暴落の原油、有事の金! コモディティ価格と株価の意外な関係

山下耕太郎
2020年4月22日 8時00分

コモディティ価格は株価に影響するのか

2020年は新型コロナウイルスによって、株式市場は大荒れの展開になっています。さらに、原油価格が17年ぶりの安値(3月18日時点)をつけたことも、株価の下落に拍車をかけました。

一方、安全資産とされる金の価格は上昇しています。

原油や金といったコモディティ市場の動向は、株式市場にも影響を与えると言われます。それは一体どういうことなのでしょうか。

そもそもコモディティ投資とは

コモディティ(Commodity)とは「商品」という意味で、コモディティ投資と言えば「商品先物」のことを指します。具体的には、以下のような種類があります。

  • エネルギー(原油・ガソリンなど)
  • 貴金属(金〔ゴールド〕、白金〔プラチナ〕など)
  • 穀物(大豆・とうもろこしなど)

これら商品価格の動向は、物価に大きな影響を及ぼします。商品価格が上昇すると物価も上がり、商品価格が下落すると物価は下がる傾向にあるからです。

物価が持続的に上がり続けることを「インフレーション(インフレ)」といい、下がり続けることを「デフレーション(デフレ)」といいます。つまり商品価格の動向は景気に大きな影響を与えるわけですが、株式や債券市場などの金融商品とはあまり連動性がないとの見方がありました。

しかし近年、金融市場のグローバル化が進んだことで、その相関性が指摘されるようになりました。特に金と原油について、株式市場との連動性が注目されています。

金と株価の関係

有事の金」とも呼ばれるように、世界経済が不透明感を増すほど金価格は上昇します。「有事の金」とは、1960~70年代の米ソ冷戦時代からいわれるようになりました。万が一、核戦争が起きても、実物資産である金は残ることから、「最後のよりどころ」として注目されたのです。

金は利息が付かないため、保有するだけでは資産を増やす力はありません。しかし、いざというときにこそ強みを発揮し、株式や債券などの資産の下落をカバーして上昇することが期待できます。

つまり金を保有するということは、資産を「守る」ことにつながるというわけです。さらに、従来の軍事的・政治的有事に加え、近年では経済的危機など「経済的有事」の際にも、実物資産としての強みを発揮するようになりました。

2008年のリーマンショック時、あらゆる資産が売られる中で金価格も一時的に下落しました。しかし、すぐに回復。金を保有していた投資家は、株式では損をしても、金価格の上昇によって資産全体の損失をカバーできたのです。

金価格と米ドルは逆相関

金価格は、アメリカの通貨である「米ドル」とも逆相関の関係にあると言われます。逆相関とは、逆の値動きをすることです。たとえば、米ドルの価値が上昇すると金価格は下落し、米ドルの価値が下落すると金価格は上昇する傾向にあるということです。

米ドルは、世界中で貿易や資金移動の際にもっとも広く使われている「基軸通貨」です。それに対して金は、どこの国をも発行元とせず、どこの国でも通貨として通用する「無国籍通貨」です。

つまり、米ドルと金はどちらも「世界で通用するお金」といえるのです。そのため、一方の価値が上がれば、もう一方の価値が下がる傾向がある、という逆相関になります。

米ドルの価値が強いかどうかを判断する材料のひとつに、アメリカの「金融政策」があります。

2008年のリーマンショックでは、世界中のあらゆる市場が壊滅的な打撃を受け、歴史的な暴落相場となりました。そこで、アメリカの中央銀行であるFRB(連邦準備制度理事会)は、大規模な金融緩和を行いました。

金融緩和とは、政策金利を引き下げたり、中央銀行が銀行から国債などの資産を買い取ったりすることで世の中に出回るお金を増やし、景気をよくしようとする政策です。

ただし、市場に資金(米ドル)を大量に供給するため、米ドルの価値の下落を招きます。米ドルの価値が下がると米ドルの信頼感が低下し、その不安感を埋めるように金を保有しようとする動きが強まります。こうして、アメリカの金融政策によって金価格が連動することにもなるのです。

原油と株価の関係

今回のコロナショックでは、原油価格も歴史的な安値をつけています。WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)の原油先物価格は年初に1バレル60ドルほどでしたが、3月に急落し、4月20日には史上初めてマイナス圏に陥りました。

理論的には、原油価格の下落は景気にプラスに働くはずですが、株式市場は現在の原油安を嫌気して下げています。なぜ、原油価格の下落が株価の下落を引き起こしているのでしょうか。

理由はいくつかあります。もっとも大きいのは原油を産出する企業の経営が行き詰まることへの不安です。新型コロナウイルスの感染拡大の悪影響は、消費やレジャーを控えるといった需要全体の減少が中心となります。さらに原油関連企業の破綻懸念が出てきたことで、株式市場が下落したのです。

また、原油に関わる企業の株価は、アメリカのダウ平均株価やS&P500といった主要株価指数に与える影響が大きいことも、マーケット全体に与える影響が強い要因となっているでしょう。

さらに、産油国が株式を売却するとの見方もあります。中東の産油国が築いてきた、いわゆる「オイルマネー」は2兆ドル(約220兆円)に達するという見方もあります。現在の原油価格では財政を支えきれないので、それらの国々が株式市場から資金を引き揚げるのではないかとの懸念があるのです。

金と原油の活用法

コモディティの中でも金と原油は、株式市場との関連性が指摘されるようになっていますが、その動向は異なります。

金をリスクヘッジとして保有しておけば、株式市場が大きく下落する局面でもいち早く上昇に転じ、ポートフォリオの損失をカバーしてくれるかもしれません。一方で、原油価格に左右されやすい関連銘柄のアメリカ市場などへの影響も注視しておく必要があるでしょう。

金融市場もグローバルになった昨今、株式だけ、日本株だけを取引している個人投資家であっても、金や原油といったコモディティの値動きにも気を配る必要が出てきたと言えるのかもしれません。ただし、目先の価格急変に慌てないためには、その背景にあるものを見極めるようとする意識が重要です。

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[執筆者]山下耕太郎
山下耕太郎
[やました・こうたろう]一橋大学経済学部卒業。証券会社でマーケットアナリスト・先物ディーラーを経て、個人投資家に転身。投資歴20年以上。現在は、日経225先物・オプションを中心に、現物株・FX・CFDなど幅広い商品で運用を行う。趣味は、ウィンドサーフィン。ツイッター@yanta2011 先物オプション奮闘日誌
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