原油急落でダウが暴落? 原油価格の動向が株価に与える影響とは

石津大希 2020/03/19 9:46

原油急落でダウが暴落?

新型コロナウイルスの感染が世界に広がり、アメリカ株の売りが勢いづいている。取引を一時停止するサーキットブレーカーが連日にように発動され、ダウ平均株価は過去最大の下落幅を記録するに至った。下落率も、1987年のブラックマンデー以来の大きさとなっている。

この暴落の背景には、感染拡大による景気見通しの悪化のほか、トランプ大統領が発表したヨーロッパらの入国禁止令など、非常に多くの要因があると考えられるが、その中で「原油価格の下落」もひとつの大きな要因となっているようだ。

原油価格は2020年に入り、中国を中心とした景気見通しの悪化を受けてエネルギー需要が世界的に縮小するとの見方が広まったことにより、軟調な推移を見せている。

さらに直近では、OPECプラス(加盟国+ロシアなど非加盟国)による減産協議が決裂し、その後、サウジアラビアとロシアが増産を表明したことで価格競争に突入するとの見方が強まっており、供給過剰への懸念が高まった。こうした流れを経て、原油先物相場では売りが続いている。

原油の下落がなぜダウの下落につながるのか

原油価格の下落がダウ平均株価の下落につながったのは、一言でいえば「リセッション(景気後退)懸念をさらに強めたから」となる。

原油は様々な経済活動の中で活用される。電気やガスといった生活インフラの稼働に必要とされるほか、生産活動や物流などにも不可欠だ。なかには原油そのものを原材料として製造する企業もある。

原油相場の下落は、この「経済活動における原油の需要量が減少する」という見方が広がったことによるものであり、ひいては「景気後退の局面に入る可能性が高い」と市場が考えていることを意味している。

新型コロナウイルスの感染拡大によってただでさえ経済成長の鈍化懸念が強まる中、「原油価格」というひとつの指標の大幅な悪化が、その懸念をさらに煽ったということになる。少し雑にいえば「原油の下落によって投資家の心配がより深まった」ということだ。

これが今回、原油価格の下落がダウ平均の下落に拍車をかけたメカニズムとみることができる。

そもそも「原油価格」とは

そもそも「原油価格」とは何なのだろうか。

一般的に原油価格といえば、「WTI原油先物価格」を指す。WTIとは「ウエスト・テキサス・インターミディエイト」の略で、アメリカのテキサス州とニューメキシコ州から採れる原油のアメリカ市場での先物価格である(ヨーロッパ経済と絡めて話す場合には、イギリス近郊の油田から採れるブレント原油の先物価格を指す場合もある)。

そして原油価格の騰落は、原油の「需要サイド」の変化なのか、「供給サイド」の変化なのかを考えることが重要となる。経済活動が鈍化する場合は「需要」が縮小することで価格が下落する一方、OPEC加盟国などの産油国が増産などをする場合には、原油の「供給」量が増えることで価格が下落する。

同じ原油の下落でも、需要と供給どちらの変化によるものなのかで、事情は全く異なるのだ。

原油価格が株価に及ぼす影響

今回のような例を見てしまうと、原油価格は株価にとって非常に重要な指標のように感じてしまうかもしれないが、実のところ、原油価格の変動そのものは大きな影響を及ぼすようなものではない。

確かに、原油などの資源を開発・精製・販売するような企業にとっては、収益悪化の懸念が高まることで株価の下落につながってしまう。しかし、ガソリンの値段が下がると一般消費者にとってはむしろ支出が抑えられるように、多くの企業にとって原油安は「低コスト化」につながる。

実際に、日本市場では3月第2週に日経平均株価とTOPIXが暴落する中で、原油安による収益性改善の寄与を大きく受ける電気・ガス業種やゴム製品業種は相対的に強いパフォーマンスを見せた。

ただ、原油下落の背景として「景気後退懸念による原油需要の縮小」という側面がある場合には、景気後退懸念がセットの材料となるので、当然ながら、企業業績の悪化に対する警戒感が強まる。ましてや直近のような暴落相場の状況では、ネガティブな意味で象徴的に捉えられ、さらに投資家心理を悪化させてしまう。

この「セットである」ことが、材料としての濃さを強めると考えるということだ。

個人投資家はどう向き合えばいいのか

個人投資家として原油価格の変動に向き合う際には、まずは「背景にあるのが需要サイドの変化なのか、供給サイドの変化なのか」に注目する必要がある。

需要縮小による原油下落は多くのケースで「景気が後退するかもしれない」という懸念がセットとなっており、株価指数は下落してしまいがちだ。一方、供給量増加に伴う原油下落の場合は、一部の石油株を除いて基本的には企業業績にとって低コスト化につながるポジティブな材料となり得る。

個人投資家にとって重要な指標としては、日経平均やTOPIX、マザーズ指数などのほか、世界の市場に大きな影響を与えるダウ平均やS&P500などが挙げられ、原油価格が注目されることは少ないかもしれない。

しかし、暴落相場の中で原油価格も市場の注目を集めるような状況となった際には、こうしたメカニズムに思考を巡らせることで、原油と相場全体の値動きの理屈を頭の中で整理することができるだろう。

アナリストのひとり言

今回のように原油価格の下落自体が株安の連鎖につながるというケースは、比較的珍しいように思う。

それだけ、現在の株式市場はリスク回避ムードが強く、過敏な状況になっているのだろう。根本的な警戒材料はもちろん「新型コロナウイルスの感染拡大」であり、ポジティブな情報が出てくるまでは大きな反転は見込めないかもしれない。

加えて、過剰にリスクオフな相場状況では、各材料とそれに対する市場の反応を結ぶ論理的な考察も、正直なところ意味は薄くなる。いわゆる「売りが売りを呼ぶような悪循環相場」は、そういった意味でもアナリストにとって嫌なものである。

ここでは株価急落局面での原油価格の値動きの影響を解説したが、あくまで最も影響力のある本命の材料は「新型コロナウイルスの感染動向」だ。近視眼的に原油相場を注視するのではなく、原油と株式の両方の軟調さにつながっている「景気後退懸念」を見据えて、情報を追い続ける姿勢が重要だと考える。

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(Chart by TradingView

2020/03/19
[執筆者]石津大希
石津大希
[いしづ・だいき]外資系投資顧問会社で株式アナリストとして勤務したのち独立。ファンダメンタルズ分析の経験を生かして、客観的データや事実に基づく内容を積極的に発信。市場で注目度の高いトピックを取り上げ、深く、そして、わかりやすく説明することを心がける。旧名義:星野涼太 →この執筆者の記事一覧へ

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