なぜ貯金だけではもったいないの? 株式投資は本当に損しない?

井本ちひろ
2022年7月7日 14時30分

JenkoAtaman/Adobe Stock

貯金がもったいないと言われる理由

老後2000万円問題が話題になり「退職までにたくさん貯金をしておかなければ、老後の生活ができないのでは?」と多くの人が不安を抱いたことでしょう。

そして老後資金を貯めるために、つみたてNISAiDeCoなどの資産運用を始める人が増え、「貯金はもったいない」「普通預金だけでは危険」など、これまでは当たり前だった認識を覆す話を耳にすることが多くなりました。

なぜ、投資をしたほうが良いといわれるのでしょうか? 毎月コツコツと貯めていけばお金は必ず増えていくはずですが、なぜ貯金をするだけではもったいないと言われるのでしょうか?

貯金するだけではお金が増えないから

貯金をするだけではもったいないと言われる第一の理由は「ただ貯金するだけではお金が増えないから」です。いま、銀行の定期預金の金利は年0.01%程度なので、仮に100万円を10年間預けたとしても、利息はたったの1,000円しか付きません。

元本は保証されますが、増えもしないということ。

それに対して、100万円を1年間の複利4%で運用した場合、10年間で148万円になります。「複利」とは、元本(100万円)についた利子(1年で4%=40,000円)を次期の元本に取り入れる方式で、雪だるま式に資金が増えていくのが特徴です。

「複利4%で運用」とは、元本に対して毎年プラス4%の運用利益をあげるということ。

元本が100万円なら、1年目の運用収益は40,000円です。2年目は、元本104万円で収益は41,600円。3年目の収益は43,264円になります。こうして利益が少しずつ増えていき、10年目には合計480,244円になるわけです。

これが、ただお金を預けるだけではもったいないと言われる理由のひとつです。

インフレになるとお金の価値が下がるから

また、銀行にお金を預けていると、インフレによって「お金の価値」が下がるリスクがあります。

インフレを簡単にいうと「モノの値段が高くなること」です。インフレ状態になると、さまざまなものが値上げされていきます。2022年6月には、大手食品会社のインスタント食品や冷凍食品、調味料などが軒並み値上げされました。

このインフレにいちばん弱いものが「現金」です。なぜなら、インフレになると同じ商品を買うために以前より多くのお金が必要になるため、相対的にお金の価値が下がってしまうのです。

たとえば、インフレ率(物価の上昇率)が2%になったとすると、現金の実質価値は、これに伴って2%下がることになります。その状態が続けば、いまの100万円は10年後には82万円に、20年後には67万円にまで価値が下がってしまう計算になります。

ゼロになることはないものの、お金の価値は減ってしまうということで、貯金にも少なからずリスクがあることがわかります。

株式投資は本当に損をしない?

貯金だけではお金が増えない、貯金はインフレに弱い……その対応策となるのが株式投資をはじめとした資産運用です。つまり、「お金に働いてもらう」「インフレ対策として有効」という理由から、多くの人が資産運用を始めています。

ただ、最も心配なのは「損をするのでは?」という点ではないでしょうか。巷では「絶対に儲かる」といった謳い文句を見かけることもありますが、株式投資は本当に損をしないのでしょうか?

損をするかしないかは誰にもわからない

「株式投資で損をするか、しないか」──結論から言うと、その答えは誰にもわかりません。買ったときよりも株価が上昇しているときに売却すれば利益を得られますし、下落しているときに売却すれば損をします。

100%当たる天気予報がないように「予測」はできても「予知」はできません。「絶対に負けない」というリスクゼロの投資はないので、リスクとリターンのバランスを決めておくことが重要です。

損をするかどうかは誰にもわからないということは、裏を返せば、「『絶対に損をしない』なんてことはない」ということでもあります。降水確率0%の快晴予報でも雨が降ることもあるように、どんなにがんばって予測しても、当たることもあれば外れることもあります。

「それではギャンブルのようなものでは?」と思うかもしれませんが、どこまでいってもイチかバチかのギャンブルと違い、株式投資では、できるだけ損をしない(損を減らす)ためにできることがたくさんあります。

株式投資でできるだけ損をしないために

貯金よりも株式投資がいいかも?と思い始めた方のために、少しでも損失を回避するためのポイントをいくつか紹介したいと思います。

インカムゲインを狙って長期運用する

「株式投資」と聞くと、一日中パソコンと睨めっこをしてデイトレードをしている人を思い浮かべるかもしれません。でも、すべての株式投資がそうとは限りません。もちろん、そういった手法もありますが、もっと気長に、のんびりと運用することもできます。

できるだけ株式投資で損をしたくないなら、株を売買して利益を出す「キャピタルゲイン」よりも、株を長期保有することによって得られる配当などの「インカムゲイン」を狙うといいでしょう。

一攫千金は狙えずとも、少しずつ着実に資産は増えていきます。また、運用期間が長期であるほど「複利」の恩恵を受けられます。

勉強は必要

株式投資をするのであれば、当然、勉強が必要です。SNS上では「これを買えば間違いない」「ETFが最強」といった投稿も見かけますが、鵜呑みにするのは危険です。

投資は自己責任。ですから、「自分は何に対して投資をしているのか」「この投資によって、どんな利益(損失)につながるのか」といったことを理解しておかなければいけません。もし、勉強をするのが面倒だと感じるのであれば、リスクの少ない定期預金を選んだほうがいいでしょう。

投資に回すのは「使う予定のないお金」

「投資でお金が増えるのなら、毎月の貯金をすべて投資にまわそう!」と思うかもしれませんが、投資に使っていいのは余剰資金などの「使う予定のないお金」です。

貯金ではお金は増えないものの、銀行に預けておけば減ることはないので、必要に応じた貯金はしておいたほうがいいでしょう。

一般的に、投資と貯金の理想的な割合は、20〜30代は「7(投資):3(貯金)」、40〜50代は「5:5」、60代以上では「3:7」と言われています。つまり、若いうちは積極的に投資を行い、60代を過ぎたら投資はほどほどにして現金を持っておくのがいい、ということです。

若いうちは投資で損失が出たとしても挽回するチャンスがありますが、シニア世代になると損失を取り戻すのに十分な時間がありません。どのくらいの蓄えがあるかによっても投資と貯金の割合は変わりますが、60代を過ぎてからの運用はより慎重に行う必要があります。

株価が乱高下しても慌てて売らない

自分が持っている株の株価が大きく下がっているのを見ると、焦って売りたくなってしまうのが人間の心理です。けれど、下がっているからといって慌てて売るのは得策ではありません。

というのも、株価というのは日々上がったり下がったりしていて、突発的な理由で一時的に大きく下落することがあるからです。でも、しばらくすれば元に戻って、再び上昇することもよくあります(戻ってこないこともありますが)。

そのため、「ここまで下がったら売る」「長期運用だから、これくらい上がるまでは保有する」など、自分のなかに揺るぎないマイルールを持っておくことが、損失を抑えて投資を成功させるもっとも重要なことだといわれています。

損する可能性は自分で減らせる

いつまで経ってもお金が増えないことやインフレに弱いことが、貯金だけではもったいないと言われる理由です。

それに対して、株式投資をすれば資産を増やせる可能性がありますが、もちろん減ってしまうリスクもあります。そのため、「自分が背負えるだけのリスクの範囲内で投資をする」ことが何よりも大切です。

貯金と株式投資、それぞれのメリットとリスクを踏まえた上で、このまま貯金を続けていくのか、それとも株式投資にチャレンジするのかを考えてみてください。

[執筆者]井本ちひろ
井本ちひろ
[いもと・ちひろ]ライター。大学時代に得た経験とファイナンシャルプランナーの資格を活かし、お金に関する記事を中心に執筆。子育て中の母でもあり、主婦目線での資産運用に関心あり。夫ともに日々実践中。
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