コロナショックで上がる株・下がる株を見極める「物色の連想」

石津大希
2020年3月5日 9時38分

新型コロナウイルスに揺れる金融市場

世界中の注意を集めている新型コロナウイルス。中国の武漢を中心に感染は広がり、被害は世界中で広まりつつある。2月下旬から3月にかけて、イタリアや韓国、イランなどの国で感染者が急増したほか、多くの国で国内初の感染例が報告された。

アメリカでは3月4日(日本時間)、連邦準備制度理事会(FRB)が政策金利を0.5%引き下げることを決定した。臨時会合を開いての緊急利下げは、リーマンショックに端を発する金融危機直後の2008年10月以来、11年半ぶりだ。

欧州中央銀行(ECB)も経済への悪影響を考慮して利下げに踏み切るとみられており、各国の政府や企業も本格的に新型ウイルスの経済への悪影響に備えつつある。日本国内でも、小中高の休校に加えて東京五輪開催延期の可能性も伝えられ、投資家心理の悪化につながっている。

こういった進展を見せる新型コロナウイルスについて、株式市場でも大きな動きが出ている。これまで堅調なトレンドを保っていたアメリカ株は2月最終週に急落。これを受けて、ヨーロッパその他多くの株式市場も軟調な展開となり、これはリーマンショック後の冷え込みにも喩えられた。

その後、ダウ平均株価は、過去最大の上げ幅を見せたかと思うと、FRBによる緊急利下げには反落。さらに、アメリカ大統領選挙に向けた民主党予備選挙の「スーパーチューズデー」の結果を受けると、今度は一転して急反発するなど、めまぐるしい動きを見せている。

物色の連想が広まる「コロナ関連銘柄」

そんな中、日本の株式市場では「新型コロナウイルス関連」の物色連想が派生しつつある。

当初はHIS(エイチ・アイ・エス<9603>)やオープンドア<3926>といった旅行関連、資生堂<4911>やラオックス<8202>といったインバウンド消費関連が売られ、大木ヘルスケアホールディングス<3417>)や大幸薬品<4574>といった感染対策関連が買われるという流れだった。

しかし、感染拡大が進展する中で物色の連想はさらに膨らんでいく。

多くの企業が従業員に在宅勤務を指示するようになったことからブイキューブ<3681>やソフトフロントホールディングス<2321>といったテレワーク支援関連が、外出を控える風潮が強まる中では、IGポート<3791>などストリーミング映像関連のほか、ビーグリー<3981>やAmazia<4424>といった電子コミック関連も買われるようになった。

さらには、トイレットペーパーなどの日用品が品薄になるとの不安が広まる中で、バローホールディングス<9956>やマツモトキヨシホールディングス<3088>といった小売関連、ドラッグストア関連も大きく上昇する動きを見せた。

「内需・ディフェンシブ」に集まる資金

小売業種などでも売られる銘柄はあるが、基本的には、「海外経済の縮小懸念」を背景にして、外需・景気敏感業種から資金が多く流出し、内需・ディフェンシブ業種に資金が集まる、という構図だ。

2020年に入ってからの業種別騰落率を見てみると、下位は鉄鋼や海運、非鉄金属、空運、鉱業などが並び、上位には情報・通信や医薬品、卸売、不動産などが並ぶ。

「株式」と「債券」の対立で見れば、リスク選好が後退する場面では株式が売られ、債券が買われる。同様に、「外需・景気敏感」と「内需・ディフェンシブ」という区切りで見れば、足元の状況のように、一方が売られ、一方が買われるといった展開が頻繁に起こる。

このような対比的な値動きは、2019年では米中貿易摩擦の警戒感が高まる場面でも見られた。言い換えれば、今後もし同じように海外情勢リスクが高まるような場面が訪れた際にも、これと似たような対比的な動きが起こりやすいということだ。

こんなとき、個人投資家が注意すべきこと

こうした知識を持っておくと、相場の流れや各業種の値動きの背景を理解しやすくなるのだが、個人投資家の中には、自分の投資対象が「外需・景気敏感」か「内需・ディフェンシブ」かを意識せず、金融市場を賑わす材料について幅広く情報を収集している人が多いのではないだろうか。

特に、時間に余裕がなかったり、株主優待が主な目当てだったりすれば、海外情勢に関連する材料を詳細に追ったり、それらを背景とした各業種・各銘柄の値動きにまで気を配ったりするようなことは、あまりしないだろう。

だが、そこに思わぬ落とし穴が潜んでいることがある。

たとえば優待目当てで小売株を保有しているような投資家の場合、情報を頻繁にチェックする習慣がないと、現在のような内需株の上昇を目の当たりにしても、その理由になかなかピンと来ないことが多い。

そうなると、内需が買われる目先の相場を形成している海外リスク要因(現在で言えば新型コロナウイルスの感染拡大)が後退したときにも、それら内需株が値下がりする理由にピンと来ず、結果的に、せっかくの値上がり益を失うことになりかねないのだ。

たとえ海外経済と関連性の薄い内需・ディフェンシブ銘柄を保有していたとしても、株式市場そのものは海外情勢の影響を大きく、かつ幅広く受けることを認識し、上昇や下落の背景となっている海外材料についても注意を向ける姿勢を持つことが、損失を回避して利益を確実にすることにつながるだろう。

アナリストのひとり言

このように世界的に株式市場が荒れている場合、企業の業績予想や目標株価を考察するセルサイド・アナリストの業務は、非常に困難を極める。

  • 新型ウイルスの感染は終息するのか。するとしたら、それはいつなのか
  • それに伴い、各国の経済はどの程度の影響を受けるのか
  • その場合、各企業の業績にはどの程度の影響があるのか
  • 株式市場では、各業種のバリュエーションはどの程度に落ち着くのか
  • 各国政府や中央銀行はどのような対応をするのか。その結果、金融市場はどう影響を受けるのか

こういった要素すべてが不透明なため、仮に企業の業績予想や目標株価を設定できたとしても、それは仮定の上に仮定を重ねた結論のため、妥当性・客観性は大きく失われる。

基本的には、自分が担当している企業の経営陣などと意見交換をしながら、見通しの鮮明さを高めていくことになるのだが、多くの企業が業績見通しを非開示としているため、アナリストとしても依然として不鮮明な視界の中で、続報を待ちながら必死に考察の修正を繰り返すことになる。

要するに、個人投資家とさほど変わらない状況に置かれているということだ。アナリストのコメントを参照する際には、この点を頭に入れておいてほしい。

[執筆者]石津大希
石津大希
[いしづ・だいき]外資系投資顧問会社で株式アナリストとして勤務したのち独立。ファンダメンタルズ分析の経験を生かして、客観的データや事実に基づく内容を積極的に発信。市場で注目度の高いトピックを取り上げ、深く、そして、わかりやすく説明することを心がける。
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