも短期的には株価は上昇傾向にありますので、長期のチャートを見て、株価の立ち位置を確認し、株価の上昇余地などの判断に役立てます。
「人気のある会社だから株価も上がるだろう」と考えがちですが、人気があっても株価が伸びない会社はいくらでもあります。「人気があるかどうか」だけでなく「良い投資先になり得るか」という視点での判断が必要なのです。
(初出:2022年9月29日)
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[選]岡田禎子
証券会社、資産運用会社を経て、ファイナンシャル・プランナーとして独立。資産運用の観点から「投資は面白い」をモットーに、投資の素晴らしさ、楽しさを一人でも多くの方に伝えていけるよう活動中。個人投資家としては20年以上の経験があり、特に個別株投資については特別な思い入れがある。さまざまなメディアに執筆するほか、セミナー講師も務める。テレビ東京系列ドラマ「インベスターZ」の脚本協力も務める。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、ファイナンシャル・プランナー(CFP)